第2章 避難

005 混乱

ココロをはじめとする秋桜コスモスのメンバーは、ギルドホールに集まっていた。秋桜コスモスのギルドホールはとてつもなく広い。1000人が普通に寝泊まりできる。要するに、ただ暮らすだけならばそこまで苦労しない。そもそもこの世界をプレイヤーの集まりであるため、さほど混乱もないようだった。なかには制限エリアの探索をしようとする者までいた。


ただ、この世界に来たことのない人々は違う。知らない世界への恐怖心が原因となり、混乱を極めていた。特にモンスターに関する設定はそのままであり、安全圏プレイヤータウンからは見えないが、強力なモンスターも確実に存在している。この事実だけでも人々を恐怖に陥れるには十分だった。


ただ泣き叫ぶ人、政府関係者に対応を迫る人、警戒システムルールに触れて拘束されている人。もちろん避難にあたり、さまざまな説明がなされた。「安全圏セーフティゾーンにいる限り安全であること」の説明には最も時間が割かれたといっても良い。一度は理解したはずの安全。半強制的とはいえ一度は受け入れたはずの世界。混乱は、そんな人々の理性をたやすく奪い去るものであった。


そのころ、総理大臣をはじめとする政府関係者は、インテグラルの運営を交えて会議を行っていた。インテグラルの担当者が状況を説明するが、政府関係者との間にはギャップがあるようだった。


「警察が対応すべきだろう。」


「いや、火に油を注ぐだけだろう。ここは会見を開いて情報を。」


「しかし座視すれば支持率に影響します。これ以上の低下は避けなければなりません。思い切って軍を投入するべきです。」


「国民に銃口を向けるのか。そんなことをしたらどうなる。」


「ひとまず武器は確保すべきでしょう。おい、運営の君。銃を準備してくれ。」


「我々の安全も確保しなければならん。軍の人間をすぐに集めろ。」


「それには法的根拠が…。」


一瞬途切れた現実世界的な発言コトバの間隙に、運営担当者がこの世界の正論コトバをねじ込む。


「ですから、この世界ではそんなことはできません。警戒システムルールがありますから。現実世界の役職など関係ないんです。この世界では皆等しい存在プレイヤーなんです。」


混乱への対策は遅々として進まない。もちろんほとんどの政府関係者がFWこの世界を知っている。しかしそれはソフトユーザー的な理解でしかなく、RPGとしての側面には触れたことすらない者も多かった。インテグラルのデータによれば、ソフトユーザーの割合は6割。全国民がこの世界にいる今、この世界を知っているのは、全体のたった2割程度いうことを意味していた。


「それでは、何もできんではない…。」


運営担当者に何かを投げつけようとした閣僚の一人が光の塊となり、安全圏の外へと転移させられた。モンスターがいる世界エリア、彼の知らなかった世界エリアへ。

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