第96話 15-2.


「ワイズマン博士、9分前から例の監視システム、走らせてます。それと、検索システムの方はデバッグ終了後・・・・・・、後3分ほどで実行予定です」

 ここは、サマンサが統幕特命プロジェクトの本部として統幕本部長権限で無期限で押さえた、軍務局研究部研究支援課が管理している第2シミュレーションルームだ。

 サマンサはホプキンスの不機嫌そうな顔から声の方へ視線を移して、ほっと吐息を落とした。

 声の主は、AFLディスプレイ越しに見える、まるでマンガみたいな赤いセルフレームの大きな丸眼鏡、赤毛の三つ編みおさげが外見を実年齢よりも十歳以上若く見せている、可愛らしい女性士官。

 これまで憎々しくて怪しげなダークスーツの中年男を見ざるを得なかった眼にはいい保養だわ、とサマンサは思わずにこりと微笑んでしまう。

「一尉、ありがと。予定よりも12分も前倒しね、助かるわ」

 一尉と呼ばれた彼女は、嬉しそうな笑顔を浮かべている。

 が、その両手は、軌跡が見えない程の高速でキーボードの上でタップを踏んでいて、まるで昔テレビで見たことのあるニッポンのエンカイゲイ、ニニンバオリの様に、手だけが別人のように見えた。

 ミシェル・フォンダ一等空尉。

 サマンサがこの作戦ミッション責任者・コマンダーになった時に、統幕本部長へ最優先にと要求したのが、ウィザード級のクラッカーの囲い込み、そして情報部の全面協力である。

 結果、真っ先に投入されたのが、眼の前の二人だ。

 情報部長のホプキンス、そして電装通信本部電算局ソフトウェア開発室設計6課のネットワーク・プロトコル研究主任、ネットワーク関連技術に関しては世界的に有名で、博士号まで持つミシェルだった。

 今や地球上を覆い尽くすUN/UNDASN共有の専用軍事通信情報回線ネットワークの新しいプラットフォームとプロトコル、セキュリティ・ポリシの基礎理論を殆ど一人で構築した、と言われる彼女は、世界中のパブリックネットワークとの相互乗り入れとそのセキュリティ・ポリシ構築、全対応型のファイアウォール開発でMITに2年間出向した経験があり、以来、殆ど毎日のようにMITからヘッド・ハンティングされている、らしい。

 しかし本人はと言うとUNDASNを辞める気はさらさらないらしく、親しい友人にその理由を聞かれて「UNDASNって軍組織絶対強者にいないと、非公開非合法なハッキング、クラッキングなんて唯の犯罪行為になっちゃうじゃない」と答えたそうである。

 言い換えれば、平気でそういうことを日常的にやっている、ということだ。

 技術系本部の幹部の殆どが専科将校で占められている中、彼女は珍しく正真正銘の兵科将校なのだが~しかも、しっかりパイロット資格の証であるウイングマークP免が右胸に輝いている、彼女の操縦する機に乗るのは遠慮したいと思った~、外見だけだととてもそうは見えない。

 だからサマンサは初対面の時~といってもほんの数時間前だが~にはイメージとのギャップに大いに驚いたものであった。まあ、例え彼女が専科将校だと聞いても、やはりギャップは覚えただろうが。

「さすが、現行警戒監視衛星団の自動警戒監視BADGEシステムのアーキテクチャ設計を殆ど自力でやった、というだけの事はあるわね」

 ホプキンスの方に向き直ってそう言うと、ホプキンスはチラ、とミシェルに視線を飛ばした。

「今彼女が言ってたのが、パソコンオタクの線からの情報入手メソッド、かね」

「そう」

 サマンサは頷く。

 イリノイ州スプリングフィールドにある電通本を、今から統幕差し回しのVTOLで出発する、というミシェルに、サマンサが一番最初に命じたのが、それだ。

 このプロジェクトが立ち上がる前から、情報漏洩のリスク・ヘッジの為に軍務局主導で立ち上げていた『セイブ・ザ・R・サーバ』、所謂石動涼子に関する内部情報がアップされたファンサイトの監視サーバの改良である。

 サマンサは、『セイブ・ザ・R・サーバ』を抱える先発のR.I.シンドローム・プロジェクトと今回の作戦~『砂漠の薔薇デザート・ローズ救出・レスキュー』というミッション・コードがついている事で判る通り、これはUNDASNとして正式な作戦として扱われている、統幕がヒューストンの砂漠にあって部内限り俗称『デザート・フォート』と呼ばれている事に引っ掛けたコードなのだが、サマンサはこのミッションコードを聞いた途端、大いに顔を歪めたものだ~の垂直立上げを目論んだのだ。

「今稼動しているアクセス監視・アクセス防止システムを何とか改良して、情報収集が出来るようにならないかしら? そのサイトにアップされた情報の発生源を推測する、みたいな」

 『セイブ・ザ・R・サーバ』本来の機能~全世界の涼子関連サイトの監視とアクセス防止~に加えて、特にUNDASN機密情報に抵触する情報を少しでも扱ったサイトの相互アクセスの関係性の解析とサーベイ、情報源サイトの特定サーベイを行いたいと、サマンサはミシェルに依頼したのだった。

 言葉にすると簡単に思えるが、実は難問であろうことは、コンピュータやAIには素人同然であるサマンサにも事前に理解できていた。

 UNDASN機密に触れる情報を扱ったサイトだけなら直ぐにでも検索出来るのだが、しかし、大抵はそれらのニュース・ソースは、どこか別のサイトからの記事転載だったりする事が多い。

 原始情報の出典先サイトにリンクが張られていれば良いが、そんなネット・エチケット等期待すべくもない環境であり、そうなると転載元を特定するその判断には、どうしても物理的ジャッジの他、AIを使用した論理的ジャッジ、そして最終的にはヒューマン・ジャッジが必要になる。

 実現可否も含めた、システム企画、ソフトウェア方針設計、システム方式設計には相当の時間が必要と判断したサマンサは、だからまず、ミシェルにそれを指示したのだ。

 ミシェルは生憎、『セイブ・ザ・R・サーバ』の開発には携わってはいなかったが、いとも簡単にそれを了承した。

「じゃあ、そちら到着後2時間以内で構築しますね」

 そしてそれを見事にやってのけたのが、冒頭の会話である。

「後もうひとつ頼んでるんだけれど」

 まったく頼もしい人材を引き当てたものだと考えながら、サマンサは呟いた。

「何を? 」

「解析システム。今説明した検索システムとの結果に連動して動くの。……まあいいわ、長くなるから説明は後回しにして、それより、話を戻しましょう」

 サマンサは、禁煙パイプを口に咥えたまま、ホプキンスを睨み付けるようにして、言った。

「じゃ、プライオリティは、まずUNDASN内部犯行の線で捜査を最優先。いいわね? 」

 サマンサに言われてホプキンスは再びスクリーンを睨んで腕を組む。

「うむ……。この際だ、基本的には君の方針に賛成、としておこう」

 奥歯に物が挟まったような、同意だった。

 情報戦略の総元締め、UNDASNの裏の顔を取り仕切る情報部長であるが故に、さすがに苦渋の表情を隠せない~何せ、UNDASNの防諜の硬さは、”鉄のカーテン”の異名を世界中の諜報機関から冠せられていたのだから、”今まで”は~。

 サマンサがこの部屋へ乗り込んでの開口一番は、ホプキンスを激怒させた。

「馬鹿な! 情報漏洩者が部内にいるのは私も否定はせん。しかし、涼子ちゃんを狙う人間すら、UNDASNの人間だと言うのか? 信じられん! 」

 さすがのサマンサもこれには呆れ、そして次に彼以上に激怒した。

 即ち、会議テーブルを日本古来の伝統芸『卓袱台返し』で書類やコーヒーごと引っ繰り返し~昔小野寺に教えて貰ったのだが、実行するのは初めてだった~、返す刀ならぬ右足でたまたま設置されていたシュレッダーに強烈なローキックを浴びせて、破壊してみせた。

 さすがにホプキンスは動揺を1ミリも表わさなかったが、代わりに、じっとサマンサの爪先をみつめていた。

 釣られて視線を向けると、第一種軍装用のフェラガモの黒いパンプスの爪先が、はげていた。

 ほんっとに面白くないわぁ、と憮然となるが、まあ自業自得だと諦めて、サマンサは立ち上がってホワイトボードへマーカーを滑らせた。

「私が内部犯行インサイダーの線が濃いと主張する理由はこうよ」

 今まで、もう何度も頭の中で練った結果だ。

 最初は、自分でも信じられなかった。

 UNDASNの仲間達を信じたい気持ちを抑え込まざるを得なかったその主な理由を、乱暴に書き殴る。

①石動涼子のスケジュールを詳細すぎるほど掴んでいる

②バッキンガム宮殿への出入りが可能な権限を持っており、宮殿内で行動しても不自然ではない

③石動涼子の行動を常時監視できるエリアにいて、彼女を監視していても不自然に思われない

 だからサマンサは、情報部長をついぞ知っているだけで呼んだことのないファーストネームで呼び掛けた。

「アーサー。聞いて」

 彼の視線が自分を捉えるのを待って~それでも彼は眼を見なかった、たぶん額を見ているのだろう、これだから情報部の人間はまったく~ゆっくりと説明した。

「貴方が私の意見を否定したい気持ちは良く判る。だったら、まず①②について調査して、その結果で否定して見せて。①に関しては、報道発表プレス・リリースオンリーでどこまで石動一佐のスケジュールを押さえられるか、今回の滞英中のスケジュールを部内のどのレベルのメンバーならどの程度まで押さえられるのか。②に関してはこれは駐英武官……、マズアっていったっけ、彼の協力を得て、英国内務省の特別警戒本部から入退室リストを入手してもらうといい。どっちの調査も、あんたんところの在英エージェントを使えば簡単でしょ? 」

 ホプキンスは無言で怒りを表しつつも、サマンサが示した通りの、そしてそれ以上に入念で詳細な調査を手早く実施し、その中間報告が今、2人で覗き込んでいるスクリーンに投影されているのだ。

 コリンズが外出中の為、取り敢えずスコットランドヤードに詰めていたエージェントを使って得たそれらは、ますますサマンサの内部犯行説を裏付けているようにしか読み取れなかった。

「とにかく、コリンズ二佐と連絡が取れ次第、もう少しつっこんで調べさせる」

「そのコリンズ、とかいう人物は信用できるのね? 」

「もともとコリンズ二佐のミッションは、涼子ちゃん絡みの内部情報漏洩調査だったんだ。加えて、現在英国内にいるエージェントの中では彼が最先任で、そのスキルに見合った腕利きだ。現場指揮を執らせる」

 サマンサは頷いて見せ、話題を変えた。

「ところで、石動涼子の通信記録の調査の方は? 」

 これが、ミシェルの件と並行して、サマンサがケープケネディ出発前にホプキンスへ依頼しておいた、もうひとつの指示。

 涼子が昨年4月に統幕へ配置転換になってからの、UNDASN部外からの郵便を含むメール、公衆回線経由の電話、部内軍用通信等、彼女への接触記録のサーベイ。

 こちらは、涼子の配置が国際部と言う外交部門であることから莫大な量が予想されたので、先行着手を指示しておいたのだ。

「まだやってる。なにしろ涼子ちゃんの配置が配置だ。一般の部局に較べてシャバとの連絡、電話、メール、郵便……、どれも桁違いの膨大な量だ。手間取ってる。加えて、彼女に届く国連加盟諸国政府からの外交通信。こいつは、いかに情報部権限と雖もおいそれと手を出せない」

 ホプキンスは幾分表情を和らげ、その代わりに疲れた表情を浮かべて溜息を吐いた。

「しかも、この半年は、彼女は軸足をロンドンに置いていたからな。……そっちも調べたいんだが、今の隠密コーヴァトゥミッションじゃ、本人のいる場所の捜査は容易じゃない」

 確かにそれは、いくら駐英武官を味方につけても大変そうだ。

 サマンサはチラ、と壁掛け時計を見上げる。

「米国中部標準時とグリニッジ標準時の時差は……、6時間、だったっけ? 」

 ホプキンスが頷く。

「てことはロンドンは今、真夜中。調べるなら彼女の寝ている今夜中」

「だが、ロンドンはリソースが不足だ。コリンズを入れてエージェントは4名、駐英武官を入れても5名じゃ、とても一晩で全て調べ切れん。現状、フォックス派捜査も継続している訳だし、な」

 今度はサマンサが憮然とする番だった。

 と、そこへこのミッションへ組み込まれた情報部の若手エージェントが歩み寄ってきて、ホプキンスに書類を渡しながら耳打ちをし始めた。

 無言で頷いていた彼の眉がピクリと跳ね上がるのを見て、サマンサは静かに声を掛ける。

「ねえ、アーサー? まさかそのままナイショ、ってことはないわよねぇ? 」

 微笑んで見せると、ホプキンスは無言のまま、渡されたリストを差し出した。

2月14日マルフタヒトヨン? つい、このあいだじゃない? ……なに、この異常に大量なシャバからの郵便や宅配は? 」

「バレンタイン・デーのギフトの様だ。明らかにプレゼントらしき小包や封書は当然規定に従って現地で内容物検査機を通過させてチェック済だが、開封しとらん訳だし、脅迫状等の有無は確認できていないまま、本人へ届けられている」

 サマンサはじっとリストを睨みながら、呟くように訊ねる。

「で? この2月14日着のもの以外は、特に怪しい通信はなかったのね? 」

「イエスマム、殆どの郵便物は98.8%が外交専用通信ですから、却って発信元が特定し易く、また信頼性も高かったので」

 エージェントからの直接の回答に、サマンサは満足そうに微笑み、ホプキンスはますます仏頂面になる。

了解アイ。外交専用通信の調査は継続するとしても、プライリティは落としてもいいわ。それよりも今は、シャバからのバレンタイン・ギフトの調査を最優先で」

「イエスマム」

「勿論、封書は開封して確認するように。情報部特工規定はクリアしてるからな、問題はない」

「イエッサー」

 エージェントが出て行くのを苦々しげにみつめていたホプキンスは、サマンサの方に首を戻した。

「シャバからの通信優先、か。内部犯行にしてもその可能性のほうが高い訳だな」

「そう。わざわざ部内コミュニティ用プラットフォームを使用するなんてナンセンス」

 ホプキンスは少し身を乗り出す。

「その中に、涼子ちゃん宛の脅迫状やら何やらが混じっている、と? 」

 サマンサはリストに視線を落としながらも、頷く。

「涼子ファンが昂じてストーカーになった、ってベタだけど、やっぱりお約束よね? ……それを前提とすると、や、まあ、この段階で前提を置くのは要注意なんだけれど、時間がないから仕方ないわ。だから、涼子フェチのストーカーを前提とすると、やはり、最終的には自分を彼女に意識してもらいたい筈。はっきりした脅迫状じゃないかも知れないけれど、それらしい兆候はあった筈よ? その欲求が徐々に高まり、遂にロンドンで」

「と考えると、時期的にもバレンタインは狙い時だな、確かに」

 サマンサの言葉を引き取って、ふむふむと一人頷いているホプキンスは気に食わなかったが、内容的には間違いでもなし、だから彼女は無言のままで放置する事にした。

 と、背後からやはりミッションに組み込まれた、こちらはドレスブルー姿の通信員が声を上げる。

「ホプキンス部長、在ロンドン、2課のコリンズ二佐から親展通信! 」

 ホプキンスは親展と聞いて通信ブースに向かい掛けたが、すぐに足を止めて椅子に座り直し、短い吐息を零して怒った口調で答えた。

「かまわん、オンスピーカーでこの部屋につなげ! 」

 サマンサが満足げに頷いて、通信画像用ディスプレイに顔を向けると、見知らぬ、これもダークスーツの中年男が映し出された。

「部長。親展通信の筈なんですが」

 この部屋の様子に気付いて戸惑うコリンズに、ホプキンスが諦めた様な口調で答える。

「いや、コリンズ、構わない。彼女はミッション・コマンダーのサマンサ・ワイズマン三将。で、送った資料に目は通したか? 」

 コリンズは最初の困惑が嘘のように、無表情で答える。

「一通りは。……で? バッキンガム宮殿の入退場データをまず手に入れられたいんですね? マズア駐英武官にこの事は? 」

「いや、まだだ」

 サマンサは、二人の会話に割り込んだ。

「あなたから見て、マズア駐英武官はどう? シロ? グレー? それともクロ? 」

「それは」

 口篭もるコリンズにサマンサは小さいが気迫のこもった声で言う。

「聞きなさい。私は、犯人が石動一佐に手を出すなら、明日中だと踏んでる。その上で、内部犯行説を採っている。だから、ここはイチかバチか、決め打ちしていくしかないの。その為には大胆な仮説と豪胆な割り切りが必要。そして、冷徹な観察眼、がね。貴方から見て、駐英武官マズアは大丈夫? 」

 コリンズは数瞬の沈黙の後、明快に答える。

「マズア駐英武官はシロ、です」

 サマンサは、ニコッと微笑み、口調を変える。

「判った。じゃあ、駐英武官には貴方から伝えて、こちらの指示に従うように、って。但し、現時点で貴方の手許に送った資料以上の情報は基本的に公開できない。それだけは承知しておいて。どうしても捜査の必要上、知りたい事があれば、その時は私に直接。オーケー? 」

「イエスマム」

 画面の中で、微かにコリンズが表情を緩める。

「つきましては、えー……、ワイズマン三将。ひとつ質問が」

「なにかしら? 」

「内部犯行説を採られているんですね? その場合、やはり在英国の」

 サマンサはちらりと傍らのホプキンスを見て、すぐに視線をスクリーンのコリンズに戻す。

「ターゲットが英国担当の1課長、そして犯行の舞台が英国。やはり、在英各部隊と考えるのが普通よね」

「……わかりました。では、ホプキンス部長」

 コリンズは視線をホプキンスに向ける。

「指示の内容にプラスアルファ、何点か探ってみたい点があるんですが。よろしいですか」

「うむ、構わん」

 今度は即座にホプキンスが答える。

「在英情報部員では現在、君が最先任だ。そっちの捜査や活動は、君に指揮権を与える。ギャラウェイ2課長には私から言っておく」

「あぁ、そうだ。それと、もうひとつあるの」

 サマンサは画面に手を振って見せた。

 一瞬、顔が赤くなったように思えて、サマンサはおっ、と思う。

 人間らしいじゃん。

「なんでしょう」

 瞬間的にスカル・フェイスに戻ったコリンズの質問に、サマンサは答えた。

「そっちにも、石動一佐宛にバレンタイン・デーのギフト、たんまり届いてるんでしょう? 」

 コリンズは暫く首を捻っていたが、やがて、大きく頷いた。

「ええ、そのようです。彼女の副官達がそんな話をしていたような」

「その中に石動一佐宛の脅迫状のようなものが紛れてる可能性があるわ。彼女、もう寝ているんでしょう? 」

「ええ」

「今夜中に、調べられないかしら? 」

 コリンズは暫く眼を閉じていたが、やがて口を開いた。

「協力者が必要です。在英エージェントは統幕本部長暗殺関連の捜査で手一杯ですし、私だけでは量的に無理です」

「心当たりはあるのか? 」

 ホプキンスの質問にコリンズは、今度は即答した。

「マズア武官と同レベルで信用が置けます」

「誰? 」

「室長代行の副官、二人です」

 コリンズと名乗るエージェントは、信頼できる、と思った。

 だから、今度はサマンサが即答した。

「いいわ。このミッションのことも明かしてもいいから。でも、それ以上は広がらないよう、注意して」

「イエスマム」

 通信を切ろうとすると、今度はホプキンスが割り込んだ。

「コリンズ。親展通信の際、今後は私だけじゃなく、ワイズマン三将も連名にしろ。指示は全て彼女が出す。責任は私が取る。いいな? 」

「イエッサー。では」

 今度こそ、通信が切れた。

 サマンサは少し意外そうな表情でホプキンスをみつめる。

「なんだ? 私の顔に何かついとるかね? 」

 ホプキンスは立ち上がりかけて、サマンサの視線に気付いて言った。

「アナクロねえ、アーサー。でも、ありがとう」

 笑ってそう言うと、ホプキンスは怒った様な乱暴な足取りで、ドアへ向かう。

「何処へいくのよ? 」

「トイレだ! 」

 そう言って彼が出ていった後、サマンサは苦笑しながら呟いた。

「ほんとにアナクロなんだから」

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