第14話後編四
と、まぁなんというか夢というものは、妙にリアルなことが多い訳で。何しろ夢見心地の間はそれが本当のことと本人は思っているのだからしようがない。夢から覚めなければ、それは即ちその人にとっては現実なのであって、事実なのある。とはいっても、そんな難しいことは俺にもよくわからないのであって、自分にとって現実と思っていることが現実なのである訳で、現実ではないという事実があるなら、他人の証言によって否定されているだけのことなのだ。
一人の証言ならまだ間違いということもあるだろうけれども、数千数万数億の人々が証言しているのであれば、歴史的事実などは、それが例え嘘であったとしても、人間にとっては現実であって、現実なのであろう。以上。
ということで、俺は俺の夢の中の現実を夢と認定しましたので、めでたく、おかしな女も地球の滅亡の危機も、おまわりさんの性癖も、全ては夢ということで、一件落着させて解決いたしました。この後、例え俺が目を覚まさなかったとしても、夢の中で幸せに最後を迎えるのであれば、それはそれで幸せなことなのです。それでは皆さま、おめでとうございます。ごめんあそばせ。おやすみなさい。
とまぁ、バイトのシフトを気にしつつも、心地よい二度寝へと突入した俺に対し、夢の中の大家さんは早速、言うのである。
「あんたももう一人じゃないんだし、頑張って働かなきゃいけないねぇ」
などと、のたまわれる。いやいや、俺はいままでも自分の健康な
いやいやいやいや、俺はまだこのおかしな女に足の親指と左手しか肌は触れていないし。第一これは夢ですからと、手を顔の前で左右に振って否定をした。今、夢の中で夢の中の過去を思い出している俺も『夢でなかったら地球滅亡してしまいますやん。困りますやん』と、夢であることをいいことに、日頃なら絶対服従の大家さんに対して逆らってやった。どうだい、ざまあみろ! 家賃も
「この子に名前までつけてあげたそうじゃないですか。千鳥さんもとても喜んでらっしゃいますよ」と、民生委員さんの援護射撃が俺の正面、十時方向から炸裂する。
――勿論それは事実である、事実であるから、俺は正論には滅法弱いのであって。十字砲火に対し反撃の糸口さえも見出せない。
「いや、そんな事はありませんですます……はい」と、ここは愛想よく頷くしかしようがない。
「そりゃあそうだろうよ。一人前の男が、こんな可愛いお嬢さんと同棲して、指一本触れてないなんて言い訳が通る訳がない。おかしな性癖でも持っていない限り、ありゃしないじゃないか!」
「いや……それはその」
俺は益々追い詰められてゆく。夢の中だというのに……。
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