第24話 連帰! 氷上さん大勝利! 俺達は今日も帰宅する!

「水取、行け」


「お、おう!」


 俺は、おどろくほどあっさりと、ライン代わりに置いてあった木の枝を跨ぎ越した。


 最初の約束では、一歩でも先輩を抜けば、俺達の帰宅を認めることになっている。


「よし、抜けた! 俺達の勝ちだ!」


「しまった! この我が抜かれるとは! 殺戮のミドガルズオルム、一生の不覚!」


 岩のような巨体を揺らしながら、水戸先輩が地に膝をついた。


「帰宅部、肛門破りの氷上! 貴様の顔、覚えておくぞ! ご神棒は我のものだあ!」


 先輩は他の部員達と同じように茂みへと飛び込んで、林道から姿を消した。


「ごしんぼう? 光亜麗先輩の太ももにすら反応しなかった水戸先輩が、いったい何で気を取られたんだ?」


「知らない方が、幸せ。いや、むしろ、知って、そっち、興味持つ、ありかも。くふふ……」


 氷上が鼻を押さえながらやってきた。アメフト部員がいなくなったとはいえ、まだ異臭が立ちこめている。


「天堂院先輩の、太ももに、反応しなかったことこそ、彼らの、弱点。女子でも、見とれちゃうほど、綺麗な太ももに、反応しない、男子なんて、ありえない。ありえないから、こそ、彼らは、きたくぶの、敵ではない」


 くくくっ、と氷上が腐った笑みを浮かべる。

 何だ。いったい何を言っているのかさっぱりだ。

 何で、水戸先輩達は、風神雷神先輩のケツに突き刺された棒なんかを探しているんだ?!


 分からないことだらけだ……。けど、俺達は勝った。

 帰ろう……!


「お待ちなさい」


 その場を去ろうとする俺達を、背後から光亜麗先輩の声が呼び止める。


「あ、光亜麗先輩も一緒に帰ります? 荷物を取ってくるなら待ちますよ」


「いくら紅様のお誘いでも、お断りいたしますわ。私には水泳部の練習がありますから」


「まさか、未だ、取り締まり、する、つもり? 武克力5040の、ミドガルオルムズ先輩、倒した、私に、勝てるとでも?」


 氷上の発言にかぶせるようにして、昨日聞いたのと同じオウムの声が森の中から「氷上美月Eランク、武克力1700ニ認定」と告げた。


「ランク、低いまま、だけど、武克力は、1520の天堂院先輩を、超えた」


「強がるだけの気力は残っているようね。トンファーを失った貴方に、私のクォリンの弾丸を防ぐ手段があるのかしら?」


 先輩が腕を組んで笑い、寄せてあげるほどの胸がないことを実証している。


 負けじと氷上も胸を張る。寄せる努力すらする気がないであろう絶壁がそそり立つ。


「全て、避ける」


「強がりはよした方がよろしくてよ。今日の所は見逃して差し上げます。ですが、紅様、美月さん、私に取り締まられた方が良かったと、すぐに後悔することになりますわよ」


「肝に、銘じて、おく」


「お気をつけて。また会える日を楽しみにしておきますわ」


「光亜麗先輩、ありがとうございました!」


 先輩は踵を返すと学校に向かって去っていった。

 早歩きなのは、汗臭いここから少しでも早く離れたいからだろう。


「綺麗なだけでなく、なんか格好良い人だな」


「……まあ、概ね、認める」


 俺は、もう少しむっちりしたお尻の方が好きだなと思いながら、先輩の後ろ姿を見送った。

 お尻のむっちり具合は、光亜麗先輩より氷上の方が――


「痛いッ!」


 氷上が足をおもいっきり踏んで、さらに踵でぐりぐりと体重をかけてきた。


「声に、出てるし。お尻見すぎだし。水取、変態?」


「変態じゃないよ! 俺は、おっぱいよりお尻が好きなだけだ」


「それ、堂々と、言うこと、違う……。水取の、馬鹿!」


 氷上が肩を怒らせて歩きだすから、俺はご機嫌取りをしようと、追いかける。


「待てよ。トンファーを無くしたんだろ。なあ、代わりに使えそうな木でも探しに行かないか。木材を買うのだって高いだろ。近くに立派な木があるんだ」


「ううっ……」


 お、何だか、迷ってるぞ。


「仮に取締委員会に遭遇しても、学園の敷地内で木を探していれば、何かの部活のフリが出来るんじゃない?」


「水取のくせに、良いアイデアを……」


 そわそわと、袖をまさぐりだしたのは、トンファーを失って心細いからだろう。


 どうやら、新学期最初の終末に俺は帰宅デートを実現できるようだ。

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