第82話 13-6.
休憩コーナーの隅の方にある、小さな仮設ステージ~実は、艦底物資保管区画と飛行甲板3段を貫通する物資搬送用昇降機を、30cm程オーバーヘッドさせてステージに仕立てている~の上では、グローリアスの軍楽隊から選抜されたジャズ・クインテッドが古いジャズを演奏している。
食は世界を繋ぐ、の言葉通り、マヤは涼子達とすっかり打ち解けて~まるで、子供の頃からの友達とお喋りしているような、マヤにとっては新鮮で楽しい食事だった~四方山話に花が咲き、今は音楽が始まった事もあって、ゆったりとした時間を過ごしていた。
二月にしては奇跡的に風が弱く、然程寒さも感じないせいもあるだろう~もちろん、艦体周囲を取り巻くように展開し活動している攻撃警戒防御用ナノマシン群のお陰でもある~。
マヤにとって軍楽隊といえば吹奏楽のイメージがあるのだが~事実、イブーキ王国の近衛連隊軍楽隊も吹奏楽団だ~、涼子の説明によると、UNDASNの軍楽隊には、実はA編成とB編成の2種類があるらしい。
B編成とは所謂吹奏楽団で、これは基本的には艦隊総群の場合ならA・準A・B・F編成と呼ばれる大規模艦隊の旗艦に司令部要員として乗り込んでいる。陸総、空総の場合なら、軍司令部や航空集団司令部にこれが付属する。
マヤが驚いたのは、UNDASN軍楽隊A編成の存在だった。
A編成とは、実は三管編成の管弦楽団なのだ。これは統合幕僚本部と系内・系外幕僚部に各1楽団、つまり全UNDASNで3つのオーケストラが存在するということである。
三管編成ともなれば、80人クラスの立派なオケだ。マーラーやショスタコーヴィッチ、ワーグナー等の大規模管弦楽曲を除けば、大抵の曲は独自で演奏可能である。
こちらはフネに乗って前線へ行くことは滅多になく、デフコン2、若しくは3レベルの民間人が暮らしている系内惑星へ慰問で出張演奏する程度で、普段は地球や冥王星内で、定期公演を開催する事が専ららしい~特に内幕と統幕のオケは人気があり、定期公演の年間チケットは毎年9割がシーズン前完売、ミュージックソフトも売れ行き好調、欧米や日本の音楽専門チャンネルでもレギュラー番組を持っている程で、実はUNDSANにとっては良い収入源となっているのだ~。
何れにせよA、B何れの場合も所属は統幕本部もしくは内外幕僚部の本部維持師団の厚生班に付属し、身分は専科~医療本部の臨床研究医学者や科学本部などの研究者、艦政・航空・施設兵装本部等の開発研究者と同じ~である。
この艦、グローリアスは系内幕僚部艦隊総群所属の直接地球防衛第2艦隊の旗艦である為、40名程のB編成軍楽隊が乗り込んでおり、今、ステージで演奏しているのはその中の選抜メンバーである。
”ジャズなんて、生演奏は初めてだわ”
ニューヨーク留学中も、そのテのコンサートは警備上の問題もあって行かせてはもらえなかった。大学構内で練習している学生達の音を遠くで聴いているのが関の山だった。
マヤは、オーディオでしか聞いた事のないスイングのリズムが直接身体に響いてくる感覚を、すっかり楽しんでいた。
「殿下」
囁く甘い声に耳朶を擽られて、マヤは思わず肩を震わせる。
「涼子様」
涼子はニコ、と笑うと、無声音で「ご無礼、お許しの程を」とネイティブよりも美しいドイツ語で言った後、再び唇を近づけてきた。
思わずドキドキしたマヤだったが、涼子の言葉を聞き逃すまいと、胸の動悸に鎮まれと命じつつ、耳を寄せる。
「殿下は、今のように楽しそうに笑われてらっしゃる時が、本当に可愛らしゅう見えます。きっと、普段は色々とご苦労なさっていらっしゃるんでしょうね」
マヤは突然、時間が巻き戻ったような感覚に襲われた。
4年前、初めて逢った自分に、心の底から自然と溢れ出したのだろう優しい慰めと労りとともに、明日へ向かって顔を上げ、しっかりと歩いて往く勇気を与えてくれた、あの日の涼子、マヤの騎士。
不思議な事に彼女の記憶からマヤとの出逢いはさっくりと消去されているようだけれども、それでも、彼女は。
変わっていなかった。
あの日の、懐が深くて、大きくて、優しい涼子のままだ。
「私のような庶民とお比べ申し上げたら本当に失礼なんですけれど、お許し下さいましね? ……昨日、ウエストミンスター・ホールやバッキンガム宮殿でお会いした時にも感じたのですが、あの時の殿下は、大層お淋しそうでしたわ」
例え、マヤにとっては煌めく宝物であるニューヨークでの数時間を忘れ去られていようとも、涼子様は何度でも、同じように労わり、慰めてくれるのだと思うと、胸がきゅんと締め付けられる。
まあ、涼子の指す『淋しそうだったマヤ』の原因はと言えば、それは涼子に起因するものだったのだけれど、今は、それはどうでも良かった。
「殿下のお立場、それはたいへんお辛いものなんでしょう。でも、お願いですから挫けないで下さいましね。殿下には、殿下にしか出来ない大切なお仕事がおありなんですから。そして、辛かったら遠慮なくお泣きあそばし、遠慮なく周囲の方々へ甘えあそばせ。殿下はけっして、お一人ではないのです」
零れるな、涙。
今は唯、愛する人の優しく大きな愛に、身を委ねればよいのだから。
けれど、堰き止め切れぬ感激の、喜びの感情は、涙となって堰を切り溢れ出す。
「まあ! 殿下、申し訳ございません、私、何かお気に障るような事でも」
マヤは泣き笑いの表情で、慌ててハンカチを差し出す涼子の手を自分の両手で覆い、そして静かに首を横に振る。
「違うのです、涼子様。マヤは……、マヤは、嬉しいの。ねえ、涼子様? 」
子供のように首を傾げる涼子に、マヤは問う。
「マヤも、涼子様に甘えても、いい? 」
涼子は黙って頷き、小さく両手を広げて見せた。
最初、忘れられていた事が判った時は、確かにショックだったけれど。
何度も逢う度に、こんな感激の『初対面』を繰り返し味わう事ができるのならば。
指折り数えて待ちに待った辛い4年間も、きっと意味があったのだ。
そう思えた。
「そう言えば、艦長、戻ってこないな」
「艦長? 」
ぽつりと呟いた涼子の言葉に、マヤが食いついた。
リザが「食いつき早ッ! 」と驚きつつ彼女の顔を見ると、まさに『食いついた』という表現がピッタリなくらい、眉根に皺を寄せて涼子の横顔を睨み付けている。
「あの、涼子様? 艦長、というのは」
元々志を同じくする者とは言え、マヤはどうやら、リザの境地にまで至っていないらしい。
それが良いことなのか悪いことなのか、リザには未だに判らない。
ただ、自分とは違うマヤが、眩しく思えることだけは確かで、だけど眩しく輝いていること自体、やっぱり良いのか悪いのか判らない。
ひとつ、判っている事は、自分は所謂『戦闘疲弊症』なのだ、ということ。
マヤがいったい何時頃から涼子に惹かれていたのかは知る術もないけれど、首を捻るまでもなく彼女と涼子の接点は、それは希薄で、度々ある事ではなかっただろう、それは確かだ。
マヤの立場、境遇を考えれば、毎日のように涼子の隣に立ち、その一分一秒を戦いに費やしている自分とは胸に湧き上がる感情は違っていて当然で、今日までの彼女は、逢えない、永久にも思える切ない時間を、ただひたすらに想い続け、自分を慰め続け、そしていつ訪れるとも知れぬ自分と愛するひととの逢瀬だけを追い求めていたのだろうと、思う。
そして、やっぱりそれが、良いことなのか悪いことなのか判断できず、ただ、自分は涼子のいない時間を持つこともなく~少なくとも次の配置転換までは~、やはりそんな日々に疲れているのだ、ということしか判らない。
「え、あ、いえ、独り言でございます、失礼いたしました」
涼子の慌てたような弁解を聞きながら、リザがぼんやりそんなことを考えていると、向こうからドレスブルーを着た士官がこちらへ歩いてくるのが目に入った。
「? 」
どこかで見たような気がする。
遠くて顔が見えない訳ではない。
ちゃんと見えているその上で、誰だったか思い出せない。
というか、答えを聞けば、ああっと声を上げて膝を叩く、そんな人物であるには違いない、そんな気がする。
袖に金筋四本、アンカーマークふたつ、右襟に戦車をモチーフにした陸上マーク。
金色の飾緒を釣っているから、幕僚勤務の二等陸佐。
マズア駐英武官でもないし、ええと、でも、彼と近しい……、誰だっけ?
リザが首を捻っている間にも、その人物はどんどん近付いてくる。
このテーブルを目指して歩いているのは確かだ。
早く思い出さないと、と焦りだした途端、涼子の声が聞こえた。
「コリンズ、ドレスブルー姿、素敵! 」
「ああっ」
リザは声をあげ、膝を打った。
そのまんまじゃないか、と我が事ながら呆れてしまった。
いや、それよりも。
「やだコリンズ、良かった。もうこっちに顔を出さないかと思ってたのよ」
立っていたのは、情報部9課のコリンズ二佐だった。
彼はリザのイメージにあるスカル・フェイスなど何処かへ置き忘れてきたかのように、真っ赤になっている。
「室長代行、草臥れた中年男を困らせんで下さいよ。自分でも久し振りすぎてどうしていいのか判らんのですから」
涼子はコリンズの言葉など聞いていないとでも言うように、立ち上がり、無遠慮に彼の爪先から薄くなった頭を隠す制帽の徽章まで、舐めるような視線を何往復もさせている。
リザは心底、この情報部の腕利きエージェントに同情してしまう。
やはり映画や小説と、現実は違うのだ。
「だけど、コリンズ、ほんと格好良いわよ? 見違えちゃったもの、私」
今日の涼子は、アットホームの雰囲気に空気感染して、お祭り大好きお子様シンドロームを絶賛発症中である。
謂わば、無敵。
コリンズはとうとう不機嫌そうな顔をして、そっぽを向いてしまった。
完敗、らしい。
さもありなん、とリザは一人頷く。
余りにも可哀相になり、リザは助け舟を出す事にした。
「コリンズ二佐、何かご用事でも? 」
助かったという表情をモロに浮かべて、コリンズは頷いた。
「そうだ、三佐、よく思い出させてくれた。ええと、1課長。少しだけよろしいですか。例の件です」
途端に涼子は表情を引き締め、無言で頷くと、マヤを振り返った。
「申し訳ございません、殿下。暫し、席を外させて頂きたいのですが、よろしいですか? 」
マヤは一瞬淋しそうな目をしたが、すぐに今まで以上の笑顔に変えて言った。
「どうぞ、私はここでお待ちしておりますから」
涼子は深々と頭を下げると、リザ達に向き直った。
「先任、一緒に来て。後任は殿下をお守り申し上げるよう」
「アイマム」
「あーっ! 艦長、こんなところにいたーっ!」
マクラガンやハッティエン、ボールドウィン、コルシチョフ達、ロンドン・ウィーク訪英組やIC2司令長官のチェンバレン二等艦将とその幕僚達と言った錚々たるアドミラル、高級幹部ばかりが陣取る休憩コーナーの一角に小野寺の顔を見つけた時、涼子は思い切り大声で叫んでしまった。
「やかましい、石動っ! まったくお前は、いつまで経ってもおいりゃあせんのう! 」
何処かで聞いたことのある、濁声、岡山弁。
続いて笑いの混じった、酷い南部訛りの英語が、同じ声で流れた。
「校長っ! 」
言ってから、涼子は慌てて姿勢を正して、言い直す。
「失礼しました、新谷内幕部長! ごぶさたしてます! 」
新谷と呼ばれた、チョイ悪オヤジの剥がれた化けの皮をアイロンで圧着したような男は破顔一笑して見せた。
「よぅ、石動。相変わらずベッピンじゃのう。……ちょっと歳食ったみたいじゃけんど」
マイケル・K・
日系アメリカ11世で、サングラスがよく似合うナイスミドルに見える……、が、喋り出すと田舎モノ丸出しのお人好しのオジサンにしか見えないところが微妙、である。
が、その作戦能力、指揮能力はおおよそ過剰なほどに攻撃的であり、また気分屋ではあるが政治力統率力はマクラガンに次ぐ、と言われる程で、人望も厚かった。
涼子が幹部学校シドニー校入学当時の校長であり、その後実施部隊での同部隊配置は数度だが、防衛大学や術科学校等、教育課程での顔合わせが不思議と多い間柄だった。
上司と部下と言う関係よりも教官と学生という関係の方が多かったせいもあるのか、涼子にとっては他の上級者と違って、若い頃に戻って甘えられるような、安心感を与えてくれる上官だった。
「まあ! それが久し振りに会った独身女性に対する言葉ですか? 失礼しちゃう! 」
マクラガンが笑いながら割って入る。
「まあまあ、久々の師弟対面、久闊を叙すのは後にして、石動君、座りたまえ。まずはジョブをやっつけよう」
「”
涼子の言葉にハッティエンが無言で頷き、目でコリンズに合図する。
コリンズとマズアがいつの間にかアドミラル達に混じって座っていた。
涼子は背後で所在無さげなリザの手を取り、ひとつの椅子に2人で座った。
リザが何やらあわあわ言いながら顔を真っ赤にしていたが、今は放置と決めてコリンズに顔を向ける。
「これまでにこちらで確保したフォックス派5名の内1名、2番目の襲撃犯が自白しました」
コリンズの言葉は、半ば涼子の予想していた通りだった。
問題は、その自白した内容だ。
「要点だけお話しますと、フォックス派が英国に送り込んだ襲撃部隊は全部で5名。この5名の乗ったVTOLを遊漁船で受け入れしたのが、英国在住のシンパ2名。ヒースローでいきなりカタをつけるつもりで、このシンパを偵察役にして4名が襲撃、1名は予備要員としてロンドン市内で待機していたそうです。で、ヒースロー襲撃失敗を受けて、第2段計画として5名が分散、個別襲撃に移ったとの事で、結局、昨夜の聖ジョーンズ病院の襲撃で、英国に乗り込んだ刺客5名は全滅したことになります」
一同が安堵の表情を浮かべる中、コルシチョフが表情を緩めずに質問する。
「その英国在住のフォックス派シンパってのは? 身許は割れているのか? 」
コリンズがゆっくり頷いた。
「一人は、ハリー・リュックソン、34歳。英国籍の白人男性。身長約190cm、体重約90kgで、金髪碧眼。ま、これは本人の自己申告ですから、アテにはなりません。勿論写真など全くなし、スコットランドヤードや内務省、それにMI5やMI6でも照会しましたが、リストにも前科者カードにも、国民台帳にも該当者は見当たりませんでした。もう一名は未だ身許は割れていません」
ボールドウィンが先を促す。
「で? そいつは、結局、シンパなのか、プロの手配屋だったのか? 」
コリンズが無表情に言葉を継ぐ。
「このリュックソンという男は、フォックス派シンパを名乗りながらも、結局はこのロンドンでのコーディネーター役だったようです」
「てことは、守衛や近衛兵、メイドやナース、カメラマン、これら変装の衣装や小道具、キープアウトエリアの立ち入り許可や偽造身分証明、そんな犯行手引きや段取りその他諸々をリュックソンが手配してたってこと? 」
涼子はコリンズに質問を投げ掛けながら、彼の無表情はドレスブルーには似合わないな、などとチラリと思う。
「仰るとおりです、室長代行」
涼子の胸の内を読み取ったかのように、コリンズは僅かに微笑して頷いた。
「手口を見ると、どうも元来はその道のプロだったように思えます。今、そこら辺の裏事情に詳しい、情報2課あたりに該当者を当たらせてますが」
「で、どうなんだ? 襲撃してくる可能性は? 」
マズアが焦れたように訊ねる。
「リュックソンについては五分五分、ですね。残りの身元不明者一名については、七分三分で襲撃してこないでしょう」
全員が呆れたような表情を浮かべる。
涼子もそうだった。
「つまり、リュックソンがその道の、つまりゲッタウェイ・プロフェッショナルだった場合、です。フォックス派から”仕事”をもらう為にシンパを名乗った可能性がある」
涼子は閃いた。
「つまり、フォックス派の刺客が全滅した今、自分が襲撃するような危ない橋を渡る筈もないし、もとより、そんな義理はない」
「ふむ。……しかし、本当にシンパだった可能性も残されているわけだろう? その場合は? 」
ボールドウィンの疑問に、コリンズは微かに困惑の表情を浮かべた。
「ですから五分五分、とお答えした訳です。リュックソンはこれまでの調べによると、過去にもフォックス派へはかなり浸透していたらしい。洗脳されていた可能性もあります。身元不明の方は逆にリュックソン自身が襲撃に加わった場合の本来のフリーランス・エージェントとも受け取れる、だから七分三分と推測したわけですが。取り敢えず、英国を拠点とした、偽造屋、逃がし屋、フリーランスの裏コーディネーターを情報部でも、内務省でも当たらせていますが、その結論次第、と言うことですね」
一同に沈黙が訪れる。
リスク・ヘッジをどの程度とるか?
考えようによっては、一番ジャッジの難しい~言い換えれば、グレーな~オチだとも言える。
「ここまで織り込んだ上での戦略だったとしたら、フォックス派の連中め、お見事の一言に尽きるな」
ボールドウィンの独り言のような呟きに、全員が沈黙を持って同意した。
「五分五分で計り難い、と言うなら、敢えて100%へ有り金を張るのが妥当でしょう。そして襲撃は後2回あると見るべきだ」
沈黙を破ったのは小野寺だった。
涼子は驚く。
彼の発言の内容には、涼子も同意だ。
敵と較べてこちらは圧倒的な物量を誇る。
これまでの局地的ゲリラ的な敵の用兵には、確かに振り回されたが、けれど、敵の損耗はここまで激しく、しかもその
余るほどの物量を全て曝け出して、堂々、正面から挑めばよい。
恐れをなして掛かって来なくても、こちらは痛くも痒くない。
ましてやこの”戦闘”はタイムアップ制限付きのサービス・ゲームなのだ。
こちらはディフェンディング・チャンピオンであり、防衛即勝利なのだから。
だから、驚いたのはその発言の内容ではなく、言葉の使い方に、だった。
無愛想で無口すぎるほどの彼が、このような場で、空気の流れを主導するような、派手な修辞~この場合は博打に例えたそのことだ~を使うことなど、これまで皆無だった。
もちろん、無口ではあるが、言うべき時には言うべき事を、徹底的に言う。
しかし、ついさっきの皆を煽る様な、アジ的なトークではなく、理路整然と、説き来たり説き去る、まさに『軍人という
「小野寺君の言うとおりではあるな」
ボールドウィンの同意に、マクラガンも頷いた。
「確かにそうだ。あるものと決めてかかった方が、対処もし易い」
そして傍らの新谷を振り返った。
「そう言う話らしいから、まあ、新谷さん。せいぜい気をつけてくれたまえ」
マクラガンの言葉に、新谷はガハハと大声で笑った。
「本部長、その代わり、ちゅーたらなんじゃが、あんたのロールスロイスと、有能なボディガードを借りますぞ」
マクラガンもニコニコ笑って答える。
「車の方は多少ヘコんでもいいが、新谷さん。ボディガードの方は、丁寧に扱ってもらわんと、な」
マクラガンがそう言ってウィンクしてきたのに、涼子は驚いた。
「ひっく! 」
涼子のしゃっくりに全員が大笑いして、キツネ狩りの話題は終わった。
しゃっくりしているボディガードなんて、と恥ずかしくて、思わずリザの肩に顔を伏せると、彼女も何故か恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
こんな上官でごめんね、と心の中で謝っておいた。
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