第30話 縞々! 至高にして究極のパンツの模様!
氷上の前では興味のないふりをしたけど、人生初のラブレターは俺のテンションを鰻登りにしているぞ!
「ラ、ラ、ラブレター! 私の初めてのキスを貰ってくださいなんて迫ってきたらどうしよう。氷上より先にキスしちゃったら、嫉妬しちゃうかな。どうしよう。モテすぎてごめん!」
幸い、北館の裏庭は位置が分かっているから好都合だ。
入学してから二日目に氷上と光亜麗先輩が戦った場所だ。
「二人の彼女が俺を取り合った場所で、三人目の彼女が出来るかもしれない。なんて幸運な運命だ。さては愛の女神が俺を祝福してるな!」
通りを曲がると、柔らかな日差しに包まれた芝生の上に、髪の短い子が立っていた。
スカートのプリーツがパリッとしていて新品のようだから、同級生だろう。
「あの、手紙をくれたのって、君? 何の用かな」
「も、水取しゃん、私と付き合ってくだしゃっ……えへへ、噛んじゃった」
あざと可愛い!
少女は舌を出して微笑む仕草をしてから、仕切り直す。
「私、初めて会ったときから、水取さんのことが、きゃっ」
少女は俺の方にやってこようとして、転んでしまった。
しかも、前方にではなく、脚を前に跳ね上げるようにして尻餅をついてしまったので、パンツが丸見えだ。
「あっ! 今朝、ぶつかった子!」
「は、はわわ……。パンツ見られて、思いだされるなんて、恥ずかしすぎるよう。私の馬鹿、馬鹿、馬鹿」
縞パンちゃんは頭をポカポカと叩き始める。
まるでアニメから出てきたみたいな仕草だ。
「さ、先にパンツを隠した方が良いよ」
俺の口は紳士に振る舞っているが、両目は水色と白の縞々が織りなす起伏にロックオン。
「あわわ、恥ずかしいですう」
縞パンちゃんは顔を両手で覆い隠して、もじもじと上半身を振っている。
「やはり、パンツは縞に限る。白と水色。縞の間隔は指一本分。完璧だ」
俺が顔を近づけようとした瞬間、小さい物体が目の前を高速で横切った。
「うわっ」
「こ、こここ!」
横合いからガタガタ声が響くから何事かと思えば、植え込みの中から顔を真っ赤にした金髪の美少女が勢いよく出てきた。
「紅様! いったい何をしているんですの!」
「えっ? 光亜麗先輩こそ、茂みの中でいったい何を」
何の前触れもなくいきなり現れた光亜麗先輩が、白も黒もタイツは邪道だと言わんばかりに瑞々しい生足で、ずんずん近づいてくる。
お腰に付けたのはきびだんご、ではなく氷上だ。
光亜麗先輩は腰にしがみついた氷上を引きずったまま健脚を披露する。
途中で氷上は細い腰から脱落して、顔からべちょっと地面に落ち、お尻を浮かせたヨガポーズで固まった。
「そこの貴方。見苦しいからさっさと下着を隠しなさい! 紅様が迷惑していますわ!」
「て、天堂院さん……」
縞パンちゃんは突如乱入してきた先輩を見上げると、慌てて足を閉じた。
俺は、氷上の傍らにしゃがみ、肩をつつく。
「氷上、もしかして、俺が浮気しないか気になって覗きに来たの?」
「ち、違う。帰る途中、先輩に、遭遇して、逃げてきた。こっちに来たの、偶然」
「俺には二人が登場したとき、光亜麗先輩が飛びだそうとするのを、氷上が止めようとしていたように見えたんだけど。まるで二人が隠れて俺達の様子を覗き見していたかのようだった」
「気のせい。茂みの中で、組み合う、激しい、戦いだった」
俺が差し伸べた手を無視して起きあがった氷上は、確かに、激しい戦いがあったのか、顔がやや赤らんでいる。
縞パンちゃんは先輩の手を取ったまま、立ち上がる気配はない。
「ああ。天堂院さんに優しく手を握ってもらえる日がくるなんて……」
「え、あの……。早く立ちなさい」
「そこの人、相手、違う」
氷上がとてとてと近づいて、トンファーを突っ込んで二人の手を引き離す。
「貴方は、水取に、告白中。相手、間違えちゃ、駄目」
「はっ! そ、そうでした。てへっ」
「水取、彼女と、ちゅっちゅ、すべき。お付き合いすべき」
氷上が繁殖期の招き猫みたいに、手をくいっくいっと素早く動かして、俺を誘ってくる。
「え?」
「ん?」
二人の行動が奇妙に思えたのは俺だけではないらしい。俺は先輩と目を合わせて一緒に首をかしげる。
「何だか、あの二人、変ですよね。妙に息があっているというか」
「ええ。共犯が互いにミスをフォローしあっているかのような胡散臭さですわ」
「変、違う。共犯、違う。初対面」
「酷いよう。私、別に変じゃないですよう」
縞パンちゃんが立ち上がり、両手を身体の前に持ってきて腰をふりふり、潔白を証明しようとしている。
怪しいんだけど追求する糸口が無くて困っていると、不意に突風が吹いた。
春一番というやつかもしれない。
氷上はジャージだから論外、俺の視線は自画自賛したくなるほど滑らかな動きで、光亜麗先輩のスカートを中央に補足した。
「きゃっ」
非常に惜しいが、先輩がスカートを押さえてしまったので、ギリギリのところで見えない。
だが、不思議なことが起こった。
俺の「くそっ、見えなかった!」という嘆きの他に、「あとちょっとだったのに!」という、明らかに男の声が凄く近くから聞こえたのだ。
「え? 今の声って誰? 男の声だよな?」
先輩は顔を赤くして「み、見えました?」と俺に、チラチラと視線を送っている。
氷上は額を抑えて「あちゃー」と、何かを残念がっている。
縞パン少女は顔を引きつらせて、ゆっくりと後ろに下がっている。
「待って、待って。今の男の声、誰?」
疑っている発言をしつつも、怪しい人物ははっきりしているから、俺は改めて、縞パンちゃんの頭からつま先までじっくりと眺める。
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