第45話 8-4.


 ロールスロイスがホテルの車寄せを出てすぐに、小野寺はインターフォンのスイッチを押した。

「陸士長。例のタクシーアンノウン、まだいるか? 」

「現在、ホテル手前の信号で停車しています」

「暫く行って、この車を尾行するかどうか、確認してくれ」

「イエッサー」

 ロールスロイスは、これ見よがしにのろのろと走る。

 が、タクシーは動かない。

「動きませんねえ……」

 やはり、な。

 彼は吐息をひとつ零すと、仕切り窓を開けて、言った。

「よし、巡航速度ECONで防衛機構ビルに戻ろう。もう、真っ直ぐ帰ってよろしい。……それと逆尾行組の状況は? 」

 陸士長はヘッドセットでなにやら話していたが、やがて振り向いて答えた。

「警務部の2名は、1課長に続いてホテルに入り、警戒配置につきました……。それと、アンノウンは……、あ! 」

 陸士長の声に反応して、小野寺は即座に通信をスピーカに切り替えた。

『えー、繰り返す。アンノウンは客を降ろした後、そのままソーホー方面へ走行中……』

「逆尾行組に連絡。二人は客の尾行、車はアンノウンの追尾。まあ、タクシーの方は無駄だろうが……」

 陸士長が指示を伝え終わるのを待って、彼は訊ねた。

「で、客はどこで降りたって? 」

「はい、先程のヒルトン・ロンドンの1ブロック北にある、グロブナーハウスの近くのようですね」

「グロブナーハウス? あの、五つ星のか? 」

 陸士長も不思議そうに首を傾けながら答える。

「ええ、正面エントランスから中へ消えたそうです。あそこは今、日本やスイス等の、国賓だらけのはずなんですが……」

 彼は、リアシートに身を沈めて、考えに耽る。

”グロブナーハウスとは、また……。従業員? いや、正面エントランスからだとしたら、まさか客か? それともカムフラージュか? ”

 しかし、彼の思考は今、撒布界が広すぎ、一向にまとまらない。

 原因は判っている。

 今も彼の掌の上にある、可愛らしい包みのせいだ。

「客の尾行組に監視させますか? 」

 陸士長に言われて、小野寺は我に帰る。

「いや、もういいだろう。放置しても害はなさそうだ。撤収。タクシーの尾行も、次の客を拾うか、車庫に帰着した時点で撤収せよと伝えてくれ」

「イエッサー」

 ふぅっ! と溜息をついて小野寺は再び包みに視線を向ける。

「前代未聞のバレンタイン・ギフトだ」

 けれど、嬉しい、という感情はもう、隠しようもない。

 涼子の一所懸命さが、充分すぎるほど伝わってくる、それはチョイスだった。

「あ」

 しまった、と思う。

 アタッシュもなにも持っていない。

”このプレゼント、仕舞うところがねえなあ……”

 自分のうかつさを呪いながらも、心のどこかで、誰かに見つけて欲しい、見せびらかせたい、そんな子供っぽい感情を持っている自分に、彼は気付いていた。

 いい歳をしてなんてザマだと自分への腹立ち紛れに、乱暴に通信機のカフを上げ、外線に繋げた。

「マズア駐英武官は在席か? ……いや、じゃあ、いい。情報部のコリンズ二佐かスタックヒル補佐官を」


「軍務部長から? 」

 サザンプトン監督官事務所との電話会議を終えて第2応接室に戻ってきたマズアに、コリンズは目でソファに座るよう示した。

「ん。今、連絡があった。やはり室長代行目当てらしい」

 マズアは銀環の出した紅茶のカップを持ち上げながら、しかし口に運ぼうとはせず、独り言のように呟いた。

「てことはやっぱり、フォックス派じゃないと考えるのが妥当か……」

 ヒギンズは安心したような、そしてリザと銀環は不服そうな表情を浮かべたのが好対照で可笑しかったが、ツッコミは後回しにしてコリンズは先に報告事項を優先した。

「それで、アンノウンの客の方はグロブナーハウスの正面エントランスから中に入ったそうだ」

「グロブナー? 宿泊客か? まさか……。今、あのホテルは即位式典出席の各国国賓や随員で満員の筈だが」

「宿泊客か、従業員か、ただ避難しただけなのか……、それは判らんな」

 マズアはじっとコリンズをみつめて、声を低めて聞いた。

「じゃあ、今もグロブナーを張り込み中か? 」

「いや。警務部と言ってもSPだからな。本職じゃない、下手すりゃ敵さんを警戒させるだけだし、英国側の警備陣に要らん気を遣わせるだけだ。軍務部長が引き上げさせた」

 フム、とマズアは腕を組み、首を捻る。

「しかし、グロブナーハウスとは予想外のところへ潜り込んだもんだな。まさか客ではあるまいが」

「今グロブナーは英国国賓で溢れかえっている訳だ。警備も厳重、警官もうようよ。宿泊客や従業員ですら自由には動き回れない。そう言う意味では、こっちにとっては都合が良い」

 そう言ってから初めて、コリンズは表情を曇らせ、腕を組んで天井を見上げた。

「しかし、グロブナーハウス、か……。なにか引っ掛かるんだ。なにか……。なにか、思い出せそうなんだが……。ううむ……」

「グロブナーの宿泊客リストと従業員リストを入手できませんかね? 」

 ヒギンズの言葉に、コリンズは不明瞭ながらゆっくりと輪郭を現しつつあった”なにか”が、再びスッと霧の向こうに遠ざかるのを感じ、溜息を吐く。

「そうだな……。ヒューストンから手を回してもらおう」

 よほど溜息が大きく響いたのか、マズアが苦笑を浮かべつつ言った。

「ジャック。気持ちは判るが、まあ、そう根を詰めるな。あのタクシーはフォックス派じゃない。それが判っただけでもいずれにせよ、大きな収穫だろう」

 コリンズは、大きくうん、と肯いた後、マズアの顔を見ながら言った。

「いや、確かにそうなんだが……。違う意味で、厄介な事になりそうな気がするんだ……」

 マズアはコリンズの呟きを無視して他のメンバーに顔を向ける。

「君等も、今日はもう解散しよう。軍務部長は私がお待ちする」

 リザと銀環が殆ど同時に吐息を落とした途端、部屋の隅でインターフォンが鳴った。

 ヒギンズが立ち上がり、応答する。

「第2応接……。ラージャー、ホールド」

 振り返り、マズアに声を掛けた。

「武官。明日の警備体制変更の件で、スコットランドヤードのケインズ警備部長が至急ご足労願いたいと」

了解コピー、今から警視庁ニュー・スコットランド・ヤードにお伺いすると伝えてくれ」

 ヒギンズが応答するのを見て、コリンズは立ち上がり、電話の受話器を取り上げた。

「ああ、情報部のコリンズだ。すまんが、英国国防省に……。そう、MI5の部長、ケインズ少将に連絡して、今から私が行くと伝えてくれ……。それと、1001要撃航空隊司令とサザンプトンの守備隊司令にも……。ん、そうか……。すまんが、もう一度其々に電話して、MI5へ今から出頭するよう伝えてくれ……」

 受話器を置くと、マズアが疲れたような笑いを含んだ声で、話しかけて来た。

「お互い、まだまだ、寝られそうにないな」

 コリンズは、口の端で、静かに同意を示し、所在なさげに自分を見ているリザ、銀環に声を掛けた。

「駐英武官はスコットランドヤードにお出かけらしい。私も国防省まで行かなければならん。……という訳ですまんが、軍務部長が戻るまで、君達はもう暫く残ってもらえるか? 」

「アイサー」

 敬礼する二人に頷き返し、コリンズはヒギンズに向き直る。

「武官補佐官。すまんが、今から201師団司令部へ出頭し、戦務参謀のアネックス二佐と面会して、武官が受領してきた英国政府発行の銃器携帯・使用許可証を渡してきてくれ。ついでに警護増員計画についても説明を受けてきて欲しい。先方には私から連絡を入れておく」

「ラージャー」

 コリンズは出て行くマズアとヒギンズを無言で見送り、再び受話器を取り上げた。

「在駐英武官事務所、情報部のコリンズだ。軍務部長に替われ。……ああ、コリンズです。ご苦労様です。……実は、自分も駐英武官、武官補佐官も、急遽外出することになりました。……は。欧州室長代行の副官2名を残しますので、申し訳ありませんが、軍務部長からご説明をお願いしたいと……。は……。いえ、助かります。……では」

「あの、二佐」

 受話器を置くと、リザがおずおずと、と言った感じで声を掛けてきた。

「今の、その……。一体、何の話でしょうか? 」

 コリンズはソファの背凭れに掛けていたコートを手にとった。

「今後、君達の力が必要になる、……と、軍務部長はお考えだ」

「力……? 」

 コリンズはドアノブに手を掛けて言った。

「そうならん事を祈ってはいるが、ね」


 どさっ、とベッドへうつ伏せに倒れ込んで、マヤは大きな呻き声を上げる。

「何とか……、ギリギリ帰りつけた」

 時計の針は既に午前2時を過ぎている。冬の日の出はまだまだ先で、外はなお暗いが、微かに聞こえてくる街の喧騒は、明日が記念すべき祝典の日であることをマヤに教えていた。

「それにしても、おじさま……。私が1,000ユーロのトラベラーズチェック出したら、ほんとに驚いてたなあ」

 運転手の顔を思い出して、マヤはクスッと笑う。

 復路は往路とは違って堂々ロビーを通り、警備の警官の誰何にはイブーキ外務省発行の外交旅券を提示してあっさりと帰還を果たした~もちろん警官にはロイヤルスマイルでお忍びからのお戻りだから関係者には内緒でねとお願いしておいた~。ちなみに部屋に戻るのは往路と同じ、洗濯物のカーゴを踏み台にした通風孔コースだ。そっとドアを開いて様子を伺うと、侍従長は廊下のソファでぐっすりと眠り込んでいた。

 見つかってはいないようだと安心すると同時に、侍従長の年齢を考えて、ひどく申し訳ない気持ちになり、心の中で手を合わせておいた。

「疲れちゃったな、なんだか……」

 マヤは、ウン、と声をかけて身体を起こし、ノロノロとした動作で布団に潜り込む。

 このまま気を緩めれば、一瞬にして眠りに陥りそうなのだが、実際暗い部屋で瞼を閉じても、一向に眠れない。

 それどころか、どんどん目が冴えてきてしまい、とうとうマヤは、パチンと瞼を開いてしまった。

 闇の中、目を開けていようが閉じていようが同じだわ、焦らずに。最初はそう考えていたものの、だんだん暗闇に目が慣れ、ロイヤルスイートの高い天井の模様がぼんやりと判るほどになってきた。

 暫くすると、天井がスクリーンに切り替わり、4年振りに目の当たりにした、涼子の姿形、笑顔、泣き顔、緊張した顔、敬礼する姿、颯爽と歩く姿、銃を撃つ姿などが映し出される。

 会話を交わすことこそ叶わなかったけれど、ひとまず、愛しい女性の元気そうな姿を見ることができて一安心することができた。

 できた、けれども。

 マヤは寝返りをうち、窓にかかったカーテンを見ながら考える。

 ニューヨークで見つけた~見つけてしまった~写真の男性、彼との親しそうな間柄まで、今度は生で見せ付けられる事になるとは。

 今度はカーテンがスクリーンになった。

 そこに映し出されるのは、彼と涼子が話す姿、彼と涼子が抱き合う姿、彼が涼子をあやす姿。

 目尻から涙がポロッと零れて、枕を濡らしていく。

 仕方ない。仕方ないなんて言葉、使いたくはないけれど、仕方ないのだ、ろう。

 マヤと彼とでは、涼子との間に流れる、降り積もる、歴史が違うのだ。

 出逢ってから今日までの、過ごした時間も、立場も、何もかも。

 負け惜しみに聞こえるかもしれないが~実際、負け惜しみなのだろうけれど~、それは、これから先、それこそ涼子と二人、築き上げていけば良い、積み重ねていけば良い。

 その為には、面と向かい合って、まずは『再会』を果たさなければ。

 けれど。

「涼子様、本当に……。私のこと、忘れてしまっておいでなのかしら? 」

 今まで、何度となく己に質し続けてきた事だ。

 逢って、果たして、涼子は、記憶を封印したいと願い続けた過去を思い出してしまわないだろうか?

 再び傷つけ、哀しませてしまうことにならないだろうか?

 それならば、いっそのこと、涼子の手紙にあったように。

「忘れ去ってくれていれば良い」

 哀しいけれど。

 悔しいけれど。

 泣かせてしまうよりは、余程良い。

 それより、なにより。

「もう、私が限界なんだもの……」

 我儘な、自分勝手、自己中心的な、涼子の性格とは対極に位置する汚い感情だと、思う。

 だから、いつも自分は、この壁に突き当たるたび、開き直って前を向くしかなかったのだ。

「お願い、涼子様。もう一度だけ、マヤを甘やかせてください。貴女の大きな、優しい心に、甘えさせてください」

 マヤは再び仰向けになり、天井にスクリーンを切り替える。

 天井のスクリーンには、4年前のニューヨーク、パーティ会場で出逢ったシーンが映し出されている。

 スクリーンの中で、マヤと涼子は、くるくると幸せそうな笑顔を交わして、ワルツを踊っていた。

 あの、ワルツと同じだわ、とマヤは暗闇の中苦笑を浮かべる。

 自分の甘っちょろい性格は、4年経ってもちっとも成長なんてしてなくて、想いは同じところをクルクル、無様に回り続けるだけなんですもの。


 防衛機構ビルは、ロンドンのこの界隈では低層に属する8階建てのビルだが、エレベータは低層用・高層用の2系統が設置されている。

 1階~英国風に言えばロビーだ~にも低層用・高層用、地下駐車場からも同じく2系統。どちらも、外からでは判らないのだが、高層用の前には201師団から派遣された警衛が常時、AK4700を構えて立っている。

 小野寺は、地下駐車場の車寄せで警衛の出迎えを受け、高層用エレベータを使って駐英武官事務所に戻った。

「欧州室長代行副官が武官室でお待ちです」

 当直の女性二等空曹に案内された武官室では、コリンズからの連絡通り、涼子の2名の副官、リザと銀環が敬礼して立っていた。

「軍務部長、ご苦労様でした」

「おう、ご苦労。……ウチのB副官はどうした」

「シャロン一尉は、一足先に8階の部屋へ戻りました」

 まったくアイツは、と小野寺は苦笑を禁じ得ない。

 上官が囮役デコイで深夜のロンドンを駆けずり回っていると言うのに、暢気にさっさと寝てしまうってのは。

 けれど、その如何にも彼女らしい、それこそ『ライト・スタッフぶり~今度こそ、シャレの方の意味で、だ~』が密かに気に入っているのだから、文句を言う気もしなくなる。

 そんな事を考えていた小野寺は、リザの険しい視線が額に突き刺さってくる事に気づいた。

 手に持った涼子からのプレゼントの包みが気になるようだ。

 今更隠すのも癪に障る、と小野寺は、そのままソファに座り、テーブルの上へ包みを置いた。

「この歳でバレンタインなんてイベントを楽しめるなんて、思ってもみなかった」

「……楽しまれたんですか? 」

 背後から、棘のある口調でリザが答える。

”……モテるな、涼子”

「君達、まあ、座れ。話がある」

 リザと銀環は一礼して彼の向かい側に並んで腰を掛けた。

「敵は、室長代行狙いだったようですが」

 あまりに直球なリザの質問に、小野寺は苦笑を浮かべつつ答えた。

「……だな。だが、心配はいらん。石動にはSPが2名ついているし、ヒルトンもスコットランドヤードの重点警備対象だ。滅多なことは起こらんだろう」

 世間話をする空気でもないようだ。小野寺は煙草に火をつけながら、即座に本題へ入る事にした。

「君達を信用して、これから軍務局機密を開示する。在英メンバーでは軍務局長と俺の他、駐英武官、情報部のコリンズ以外は誰も知らんことだ」

 銀環は緊張した表情でコクンと頷いたが、その隣のリザは睨みつけるような視線をテーブルに置かれた可愛らしい包みに向けながら、鋭い口調で言った。

「それならばお話頂くなくても結構です、軍務部長。自分達をご信用いただいているのは光栄ですが、自分達は、失礼ながら部長を信用しておりません」

「ちょっ、せ、先任! 」

 銀環が慌てて執り成そうとリザの袖を掴む。

 一度、この触れば切れるような欧州室長先任副官と、機会があれば人をからかう事に情熱を燃やす自分の後任副官を対決させてみたいものだ。

 小野寺は、ゆっくりとテーブルの上に手を伸ばした。

「そんな君だから、信用すると言ってるんだ、三佐」

「なっ? 」

 小野寺は涼子から贈られた包みを持ち上げ、ソファへと移動させた。

 リザを挑発するのも頃合だったし、なにより、これ以上プレゼントを見せびらかすと、そのうち発火しそうなほどの視線だったからだ。

 既にチョコは箱の中で溶けているかも知れない。

「今から話すことは、君達の上官の身の安全に関わる事だ」

 声にならない叫びが聞こえたように、彼には感じられた。

 リザも銀環も、まさに驚愕のお手本のような表情を貼り付けている。

「だから、俺と君達とは確かに『恋敵』の関係だが、特にこのロンドン・ウィークの期間だけは、共同戦線を張ろうじゃないか」

「ロンドン・ウィークの期間だけ……、ですか? 」

 リザが掠れた声で問い掛けるのに、小野寺は頷き返す。

「欧州室長代行は、統幕勤務の高級幕僚としては、その配置上、シャバへの顔出し、マスコミへの露出が多いのは君達も知ってのとおりだ。なあ、B副官? 」

「は、はい? 」

 急に指名された銀環の返事は、驚いたのか声が引っ繰り返っていた。

「君は石動がシャバへ出るとき、留守番に回されることが多いとボヤいているらしいが、何故だか、判るか? 」

「え、いや、えと、その……」

 慌てふためく銀環を小野寺は苦笑で押さえつける。

「責めてる訳じゃない。石動は本能的に知ってるんだ。他の高級幕僚に較べて、自分が狙われる確率が高いことを。だから、同じ黒髪で東洋人のB副官が自分と間違われないよう、君を留守番に回している」

 銀環は両手で自分の口を塞いだ。

 一滴の涙と同時に震える声が聞こえた。

「涼子様が……、私の……、心配……」

 リザが横で溜息混じりに言った。

「後任。本当よ。……室長代行からは口止めされてたんだけど」

「う……! 」

 嗚咽を堪えようと必死の銀環から、小野寺は視線をリザに向けて言葉を継いだ。

「そして今回のロンドンウィークは、石動が今まで以上に不特定多数の一般人の前に、しかも長時間姿を曝す、その意味でも異例のイベントになる」

 小野寺は一旦言葉を区切り、短い吐息を吐いた。

「軍務局情報部が掴んでいる情報は、こうだ」

 二人の表情が徐々に蒼褪めていくのを見ながら、きっと彼女達はこの5日間、睡眠もままならぬ状態になるだろうな、と小野寺は少しだけ同情していた。

 もっとも、自分もそうなのだろうが、と苦笑することも忘れずに。

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