第22話 策略! 光亜麗先輩の色香で敵を討つ!
「氷上、打開策はないのか?」
残念だが俺の能力は相性が悪すぎる。
思考を読み取ったとしても、先輩の攻撃は防げない。
俺の馬鹿な頭で考えうる作戦といえば、光亜麗先輩を抱っこして匂いを嗅ぎながら走ることだが、当然、著しく速度が落ちる。
「無理。時間稼ぎして、汗、ひくの待った、けど、大した効果、無かった」
先輩を交えての会話は単なる雑談ではなく、作戦だったらしい。
「水戸先輩、強敵。普段でさえ体臭が、きつそうなのに、ランニング直後、破壊力倍増中。さらに、道の両サイド、固めてる、メンバーも厄介。彼等らも、水戸先輩ほどじゃないけど、臭う。しかも、風上だから、木々の爽やかな空気を遮断してる」
「そうか。一見すると二対一で俺達が有利かと思っていたけど、数ではこっちが不利だったのか。いくら光亜麗先輩の優しい匂いでも、十人の汗には負ける。まさに打つ手無しか……。もし捕まったら……」
水戸先輩の腋にある黒いまだら模様が、猛獣の口のように巨大化している。
ランニング直後の汗は未だ止まっていなかったのか!
もし、先輩に抱きかかえられでもしたら、確実に身も心も汚染され廃人になってしまう。
「臭いだけでなく、ヌルヌルしてそうで、気持ち悪い……」
万策尽きたのか。氷上が目をうつろにしてガクガクブルブルと震えている。
「同性のよしみですわ。私に捕まりなさい。悪いようにはしませんわ」
光亜麗先輩の提案がベストだろう。
しかし、そうは問屋が卸さないようだ。
「小娘は黙っておれい! この取り締まりは既に、四天王最強の、殺戮のミドガルズオルムが預かっておる!」
「くっ……!」
水戸先輩が光亜麗先輩の助け船を、あっさりと壊して沈めてしまった。
それはそうと、「くっ……!」って言ったときの光亜麗先輩に女騎士味があってエロい。
「だいたい、卑弥呼女史のお気に入りとはいえ、二年が四天王に名を連ねることすら、不遜。何やら、そやつらと親しげな様子。帰宅幇助の罪で貴様も取り締まってくれるわ!」
「そんなっ!」
四天王の対立はありがたいことだが、光亜麗先輩を水戸先輩のような汗まみれの猛獣に捕獲させてはならない。
氷上も俺と同じ気持ちらしい。
俺たちは決意の光を宿した瞳で視線を交わし、頷きあう。
「行こう、氷上。玉砕だ!」
「天堂院先輩、助けて」
「えっ?」
意気込んだ俺とは裏腹に、氷上はプルプルと震えながら、光亜麗先輩の背後に隠れてしまった。
「最低だ! 氷上! 先輩を盾にするなよ! 迷惑をかけるなよ!」
「最低のそしりは、まだ、早い。……脱がす」
氷上は背後から、いきなり先輩のウインドブレイカーのパンツを膝まで引きずり下ろした。
「え?」と一瞬だけきょとんとした先輩は、「きゃあっ」と慌てて引き上げようとする。
「な、何をするんですの!」
「水取、行け、敵の意識が、先輩の太もも、集中している隙に! これを、受け取れ!」
氷上がスポーツタオルを放り投げてきた。
「これは、氷上のタオル! そうか! 匂いを嗅ぎながらなら! うおおおっ!」
俺はタオルで鼻と口を覆い、走りだす。
未使用新品のジャージと違って、スポーツタオルは何度か氷上が使用したはずだ!
洗い立てとはいえ、氷上の匂いが残っている!
「氷上、お前の優しく温かな匂いが俺の肺を満たした! 使用済みタオルに染み付いた匂い、受け取った!」
「し、使用済み、言うな!」
「美月さん、いい加減に、手を離しなさい!」
「うおおっ!」
視界が暗くなった。
俺が、水戸先輩の巨体が作り出す影の中に入ったのだ。
既に手が届く位置だろうが、怖れはない。
超絶美人の光亜麗先輩が下半身を晒したのだ。
先ほど間近で凝視した俺でさえ、まだ堪能し足りないくらいなのだから、アメフト部の視線は、もう釘付けに決まっている。
敵は俺が接近したことにすら気付いていないはずだ!
さらに背後から援護射撃が聞こえる。
「好きなら、水取のため、おっぱいくらい、出せ」
「おやめなさい! 色仕掛けをするのでしたら、貴方がスカートを捲って、下着でもお見せすれば良いでしょ!」
「ちょ、やめ、捲るな、見える」
後ろの女神と少女の戯れが気になってしょうがないが、振り返っては駄目だ。
自らを犠牲にしてでも、俺の勝利に賭けてくれた二人の想いに応えろ!
二人がはしたないことになればなるほど、水戸先輩の集中力は散漫になるはずだ!
「女神の美貌と、少女のあどけなさに心奪われたのが、先輩の敗因だ!」
目の前のゴールラインに向かって俺は足を大きく前に出す。
あと一歩!
勝てる――!
「くっくっくっ。甘いわ!」
「なにっ! うわああっ!」
勝利を確信した瞬間、水戸先輩の巨体が目の前に出現した。
俺は急に立ち止まれず、分厚い胸板に激突し、弾き返された。
数メートル宙を飛び、地面に落下後、何度もバウンドして転がる。
天地がぐるんぐるん入れ替わる。
「小娘の色香などに惑わされる我ではない」
何が起こったのか分からない。
水戸先輩は光亜麗先輩を見ても平気なのか?
氷上達の足下まで転がり続けて、ようやく俺の身体が止まった。
「ぐっ、うっ……」
「ば、馬鹿な、完璧な、作戦、だった、はず」
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