第14話 流麗! 光亜麗先輩の遠距離射撃!
「ふっ、ふふっ……」
「あの、光亜麗先輩?」
「ええ、紅様。言わずとも分かっております。姦計にて私と紅様との仲を引き裂こうとする悪女は、そこのメガネザルさん!」
光亜麗先輩が白くて細い指をビシッと向けると。
「貴方が紅様を色香で惑わして、帰宅部などという不埒な活動に勧誘したのですわね!」
「ち、違う、私、色香、ない」
氷上が首と両手を振って、大げさに否定する。
「ええ、たとえ寸胴ちびの胸無しでも、純情な紅様は惑わされてしまったのでしょう」
「人の話、聞け。それに、水取、純情、違う。エロ、馬鹿」
「九重学園帰宅部取締委員会四天王、水の天堂院光亜麗! 取り締まりいたしますわ!」
宣言と同時に、光亜麗先輩のドリルツーテールが回転しギュギュンッと鳴る。
先輩は突撃を命令する指揮官のように、一度上げた右腕を氷上に向けて降ろす。
次の瞬間、氷上の眼前で、パキンッ、パキンッと小さな音がして、何かが破裂した。
「ええーっ。また、四天王って……」
氷上は袖から取りだしたトンファーを構えている。
先輩が小さい石ころのようなものを投擲して、氷上がトンファーで打ち砕いたのだ。
「先ほど触れた肩、妙に硬かったからもしやと思えば、やはり武器を隠していましたわね」
先輩が右手の人差し指と中指を合わせて氷上に向ける。
「ちょ、まじ、やめ」
氷上が腰をくの字に折ると、背後の常緑樹をガサリと揺らした。
先輩が飛び道具を放ったようだ。
「あら。あらあら」
光亜麗先輩が腕を下ろし、再び上げる。
すると氷上は熱した鉄板でも踏んだかのように跳びはね、直後芝生が小さく破裂して地肌を露出。
次に、氷上がトンファーを胴の前で振ると、カンッという音と共に何かが砕けて、白い粉が霧のように散った。
理不尽なことに、一連の派手な動作の中で、氷上の膝丈スカートは、俺の視線を満足させてはくれなかった。
膝小僧はちらちらしているんだから、もっと上まで捲れ上がってくれればいいのに。
「あら、器用に避けるのね。どうやら偶然ではないようですわね。九重学園帰宅部取締委員会四天王の中でも最速と謳われる、私、水の天堂院光亜麗の攻撃をここまで耐えるなんて、お見事ですわ」
光亜麗先輩が両手を合わせて上品に微笑み、戦火が一旦、途切れる。
「水泳部だから、属性が水って、安易な。……というか、名前的に、天か光にすべき」
「生意気な口を利くだけのことはありますわね。私の、クォリンの弾丸を防いだことは褒めて差し上げますわ」
二人の世界が始まりつつあるから、忘れられる前に俺も会話に参加しよう。
「俺も、光亜麗先輩は、綺麗だから光が似合うと思いますよ!」
「ああっ、紅様に華麗で美しく女神のようだと言っていただけるなんて、私、幸せですわ。しばしお待ちを。メガネザルさんを成敗いたしましたら、私、紅様だけの芸術作品になりますので、存分にご鑑賞遊ばせませ!」
光亜麗先輩が俺の方へ体を向けると、その勢いで金髪ドリルがふわっと揺れて、陽の中でキラキラと輝く。満面の笑顔も、同じくらい瞬いている。
美人は華があるなあと思っている俺とは異なる評価を抱いたらしき、氷上が口をむにゅっと尖らせる。
「ええーっ。何か、残念美人……」
「誰が、残念ですの!」
先輩が腕を振り、メガネザル系のちびっ子の足下で土が爆ぜた。
「黙って逃げれば良いのに、わざわざ突っ込みを入れるなんて、氷上はお人好しだよなあ。いや、まあ、外見に反して光亜麗先輩は面白い人だって分かってきたし、ギャップ萌え? つい反応したくなる気持ちは分かる」
ところで、俺、またバトル漫画の解説役ポジションになっちゃいそう。
先輩が腕を振るう度に、氷上が下手糞な盆踊りのように飛び跳ねたり、フェレットのように腰をくにゃんと折ったりする。
「……ん? 何だ? 何かの匂いがする。……プールの匂い?」
小学生の頃に嗅いだ記憶の有る刺激臭が鼻をくすぐる。
「あ、ああ、そういうことか」
目をこらしたら、先輩が投擲している物の正体が分かった。
プールに入れる消毒用の塩素だ。
光亜麗先輩が舞うように、次々と弾丸を投擲する。
裏庭が、まるでダンスホールになってしまったかと錯覚しかねないほどに、優雅な仕草だ。
一方の氷上は、田舎の盆踊りかどじょうすくいだ。
でも、意外なことに先輩のアン、ドゥ、トワと、氷上のよっ、はっ、ほっのリズムが一緒なので、二人は和洋混合の創作ダンスを踊っているみたいに、噛みあう。
「いくら手加減しているとはいえ、Aランク武克力1520の私と、それなりに渡り合うとは、なかなかやりますわね! メガネザルさん、貴方のランクと武克力を教えていただけないかしら?」
「Eランク。1500」
「せ、1000超えの新入生? 貴方、いったい何者です!」
「ふ、ふふ……。ただの、きたくぶ」
「帰宅部がどうやって武克力を1500まで高めたのか、聞く必要がありそうですわね」
二人のダンスを俺は離れた位置から鑑賞するだけだ。
「やー二人とも、楽しそうですねー。活き活きとしていますよ」
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