第104話 赴任
「酷い目に遭った」
「モテ男は大変だな」
「だから仕事だっての!」
「わかってるって、お仕事大変だよな。ところで日本史の津川先生。今日から産休に入るらしいよ」
「そうなんだ。初耳だった」
「お前はちゃんと授業を聞いた方がいいぞ。いくら公休扱いで休めても、テストの点数は忖度してくれないんだからさ」
「(知力のステータスが高いから、そう苦戦はしないんだけど……)で、新しい先生ってどんな人なんだ?」
「若い女性らしくて、男子はみんな喜んでいる。広瀬はもはや、その程度の刺激では興奮しないよな」
「その言い方、ちょっと棘がないか?」
「ほら、来たぞ」
教室に戻ってクラスメイトたちと話をしていたら、先ほどまで校長室で俺を糾弾していた中村先生が入って来た。
一緒に若い女性……俺も久美子たちも、もの凄く見覚えがあるんだが……。
「みんな、津川先生の代わりに日本史の授業を担当する、土御門先生だ」
「土御門蘭子です。よろしく」
「「「「「やったぁーーー!」」」」」
若く美しくはある、ゼロ課の刑事土御門蘭子。
俺以外の男子生徒たちは大喜びであったが、俺は刑事がどうやって教師にという疑問しか頭になかった。
そしてさらに、どうしてこの学校に教師として?
教員免許の有無とか、そう都合よくこの学校に赴任できるのかとか……お上が動いたのかね?
とにかく俺は、嫌な予感しかしなかった。
「みんなぁーーー、はしゃぎすぎだぞぉーーー」
「裕ちゃん、中村先生が一番はしゃいでいるよね?」
「そうだな」
「あんなにわかりやすい喜びようはないわね」
涼子の言うとおり、としか言いようがなかった。
土御門蘭子は若いし、綺麗だし、独身……だよな?
スタイルもよく、一見上品なお嬢様でもあるので、中村先生の食指が動かないわけないか。
一方の土御門蘭子は、彼にまったく興味がないようだけど。
「またも、中村先生の一方的な片想いね。そのうちストーカー化しないといいけど……」
「清水さんの懸念を否定できないし、中村先生がフラれる未来しか見えない……裕ちゃん、中村先生に春は来るのかな?」
「あきらかに師匠狙いですよ、彼女」
「だよなぁ……」
先日の、色情霊の事件。
警視庁より、心霊事件担当であるゼロ課から、この土御門蘭子と赤松礼香が派遣されてきた。
ところが二人はこれまでのセオリーに拘り過ぎ、手柄を俺たちに奪われてしまったのだ。
悪しきマニュアル至上主義の弊害というやつだな。
挙句に、岩谷彦摩呂と不毛な口喧嘩をして、多田竜也が悪霊によって呪い殺されるところを俺たちに救われてしまった。
目方警部によると、先日の事件で警視庁の面子は丸潰れだったそうだ。
多田信也の圧力に屈して多田竜也を逮捕できなかった県警上層部が警視庁にドヤ顔する資格はないと思うが、目方警部によると連中こそ魑魅魍魎みたいなものなので、別におかしくはないらしい。
きっと、呪いで羞恥心がなくなっているのであろう。
そんな事情があって、俺たちは土御門蘭子に恨まれている可能性が高かったわけだ。
「完全なる逆恨み……」
「ですよね? 師匠」
俺は、基本的にこの人苦手なんだが……。
中身が岩谷彦摩呂に似ていて、あの口喧嘩を見れば誰でも同レベルだと思うであろう。
「土御門蘭子よ、よろしく。広瀬裕! 放課後に補習よ!」
「もう少しマシな理由は思いつかないんですか?」
俺はレベルアップの影響で知力が高いから、別に勉強なんてしなくても赤点なんて取らないんだが……。
他にやることが多いというのもある。
出来れば早く用事を終わらせてほしいと、心から願う俺であった。
「(広瀬……なぜお前ばかりモテる?)」
あと、中村先生の誤解を誰かに解いてほしかった。
土御門蘭子なんて女に俺は微塵も興味などなく、好きに口説けばいいのにと思っているのだから。
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