第16話 凝視! 先輩の美しすぎるデルタゾーン!
「何をぐずぐずしているんだ! 氷上! 俺のことは気にせず、先に行け!」
「……捕まったあと、アメフト部の、部室に、連れて行かれるよ?」
「よし、逃げる」
忠告に現実味があったので、俺はやはり全力で逃げることにした。
「お待ちなさい! 背後から撃つような真似はしたくありません! 止まりなさい!」
「お、追いつかれる……」
背後を一瞥した氷上が顔をしかめた。
足の長さが違いすぎるせいか、氷上よりも先輩の方が速い。
踏み込み速度や小回りといった敏捷性では氷上が勝っていたようだが、短距離走の最高速度では先輩に軍配が上がりそうだ。
おそらく、校舎の角を曲がっても、人込みに紛れる寸前で捕まるだろう。
「仕方ない……。先輩の、心を、折る」
氷上は立ち止まると、振り返って「あっ」とわざとらしく驚いた顔をした。
「先輩、下、はみ出てる。下、ドリルのように、はみ出てる」
「えっ!」と大声を漏らして、先輩の股間を凝視したのは俺。
当の先輩は「ふふふっ、二度も騙されませんわ!」と笑い声を高らかに上げる。
「私、まだ生えていませんので、はみ出すはずがありませんもの!」
「ええーっ」
作戦失敗した氷上が観念したのか、がっくりと脱力した。
「高校、二年生にもなって、未だって……」
「さあ、取り締まり、いたし、ま……。あ、あの紅様?」
「ん?」
先輩は急激に速度を落とし、歩幅を狭めて股を閉じていく。
俺の目の前ぎりぎりで、閉じた股が止まった。
「あ、あの、紅様、いったい、何処を……」
「あ、いやいや、誤解です。引き締まった太ももの肌がきめ細かすぎて、いったいどんなお手入れしているんだろうと思っていただけで、べ、別にエロい目で見ていたわけではないです!」
「ほ、本当ですか。で、ですが、あの、あまり、ジロジロ見ないでください……」
先輩は両手でウインドブレーカーの裾を降ろし、股を覆い隠してしまった。
それでも俺が凝視し続けていたら、先輩は振り返ってしまった。
お股の代わりに俺の眼前に現れたお尻は、きゅっと引き締まっていて、水着の食い込みを直したくなってしまう。
俺は常々思うんだけど、女の子のお尻と水着の間って、弾力と手触りのパラダイス革命が起きているんじゃないの?
指を入れてクイッて直すの、俺もやってみたい……!
「ナイス、水取、逃げる」
「え? あ、うん! もちろん、光亜麗先輩の足を止めるための作戦だぜ!」
「言い訳、いいから、走る。エロ、変態め……」
「おう!」
「み、見られるのは恥ずかしいですけれど、紅様が、どうしてもと仰るのなら、わ、私……。いえ、やはり無理です。恥ずかしくて死んでしまいますわ」
先輩の声がどんどん遠くなっていく。
どうやら股を押さえて、もじもじとしたまま、自分の世界に行ってしまったようだ。
俺達は角を曲がって裏庭から出る。
校舎が視界を遮る壁になるから、先輩は俺達を見失ったはずだ。
氷上が走るのを止めてゆっくり歩きになり、呼吸を整え始める。
「はあはあ……。少し休んだら、校門、突破する」
「俺達の行き先はバレているんだから、すぐ追いつかれるんじゃないの?」
「校舎の前まで行けば、人目が多い。いくら何でも、下半身水着で、追いかけて、こない。仮に来たとしても、先輩のファンを、けしかけるだけ。太もも見たさに、うじゃうじゃ殺到、妨害してくれる」
「一応言っておくと、俺は単にエロ目線だけで見ていたわけじゃないからな。光亜麗先輩の身体は、もう美術品の領域だ。芸術を愛でる、文化的な関心もあった」
「力説しすぎ……。まあ、あの先輩が、女の目から、見ても、綺麗で、見蕩れちゃうのは、認める……」
氷上はしょぼんと俯いてしまった。
さすがに励ます言葉は無かった。
お世辞で「氷上の方が綺麗だ」と言うのは簡単だ。
けど俺は、好きな相手に嘘を吐きたくない。
どうあがいても日本の女子高生が、光亜麗先輩に美しさで勝てるはずがない。
昨日見た卑弥呼先輩みたいに純和風の大和撫子なら、別種の魅力で勝てるだろう。
けど、足の長さとか身体の細さとかは、もう勝負にならない。
でも氷上、卑下して嘆くのは未だ早いぞ。
お前の目は綺麗だ。
俺が今までに出会った人間の中で、最も美しい。
長い前髪からたまにお前の瞳が覗くたびに、俺は、ドキドキと胸が高鳴るんだ。
チョコレートのように甘そうな隈がちらりと見えただけで、俺は味を想像してしまって、唾液が止まらなくなってしまうんだ。
「水取、声に出てる……」
「えっ?」
「さっきから、考え、だだ漏れ。キモすぎる……。真性の変態……」
「お、俺、なに言ってた?」
「光亜麗先輩が美人すぎて辛いって言ってた」
「確かに言ったかもしれないけど、氷上のことも褒めていたはずだぞ?」
「さあ?」
ぷいっとそっぽを向いて早歩きになってしまったので、氷上がどんな表情をしているのかは分からない。
けど、怒っているようには見えない。
「おい、待てよ」
「声、大きい。校門、間近。目立たないようにして」
人に目立つなと言っておきながら、弾むような歩き方をしているのは気のせいだろうか。
正直に認めろよ。
俺の心の声が聞こえていて嬉しかったんだろ?
褒められて満更でもなかったんだろ?
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