第81話 13-5.
「やだ艦長! ほんとに二人で来てくれたんだーっ! 」
翔鶴で涼子の部下だったという汎用機隊長の絶叫に始まって、さんざん冷やかされ、何を食べたかもよく判らないうちに甘味処を転がり出た後、小野寺は涼子を連れて
そこはまるで、正月の明治神宮並の人混みと、模擬店の喧騒と熱気が渦巻いていた。
V107-200クラスの大型VTOL機4機~HR60Jクラスの小型なら7機~が同時離発艦可能な攻撃型長距離巡航空母の飛行甲板だとは思えない風景が、二人の前に広がっていた。
以前から露店の類が大好きだと繰り返し聞かされていた小野寺は、涼子にとってはヨダレが垂れる程の魅力的な光景なんだろうと思いつつ隣を見ると、案の定彼女は、黒い瞳を普段の倍以上に輝かせていた。心なしか、鼻息も荒い。
「すっごーい! 夜店が一杯出てる! ああ、浴衣着てくれば良かった! 」
浴衣なんか持ってんのか、いやそれ以前に2月のイギリス、サザンプトンで浴衣なんぞ自殺行為だと突っ込む暇もなく、涼子は彼の手を引いて駆け出す。
「艦長、艦長! 金魚すくい! 」
そう言うと涼子はさっと赤い小さな金魚が泳ぎ回るビニール製の水槽の前にしゃがみこむ。
「おっちゃん、1回やるー」
涼子は、ポケットから出した1ユーロ硬貨と引き換えに針金のフレームに薄っぺらな紙を貼ったポイとアルマイト製のボールを受け取る。
「あれ? 艦長、やらないの? 」
小野寺は苦笑を浮かべてUNクレジット札~UNDASNとUN、UNDA部内限り有効の、所謂軍票だ~を差し出した。
結局涼子は、3分とかからず紙を破って泣きべそをかき、小野寺のを奪い取ってこちらも2分足らずで戦線離脱したものの、彼が掬った5匹分の景品としてビニール袋に入れて貰った黒い出目金1匹でご機嫌を回復、その後は目に付く出店全てを本当にコンプリートしそうな勢いで彼の腕を引っ張りまわしたのだった。
最初は周囲の人々の驚きの声とやっかみの突き刺すような視線に居た堪れない心持ちだった小野寺も、やがてそれらが生暖かい視線に変わっていくにつれ~それも涼子の人柄だろう~、気にならなくなってきて、気が付けば広大な前部上甲板の迷路のような模擬店エリアを抜けて、椅子とテーブルが置かれた艦首の休憩スペースに足を踏み入れていた。
「やれやれ」
酷い目にあった、と続けようとして傍らの涼子に視線を移し、彼は言葉を飲み込む。
停泊中は満艦飾の各艦も裸足で逃げ出すほどの、涼子の姿がそこにはあった。
思い返せば、涼子は殆ど全ての模擬店から声を掛けられ、律儀にも~けっして厭々ではないのが、また涼子らしかった~それら全ての売上に貢献したのだから、今の姿も頷ける。
「艦長! お面買ってって下さいよ! 」「んー、じゃあ魔法少女ラミちゃんのちょうだい」
「涼子ちゃん、アテモンやってかない? 」「じゃあ1回だけね。ど・れ・に・し・よ・お・か・な……。わーい! ピングーのぬいぐるみさんだあっ! 」
「一佐、ほら、鮫釣りどうです? 」「ふぇーん、釣れなかったよー! 」「仕方ない、特別に景品持ってっていいよ! 」「じゃあそのキラキラ光る腕輪! 」
「欧州室長代理! ヨーヨー釣りやってみよう! 」「すぐに糸が切れちゃったぁ! 」「しゃーねえ、オマケで1個進呈しちゃおう! 」「うれしい! 虹色のが可愛いなあ」
「石動さん! ほら、ミルクせんべいどーです? 」「うーんとね、コレッ! ……ちぇー、5枚だけかー」「しゃあねえ、内緒だよ? 10枚持ってけ! 」「わーい! 」
「ほら、一佐! はずれクジなしですよっ! 」「えいっ! わーい、ダッコちゃんだ! 」
「どうです! リンゴ飴」「チョコバナナ、美味いよ! 」「サボテンの鉢植え、もうすぐ花が咲くよ」「ほら、ガラスの小さな象さん! 」「ハムスター、可愛いよ! 」「ミドリガメどうです? 」「ヒヨコ釣りだよ! 」エトセトラ、エトセトラ。
その結果。
異様に目のデカい魔法少女のチープなお面を制帽の上につけ、額にはピンクのフレームにレンズが紫のショボいサングラス、右の二の腕にダッコチャン、肩には『100t』と書かれたピコピコハンマー、手首には妖しげにチカチカ光る腕輪。
知らないひとが見れば頭を爽やかな風が吹き抜けている、本人的には幸せな、客観的には「えぇ……」と引いてしまう娘と疑われてしまうだろう。
その上彼女の両手には、モゾモゾ動くミドリガメの入った袋や出目金の泳いでいる袋、ヒヨコの入ったプラスティックの箱にハムスターの入った紙の箱、その他カエルやペンギンのぬいぐるみにサボテンの鉢植え、ヨーヨー、風鈴、風車、得体の知れないアクセサリーが山ほど。
まあ、そのお蔭で漸く、涼子が小野寺の腕を解放してくれたのは助かったのだが。
その代わり、彼の両手は、たこ焼にイカ焼、焼きソバ、焼き鳥に串焼き、フレンチドッグにフランクフルト、りんご飴に綿菓子ポップコーンといった大量のジャンク・フードに占領されて、腕を組んでいるとき以上に不自由になったし、おまけに噎せ返るソースやら砂糖、合成甘味料の匂いで、眩暈がするほどだった。
「おい、涼子。取り敢えず一服しようや」
塞がった両手なのにいったいどうやってと首を傾げたくなるくらい器用に紙袋からベビーカステラを取り出して食べていた涼子は、口をもごもごさせたまま、うん、と頷いて子供っぽい笑顔を見せた。
子供時代、遊び足りなかったんだろうな、とチラ、と思った。
そんな小野寺を置き去りに、涼子はテーブルに座って紙コップを傾けていたリザと銀環をみつけて、そちらへトコトコと走っていった。
涼子と小野寺がテーブルに広げた大量のジャンク・フードを前にして、リザは目を丸くした。
いったい、彼女達はこれを何人分、もしくは何日分の食料として調達したのだろうか、と質問しようとして、チラ、と隣の銀環を見ると、目を輝かせている。
「ちょ、ちょっと後任」
「うわぁ、すごい! これがジャパニーズ・ヨミセの名物ですかぁ! 」
宮殿への往路、銀環と涼子の会話を思い出してリザは已む無く口を噤む。
「ああ、リザ。大丈夫よ、ヨミセ・フーズは不思議とペロッ、と食べられちゃうのよ」
「なるほど。別腹、ってやつですね」
銀環が嬉しそうに涼子の言葉へ相槌を打つ。
「はあ……。そう言うものですか」
リザとしてはそう答えるしかない。
「取り敢えず、飲み物買って来ますよ、何が良いです? 」
銀環が立ち上がり、皆のオーダーをとって主計班烹炊所が出店しているドリンク売店に駆けていき、あっと言う間に戻ってきた。
「あ、リザ。それタコヤキ。オクトパスだから、貴女食べられないでしょう? そっちは大丈夫、あ、それ、美味しいわよ」
涼子の説明を聞きながら口にするどれもが、チープな味で、しかし彼女の言う通り、見た目程のボリュームは感じられなかった。その場の雰囲気もあるのだろう。
だけど、今日の夕食は少し控えた方がいいかも、そんな事を考えながら、ふと涼子を見る。
ビジネス・モードや甘えん坊モード等、これまで様々な表情の涼子を見てきたリザだったが、今日はまた、これまでにない表情だった。
一言で言うと、子供。
心の底から、今日のイベントを、昨日まで、そして明日以降も降りかかってくるだろう、しがらみやあれこれを遥か彼方に棚上げして楽しんでいる、まるで夏休みのサマー・キャンプを力一杯楽しんでいるような子供が、そこにいた。
思わず、微笑が零れる。
「室長代行、往きの車内でのお話は本当だったんですね」
小野寺が喫煙コーナーに立ったのを機会に、リザは声を掛けた。
「ん? ……あ、露店好きって話ね? 」
涼子は花が咲いたような笑顔を浮かべる。
それはやはり、薔薇と例えるよりも、向日葵と言った方が似つかわしい、無邪気な笑顔だ。
「うん。久々に満喫しちゃったわ。ほら、これ」
涼子は、お面やら紙袋やらを机に並べる。
「これはね。私が小学生の頃流行ってたテレビ・アニメの主人公のお面。このケロッピとかピングーとかも、好きだったの」
「室長代行、これ生きてる! 」
銀環がグリーンのひよこを見てはしゃぐ。
「可愛いよね。あ、銀環にプレゼントしようか? それとも、こっちのハム太郎がいい? 」
「ハム太郎? 」
「ハムスターくんだよー」
子供っぽい口調で涼子はハムスターの箱を押しやる。
「やだかわいー」
「出目金くんもいるよ? 」
「でも、室長代行」
リザは苦笑を浮かべて口を開く。
「生き物を飼うのはちょっと、我々には無理じゃ」
刹那、眉をハの字にした涼子の表情を見て、リザは『分別臭い大人の自分』に自己嫌悪を覚えてしまう。
「そう、だよね」
涼子は淋しそうに呟いて、それから再び、笑顔を浮かべた。
「なら、マヤ殿下に貰って頂こうかしら」
リザは、思わず銀環と顔を見合わせる。
「マヤ……、殿下? 」
「うん。マヤ殿下」
誰それ? と首を捻る。
どうやら、今日の涼子は見事なまでに、頭脳までも子供になっているらしい。
思い付きがぽんぽんと、生のままで口から飛び出す。
”そんな涼子様も、新鮮で可愛らしいけれど”
ぼんやりとそんな感慨を浮かべていると、そっと、白い腕が涼子の背後から伸びてきて彼女の肩に置かれたシーンが視界に映る。
「? 」
腕の先から順番に本体へと辿っていくと、そこにはブルネットの人形のような美人が微笑んで立っていた。
ぽん、と肩に手を置かれた涼子は振り返り、叫んだ。
「まあ、マヤ殿下! 」
「涼子様、模擬店を楽しまれたようで、何よりですわ」
首を捻っていた疑問の答えの人物がタイミングよく登場したことに驚いていると、涼子が笑顔で立ち上がった。
「殿下、お恥ずかしいところを。あ、どうぞ。よければお座り下さいませ」
「よろしいのですか? 」
殿下と呼ばれた美女が、リザと銀環の様子を伺うのを見て、リザは慌てて立ち上がり、ぼへら、とフランクフルトを咥えたまま彼女を見上げている銀環を促して立たせる。
「失礼いたしました」
涼子は今更ながら思い出したように、リザ達を見た。
「あ、ごめんなさい。こちらは、イブーキ王国のゲンドー国王陛下ご息女にして摂政殿下、マヤ・ハプスブルク・ゲンドー・シュテルツェン2世殿下にあらせられます」
上品なデザインと色合いの、高級そうなワンピースの裾を摘んで行われたカーテシーは、確かにプリンセスと呼ばれるに相応しい優雅さだった。
「マヤで結構ですわ、皆様。今後ともよしなに」
涼子は今度はリザと銀環に手を向けた。
「殿下、この二人はUNDASN士官で、私の同僚にございます。エリザベス・ショートランド三等艦佐と、
部下であると言わず、同僚と紹介し、その上友人だと呼ばれたことに嬉しさと照れ、そして少しの戸惑いを覚えながら、二人は姿勢を正して脱帽敬礼して見せた。
「さあ、お座りになって。丁度、殿下のお話をしていたところですの」
「まあ、嬉しい。いったいどのようなお話を? お聞かせ下さいませ」
マヤは嬉しそうに瞳を輝かせて、涼子の勧める椅子に腰を下ろし、すぐに賑やかなテーブルの上の状況に気付いて目を輝かせた。
「あら! 可愛らしいひよこや亀だこと。えぇと、これはハムスターかしら? こっちの黒いのはええと……。判らないわ? 」
「こちらは出目金でございますよ、殿下」
涼子は、親指と人差し指でわっかを作り、両目へ当てて見せる。
「ね? 目が飛び出ておりますでしょう? だから、
「ああ! ゴールデン・フィッシュの一種ですわね? 母から聞いたことがあります。まあ、可笑しい」
ころころと笑い合う二人を眺めながら、リザは仲の良い、幼い姉妹を見ているような感覚になって、思わず目を細めてしまう。
「この仔達、マヤ殿下に謹んで献上させて頂きます」
「まあ! 私に? 嬉しいわ! ……でも涼子様、頂いてしまってよろしいのですか? お淋しくなあい? 」
前半を笑顔で、後半を戸惑うような表情で言うマヤに、涼子は笑顔で答える。
「こんなに可愛らしいと、殿下が仰るように確かに淋しゅうございますわ。けれど、私共のような仕事ですと、毎日世話も出来ませんし、それに、この仔達も、ネルフシュタインのアーティラリー城宮殿のような素晴らしい環境で飼われた方が幸せでしょうし」
「これって、体の良い厄介払い、ですよね? 」
銀環が耳元で囁くのに、リザは苦笑で肯定する。
二人の顰めた声に気付いているのか気付いていないのか、涼子は冗談めかした口調で続けている。
「それに、私みたいな貧乏人なんかが飼っちゃうと、エサを忘れるどころか、生活に困ってこの仔達、食べちゃうかも知れませんもの」
「まあ! 涼子様ったら! オホホホ! 」
無事に贈呈式を済ませて、マヤはテーブルの上に目をやった。
「それにしても涼子様、美味しそうな匂いですこと。しかも私、初めて見るお料理ばかりですわ」
「あ、どうぞ、殿下。お口に合うかどうか判りませんが、でも、石動は大好きなんです」
涼子はまるで自分が作ったかのように胸を張る。
「ええと、そちらがタコヤキ、タコはお嫌いですか? そっちはイカヤキ。えと、卵とイカを焼いた、ピカタみたいなものですわね。そっちが串焼き、牛……? かなんかだと思います、はい。で、焼き鳥に、フランクフルト、ヤキソバ、フレンチドッグ。あ、こっちはお菓子類です、綿菓子にリンゴ飴に、金平糖、かりんとう」
「涼子様、あの……。これ全部お食べになるつもりでしたの? 」
マヤが説明だけで満腹、という表情で、口元を押さえながら言うのを、リザは大いなる同情を持って頷く。
が、涼子はニコニコ笑って、タコヤキをポイと口に放り込む。
「あ、無理に全部召し上がらなくてもようございますわよ。残ったら、石動達が頂きます」
「た、達? 」
思わずリザは叫んでしまう。
が、銀環は涼子同様ニコニコ笑って、イカヤキを頬張っている。
さすが四千年の歴史を誇る、食の全ては中国にありとの言葉を体現している食いっぷりだと、リザはどこか幼さの残る銀環の横顔を眺めながら感心する。
でも、後で体脂肪計らせてやろう、と考え付いて、思わずほくそえんだ。
「ええ! そんなに? 大丈夫ですか? 」
心配そうなマヤの言葉に、涼子はやはり笑顔だ。
「うふふふ! ご心配には及びませんわ、殿下。船乗りという人種は、甲板の上では普段の倍は食べられるものなんですのよ」
「ねー」と言葉にこそ出さないものの、涼子と銀環は互いに顔を見合わせて首を傾げ合う。
リザはなんだか悔しくなって、慌てて二人の顔を見ながら首を傾げて見せた。
一瞬、マヤの唇が、嘴のようにむぅっ、と突き出されたのを、リザは見た。
”やっぱり、このお姫様は”
マヤが『涼子様』と呼ぶのを聞いた時から、そうだと思っていたのだ。
きっと彼女は、涼子と『同じではない』ことが、無性に悔しくて仕方ないのだろう。
なんだ、自分と同じじゃないか。
そう思うと、少し哀しくなってしまった。
それでもマヤは、気を取り直したのか、器用に箸を使って、イカヤキを一切れ、開いた口に放り込んだ~それでもさすがプリンセス、といった上品で可愛らしい口の開き方だった~。
「……おいしい! 涼子様、これって、おいしい! 」
どうやら、愛想抜きで、美味かったようだ。
「そうでしょう、殿下。この、一振りするだけで全ての料理を最上級の味へとランクアップさせる、お好み焼きソースがいい仕事してますでしょ? 」
「お好み焼き……、ソース、ですか? 」
「ええ! お好み焼きソースは、大阪の誇りでございますゆえ! 」
リザは、どんな最上級の食材をも一発でジャンク・フードへと変身させる黒魔術を煮詰めて作ったのがソースではないか、と思っている。
だが、マヤは納得したように、頷きながらハンカチで口の周りを拭う。
「そうですの。これが亡き母が言い残した、お好み焼きソースですのね」
王妃が、何を言い残しているのだ。
「やはりマヤ殿下にも、ソースを愛する日本人のDNAが立派に息づいてらっしゃいますのね」
壮大な話になってきた。
「殿下。畏れながら、こちらのヤキソバも如何です? こちらは私の故国、中国の庶民料理であるチャオメンに、ソースを絡めて独自の進化を遂げた日本の奇跡を体現した料理にございます」
銀環がニコニコと良い笑顔でサラリと祖国を裏切った。
「ほんと、こちらもいい香りですわね」
マヤはヤキソバを美味しそうに啜る。
「まあ! これもおいしい! 」
「そうでございましょう! 」
今度は銀環が自分が作ったかのように胸を張った。
「ソースは日本の誇りですわ! 」
再び涼子と銀環が、ねーっ、と首を傾げ合う。
いつの間に君は日本に帰化したんだと内心突っ込んでいたせいで、リザは今度こそ仲間に入り損ねてしまった。
「私も、国へ帰りましたら、宮殿のシェフに、えと、オコノミヤキ・ソースを常備するように申し付けましょう」
口の周りを青海苔だらけにして決意を述べるマヤに、涼子と銀環が拍手を贈る。
”……アホらし”
思わず、うふふふ、と笑い声を洩らす。
笑って初めて、リザは気付いた。
楽しんで、いいんだ。
涼子様がいて、自分がいて、仲の良い『友人』がいて、美味しい(? )料理があって。
そう、たったそれだけの事、だけど、でも、そんな素晴らしいことがあるから。
楽しめる。
だから、楽しんで、いいんだ。
私も、笑っていいんだわ。
「どうしたの、リザ? 」
不思議そうな表情を浮かべて問い掛けてきた涼子に、リザは、今度こそ、自然な笑顔で応えた。
「いえ。楽しいな、って。素敵な時間が過ごせて、幸せ、って」
涼子は眼を細めて、優しい笑顔を浮かべた。
「ほんと、楽しいね、リザ。貴女がいて、銀環がいて、マヤ殿下もいらして、それにこんなに沢山の私達の仲間がいて」
あ。
駄目だ。
慌てて指で目尻を押さえるが、一瞬の差で、涙が零れる。
「そんな、私の大好きな貴女達が笑っていてくれて、本当に、素敵で、幸せよね」
笑わなきゃと、ウンと下腹に力を込めると、急にお腹が減ってきた。
「はい」
泣き笑いの顔で頷いて、フランクフルトを思い切り頬張った。
「まあ、エリザベス様? お口の周りが真っ赤になっておりましてよ? 」
微笑みながらナプキンを差し出したプリンセスは、口の周りが青海苔だらけだった。
二人揃って信号みたいだ、そう思うと、余計に可笑しくなった。
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