第9話中編四
流石は大家さんである。油断は大敵である。体力だけなら自信があるこの俺の、流石は天敵だけのことはある。
唯一の救いである(これも罠に違いないのだが……)大家さんのご機嫌そうな表情に、テンパった俺の滑舌はテフロン加工されたかのように滑らかに滑ってゆくるるるる。
「そいつはよかった、割といけますでしょう。その芋けんぴ」
「あたしゃあ、黒棒かゲタの歯がよかったねぇ。入れ歯だからさ」
「うへぇ、そいつぁ気が付きませんで! 次はちゃんと用意しておきますですはい。で、今日の寄り合いの議題は何でございましょうか?」
俺の軽快な話術に、いかな大家さんであっても態度は軟化する。
「そう、それよ! 主役のあんたが帰ってくるのをさ、あたしがお茶煎れてずっと待ってたんだからね、さぁ早くお座り。おまわりさんも、そんなところに突っ立って鼻血流してないで、お座りよ」
大家さんはまるでこの部屋の主人でもあるかのような、大柄――余裕ある態度で、俺たち三人に座るよう促した。
ふっ、計画成功である。大家さんの立派なお腹――もとい貫禄に、流石の手負いの狼、日本のおまわりさんであっても、ひょいひょいと俺を女と挟んで三人
勝った! 俺は心の中で、喜びのガッツポーズの舞をしっかりと決めていた。
大家さんに対し、これ以上下げられない腰の代わりに、腰を曲げ低~く頭を下げた俺は、一メートル角程の正方形のちゃぶ台を囲む大家さんを含め五人の見知らぬ皆さんに遠慮がちに空いている角っこに座ったところ、大家さんは俺に壁を背中にして正面に座れと命じた。
見知らぬ皆さんが息を合わせ場所を空ける。皆いい御齢を召した身なりの整った見知らぬ皆さんである。これは不味い! 何か
その俺の最強スキルである危険予知能力は、天敵大家さんによって、いとも簡単に封じられてしまっていたことに気付いたときには、もう遅かった。どんなに逃げ出したくても、ここは俺の部屋である。目の前に鎮座する大家さんに、一ヶ月分の家賃が未払いの、れっきとした俺の部屋なのである。
それもロケーションときたら、壁を背に、ちゃぶ台を隔て大家さんを正面に、くの字を通り越してからだをг記号にまで曲げ頭を下げまくっている俺の左側には、あのおかしな女が。右側には9mm.38スペシャル弾の実包五発を装填し、何時でも発射オーラーイの黒光りも鮮やかな、警察庁ご用達M360J拳銃を腰にひっ下げた日本国の頼もしい、おまわりさんがドッカと座らされているのである。
これは罠だ! 俺の頭の中の警報機はけたたましく鳴り響き、赤色回転灯はぐるんぐるんと回っていた。
しかし、しかしである。逃げ場は既に封じられているのである、
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