第47話 推理! 名探偵光亜麗は氷上の居場所を見つける!
「やっぱり、氷上はとっくに校門を出てしまったんじゃ」
「紅様、焦りは禁物です。冷静に考えましょう。紅様はここまで全力疾走して来ました。未だ息も落ち着いていないくらいですわよね。しょぼくれて歩いていた美月さんを追い越した可能性が高いですわ。消えたいなんて思っていた人が、全力疾走したと思います?」
黄金のドリルを揺らしながら名探偵が両手を広げて「焦っているときこそ、冷静になりましょう」と、推理を続ける。
「美月さんは背後から走ってきた紅様をやり過ごします。その後、校門を抜けようとここまで歩いてきました。ですが、私達が校門前にいるのを見つけます。さあ、美月さんみたいに計算高い方が、私達に気付かれる危険を冒してまで、通り抜けようとするでしょうか。私達がいなくなるのを待つため、近くで身を潜めているはずですわ」
先輩は通路端の芝生へ向かうと、左腕で空間を凪いだ。
「例えば、日陰になっている、この辺りとか」
ぺちっ。
何も無いところから「痛ッ……」と間抜けな声がした。
「きゃっ」
先輩がびっくりして手を引っ込めた。
「ん?」
俺は芝生の上を睨む。
なんか、芝生にちっちゃい足の形が二つある。
いかにも、透明なちびっ子がいそうな感じだ。
しまったという感じの「あ……」が漏れ聞こえる。
「氷上ーっ!」
合法的に抱き付くチャンスだから、俺は遠慮なく腕を広げてダイブ。
だが残念、空を切った。
先輩も腕を振っているが、空振りのようだ。
すぐ近くにいるはずなのに、氷上は小柄ですばしっこいからなかなか捕まらない。
「おい、氷上、何処だ。姿を現せ! いじめなんて気にするな。俺が護ってやるから!」
「美月さん、そう簡単に帰れるとは思わないことですわ」
先輩が校門に駆け寄り、柱に付いている金属製の箱を開けた。
箱の中には、校門の開閉に使うであろうカード読み取り機と、電話があった。
先輩は受話器を手にすると、まくしたてる。
「もしもし、守衛さんですか。私、高等部二年の天堂院光亜麗と申します。外門を閉じてください。馬術部の馬が一頭、行方不明です。敷地内に逃げてしまった可能性があります。はい。お願いします」
受話器を下ろした先輩が校門前に陣取る。
「美月さん、聞こえていらっしゃるかしら。外門は閉じましたわ。いくら内門を突破しても、学園の敷地内からは出られませんわよ。貴方も知ってのとおり、学園を覆う塀は、能力者の通行を一箇所に限定するための結界です。校門以外からは出られません」
「あの、良いんですか」
「教師の能力で作った強力な結界です。簡単には破れませんわ」
「いや、そうじゃなくて、馬が逃げたなんて嘘を吐いて、あとで怒られません?」
「問題ありません。馬術部には知り合いがいますし、後で私の勘違いだったと謝れば済む話です。重要なのは、これで氷上さんが学園から出ることは不可能になったということです」
説明しながら先輩はスマホを取りだして、何やら操作する。
「お、おおー」
「なんですの?」
「いや、さすが光亜麗先輩。凄く頼りになるなあって」
「当たり前ですわ。先輩とは、頼りになる存在のことです」
「氷上、聞いたか? 光亜麗先輩だけでなく、俺もいるぞ。逃げ切れると思うなよ。絶対にお前を一人になんか、してやるものか!」
相変わらず無視。だが、必ず近くで聞いたはずだ。
俺は地面のコンクリートを見つめ、僅かな砂埃の乱れや足音を見落とさないように警戒する。
氷上は未だ近くで、俺達に居場所を悟られないように、じっとしているはずだ。
絶対に逃がすものか。
「もしもし、天堂院です。……インコちゃんではありません。光亜麗です。力を貸してください。重度の帰宅部員が現れました。早めに手を打たないと大変なことになります。……え、百もみもみ? ……せめて、五十くらいに。……いえ。いえ、分かりました……。分かりましたわ! 可愛い後輩のためです。百で構いませんから力を貸してください!」
何故か頬を赤く染めた先輩が、やけっぱちな様子でスマホを仕舞うのと同時に、すぐ近くの茂みががさりと動いた。
まさかと思ったが、予想の人物とは月とすっぽんな美人が現れた。
「しかと約束したのじゃ」
髪の毛や制服を葉っぱまみれにした卑弥呼先輩が、両手をわきわきさせながら出てくる。
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