第七章 ね、言ったでしょ。暴走女、落ち着かせるには、好きだと、告白して、キスだって

第49話 救援! 頼れる先輩達!

『水取、彼女になってくれ、言った。嬉しかったのに! 彼女、違うけど、私にも、友達、出来る思って、嬉しかった! ひとりぼっち、違う、思ったのに、馬鹿! 水取の馬鹿!』


「う、お、お……」


 視界がぐわんぐわん揺れ、塀が波打ち、校門が歪み、世界が傾く。


 でも、ようやく掴みかけた手がかりを離してなるものか。


 氷上の声を聞きたい。

 氷上の見ているものを見たい。


 この願いは譲れない。


 俺は氷上の視界に意識を集中した。

 周囲は薄暗く、周囲には背の高い木が生えている。

 森の中だ。

 木々の隙間から、白い塀が見える。


「見つけたぞ、氷上」


『え?』


「この塀の直ぐ向こうにいるんだろ! 俺が追いかけてくるのを待っていたのか? それとも俺と一緒に帰りたくて、待ってたのか!」


 氷上の見ている景色は、ちょうど塀を挟んだ俺達の反対側だ。


 僅か十メートル。

 校門を迂回したとしても、せいぜい二十メートルだ。


 俺は自分視点の視界に戻すと校門に向かって走りだした。


「もう見失わないぞ。直ぐ捕まえてやる!」


『来ないで!』


 突如、門扉が閉じ始めた。

 門扉は、突進するサイのような勢いで俺と氷上の居る世界を分断しようとしている。


 氷上の、俺を拒絶しようとする想いが現実化しているのだ。

 けど、能力を解くわけにはいかない。

 いま能力を解除したら、せっかく俺とリンクした氷上の視界や思考まで途切れてしまう。


「くそっ。間に合わない!」


「心配無用なのじゃ。帰宅部取締委員会は、可哀想な子を放ってはおかんのじゃ」


 門扉の車輪がけたたましい音をかき鳴らしているというのに、小さくとも自信に溢れた頼もしい声は、ハッキリと俺の背中に届いた。


「あっ!」


 いったい、いつから潜んでいたのか。

 左右の門柱の陰から、ゴリラのような巨体が二つ飛びだした。


「水取よ、ここは任せろ! たかが門扉の一つや二つ押し返してみせる。なあ、雷神」


「……おう!」


「九重学園帰宅部取締委員会四天王、風神雷神兄弟、ここにあり!」


 風神先輩が左の、雷神先輩が右の迫り来る門扉に肩からぶつかり、ド、ドン、と大砲を連射するような轟音が炸裂した。


 機械仕掛けの巨大な門扉が次第に速度を落とし、二人の力自慢達の背中が触れようかというところで、ついに動きを止めた。


 柔道着を筋肉でぱんぱんに膨らませた風神先輩が叫ぶ。


「水取よ! 帰宅部を、取り締まってこい!」


 普段は寡黙な雷神先輩も、顔から汗を噴きだしながら叫ぶ。


「行けい!」


「はい! ありがとうございます! 先輩!」


 俺が二人の隙間から校門を突破する瞬間、両先輩が巨大な手で背中を叩いてくれた。


 ドガンという爆音と共に背中に生まれた熱い痺れが、俺の身体を勢いよく前へと送り出してくれた。


 俺は吹っ飛ぶように加速し、林の中に飛び込む。


 足場の悪さや、目の前に迫る木の枝、なにするものぞ!

 がむしゃらに全速力だ!

 絶対に追いついてみせる!


「氷上、姿を見せろ!」


『やだ!』


「おい、スカートで走るとパンツが見えるぞ! 見えた! 氷上のパンツ見えた!」


『そっちから、私の、姿、見えてない』


「氷上が辛い経験をしてきたのは分かるよ。でも、逃げちゃ駄目だ」


『逃げるな、は、強者の理論。私には、無理』


「お前はどっちかって言うと強者だろ。俺だって、辛い過去を抱えている。でも、今は、お前がウザがるくらい元気だぞ!」


『ウザい自覚、あるなら、少し、自重、して』


「俺が護ってやるから! 安心しろ。俺、実は、強いぞ。なかなかお披露目する機会がないだけで、頼れる存在だぞ!」


『自分で、言うな。私のこと、なんか、放っておいて!』


「そんな弱い言葉、お前には似合わない!」


『水取が、私の、何を知ってる!』


「知らないよ! だから、知りたくて、仲良くなりたくて、追いかけているんだろ!」


 突如、空間が開けて、野生の不良が現れた。

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