第28話 美脚! 卑弥呼先輩のタイツあんよは美しい!

 無口な雷神先輩は元より、風神先輩まで口を開いたまま、声を無くしている。


 売店にももぐっていた、生き残りの生徒達まで動きを止め、俺達の様子を窺っているようだ。


「え、あの、何でしーんってなってるんですか? ちょっ。何ですか風神先輩、その感極まったかのような涙は」


「水取よ、光栄に思え。卑弥呼様から二つ名を頂くのは、九重学園の生徒にとって最高の栄誉だぞ……」


「大げさに言うでない。それよりも、ほれ」


 周囲がざわめく中で、卑弥呼先輩は俺の手にした紙袋に鼻を近づけ、そわそわと上半身を揺らしている。


「ほれ、ティアーモ。はよう。跪き、妾にイチゴバニラクリームパンとイチゴオレを献上するのじゃ」


「は、はい」


 先輩の弾む声には催眠誘導する効果でもあるのか、俺の体は勝手に言いなりになってしまう。


「うむ。ご苦労じゃ。ほれ、釣りはいらんぞ。褒美じゃ。飴ちゃんでも買って、舐めるが良かろ」


「はい! ありがとうございます!」


 紙袋を渡すときに指先が触れてしまい、ドキドキしてしまった。


 顔を上げようとしたら、黒タイツの太ももが目に飛び込んできてしまい、目が離せなくなる。


「無垢と若さの黒タイツ包み果実ソースがけ……。芳醇な香りに柔らかな肉質。でも、やや細いか? 筋肉の付き方が、運動をしている人のようには思えないな。かといって無理なダイエットをしているわけでもなく、理想的なスタイルを維持しているとは驚きだ」


「まさか、妾のあんよを目の前で品評されるとは思わなかったのじゃ」


 おでこをペチンと叩かれた。ひんやりする程に気持ちいい卑弥呼先輩の手が、おでこに触れている。


「す、すみません。卑弥呼先輩の透き通る肌をタイツで隠すのがもったいないと考える内に、声に出てしまいました」


 先輩はまんざらでも無さそうにはにかんだ。


「あまり褒めるでない。この学園にはインコちゃんがおるでな。比べられるのが恥ずかしくて、脚など出せんのじゃ」


「インコちゃん? 卑弥呼先輩の美貌に匹敵するような女性が、光亜麗先輩の他にもいるなんて……」


「コアラちゃんのことじゃよ。苗字と名前を繋げると、インコになるであろ。それに、ベッドで妾が可愛がってやると、インコのように愛らしい声で鳴くのじゃ」


 くふっと笑うあどけなさに釣られて、俺はほんわかしてしまったため、ベッドで可愛がるという言葉の意味を聞くタイミングを逸してしまった。


 周囲の男子から「何故聞かないのか」という無言のプレッシャーが届いてくる。

 あ、無言じゃない。

 脳に直接聞こえてくる声もある。

 意思を他人に伝える的な能力者が購買部周辺にいるな。


「インコちゃんの太ももは反則じゃよ。眺めているだけでは満足できぬでのう。こう、ふにふに、ぷにぷに、ちゅっちゅっしてしまうのじゃ。……さて。長話が過ぎたの。妾はひもじいのじゃ。ティアーモ、では、またのう。妾の美しさに見惚れて、何もないところで転んだりするでないぞ」


 軽く微笑むと先輩は背を向け、ゆっくりと歩きだした。


 くるぶしまである黒髪を、まるで十二単のように背に纏っている。


 付き従う風神雷神先輩は巫女を護る兵士のような迫力だ。


 先輩達が立ち去ってから、ふと掌を開くと、百円玉一個と五十円玉一個が有った。


「えっと。イチゴオレ税込み百十円。イチゴバニラクリームパンが百三十円で、半額セールだから……あれ、何円になるんだ? まあいっか、あとで氷上に計算してもらおう」


 というか、風神先輩と雷神先輩のお金、貰ってないッ!

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