006 縋るもの

会議室の外では、暴動が起きようとしていた。警戒システムルールに従い、コンマ数秒で制圧される。強引なかたちではあれ、治安は維持されていた。ただそれは灰色の世界、殺伐とした雰囲気を帯びている。そんな現状を悲しむかのように、綾瀬あやせひとしはフレンドリストからある人物に連絡をとり始めた。


この世界は本当の人間プレイヤー人ならざる者ノンプレイヤーキャラの均衡によって維持されている。多くのプレイヤーが依頼を受けることで、NPCとの関係を保っている。モンスターが侵攻しても、ギルドが対抗する。さまざまな素材、もちろん食料も基本的にNPCが生産している。ホテルや商店も基本的にNPCが運営している。


その均衡が今、崩れようとしている。新参者新たな移住者によって。


もし、AIがプレイヤーを害なす者、と認識してしまえば、この世界は成り立たなくなってしまう。そもそも望んでFWこの世界に来ていた者の方が少数派なのである。綾瀬はそんな危機感を率直に伝えた。


「このままでは、この世界は持たない。」


通信の相手はココロだ。隣でハルカも聞いている。ここはゲームの世界である。どこまでいってもそれは変わらない。強者は正義、そんな古めかしい考え方ルールもこの世界の底にはある。ただ、実力を行使しようものなら警戒システムに拘束される。


すなわち、この世界の統治はを持たない。


それは現実世界の行政が無力であることを物語っていた。現実を突きつけられたかたちとなったココロは、ハルカとともに会議室へ向かう決意をした。おそらく何もできないだろう。しかし、自分たちの愛したこの世界が灰色に染まる、そんな未来など見たくなかった。


会議室では情報の公開を進めるべきだ、という当たり前の結論を得ていた。放り出された閣僚はというと、モンスターの餌食となり、静寂の泉リボーンエリアで復活していた。この世界で権力は無意味である。法秩序ですら。警戒システムがルールであり、それ以上でもそれ以下でもない。沈黙する会議室、は音もなく崩れた。

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