007 英雄の一歩

音のなくなった会議室のドアが開く。そこには赤き勇者ココロと、薔薇の参謀ハルカの姿があった。大勢のガードマンが一斉に身構える。取り押さえることも容易であろう。


「私がお呼びしました。この世界で最強のお二人です。」


綾瀬は二人を紹介すると、この部屋の誰もが言葉に出そうとしなかった現実を突きつけた。


「この世界で現実世界の常識は通用しません。権力は意味をなさない。」


「ただ、ココロはこの世界で1000人規模の人々を束ね、世界の頂点に君臨しています。今、人々が求めているのは、恐怖モンスターに打ち勝つ力です。安全です。」


「彼らの力を借りましょう。いや、貸していただくべきです。」


反対の声は上がらなかった。数分後、人々の視線の先には、大量のモンスターを一瞬でほふるココロの姿があった。ココロは魔法で空中に浮かぶと、高らかに宣言する。


「この世界の安全は、僕をはじめ冒険者が守り抜く。安心して暮らしてほしい。」


安全圏プレイヤータウンに響き渡ったその声は、彼の雄姿は、人々を混乱から解放した。ギルドメンバーがこの世界の情報を拡散し、人々がルールを理解したことも平静を取り戻す力となったことはいうまでもない。


ココロが人々から英雄視されるヒーローになるまで時間はかからなかった。ココロとしては若干の恥ずかしさもあったが、混乱が収まった、それだけでうれしかった。ハルカもニコニコと笑っているが、その目の奥にはココロに近づく悪い虫を狩る、するどい光が宿っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る