第7話中編二
すると、俺が帰ってきたのをあらかじめ察知していたのであろう。俺が玄関に入った刹那、素早く獲物を捕捉し襲いかかる野獣のように、ぶっかぶっかで何が書いてあるのかよくわからないロゴの、よくある安っぽいトレーナーを着たあの女が俺へ目がけ、「おっかえり!」と奇声をあげながら飛びついてきたではないか!
突然の宇宙人、いやチマチョゴリでもないチュパカブラである未確認生命体に俺は襲われたのである。
未知の生物、女体との第三種接近遭遇に襲われ、哀れにも仰向けに倒れこんだ俺は、なんと無慈悲にも女に馬乗り状態のマウントポジションを取られてしまっていたのである。
なんという一生の不覚、俺は圧倒的に不利な状況に追い込まれてしまっている。
俺の後ろに控えていた筈のおまわりさん(童貞)は、薄情にも、つい今しがたまで親友であった俺をとっとと見捨ててロープではなく共通通路にまで飛び退くと、危うく手摺からリング下へ転落しないか、俺から心配されるほどに取り乱した魂の抜け殻、放心状態に陥いっている有様であった。
それも、この俺さえも未だ、お目に掛かっていないという、前屈みになった女のブッカブッカのトレーナーの、すっかり伸びきったスッカスッカの襟元から覗く胸の谷間を直視し、なんたることか法の執行機関である警察官ともあろうものが、健康的な赤血球増っし増しの真っ赤っかな鼻血を破廉恥にも垂れ流している姿が、逆さまに眺める俺の眼に鮮烈に映しだされていた。
俺さえもまだ見たことのない、秘密の胸元だというのに、警察官のくせに勝手に覗き見るとは何事か! ずるいぞおまわりさん! 絶交だ!
しかし、しかしである。この状態は明らかに俺が女に襲われている状況に相違あるまい。何しろ俺はこの女に、素肌は足の親指しか触れていないのだ、なのになのにそれなのに、この女は明らかに俺に密着しているのだ。誰がなんと言おうと俺は若い女に不純異性交遊行為をされているのだ。
それも、ひとっ風呂浴びたこのおかしな女は、『貴様何者だ! 名を名乗れ』と言わんばかりの美少女に変身なさってらっしゃるではないか。これはもう完全に、完璧におまわりさんの繊細なるガラス細工の純真な童貞心は透過光の効果よろしく、美しくも無残に粉砕されてしまうのが目に見えるようだ。諸行無常、南無阿弥お陀仏である。
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