第3話 いきなり退治!
「まさか……この俺様が! この世界のすべての生なき者たちを率いる、死霊王デスリンガーたる俺様が滅ぶだと!」
「お前はこの世界のバランスを崩し過ぎたんだ。神々もお前の所業に怒っているからこそ、俺たちパラディンは邪なる神であるお前を滅ぼせる。そういうことだ」
「クソォーーー!」
「滅ぶがいい! 死霊王デスリンガー!」
俺が異世界に召喚されてから、三年もの月日が流れた。
同じく一緒に召喚された異世界の勇者、死霊王デスリンガーを滅ぼせる素質を持つパラディンという称号を与えられた他三名の仲間たちと共に厳しい鍛錬を行い、死霊王デスリンガーの配下たちと死闘を演じ、ついに死霊王デスリンガー本人に致命的な一撃を与えることに成功した。
死せる者の神である死霊王デスリンガーには実体がなかったが、邪なる神を殺すため、善の神々より与えられた神刀ヤクモからは、大きな手ごたえを感じていた。
「神々より与えられし、神刀『ヤクモ』の威力はどうだ?」
「同じく、神々より授かりし、神槍『キヨマサ』の威力も侮ってもらっては困るわ」
「神弓『ヨイチ』による一撃も、なかなかのものでしょう?」
「神扇『ランブ』も忘れないでほしいかな」
死霊王デスリンガーとは、実はこの世界を支配する神々の一人であった。
彼は死の世界を統括する、いわば陰の神というわけで、そんな彼だからこそ世界の半分を支配する生の神たちを憎んだのかもしれない。
生の世界には争いが多く、生の世界など碌でもないと、ならこの世界をすべて死の世界にしてしまえばこの世界は平和になる、と拗らせての犯行であった。
そんな厨二病を拗らせた死霊王デスリンガーに対し、最初神々はなかなか動けなかった。
基本的に神とは世界を見守る存在であり、簡単に手を出してはいけないという不文律があったからだそうだ。
ところが、さすがにこれ以上建前を重視しているとこの世界が滅んでしまうので、神々は俺たちパラディン四名に神が作った武器を与えたというわけだ。
俺には、神刀『ヤクモ』が与えられた。
神が打った日本刀によく似た刀で、これに斬られて無事に済む死霊・アンデッドは存在しない。
その代わり、生物を斬ってもなんらダメージは与えられないのだが。
パラディンとは、死霊・アンデッドのみに対し絶大な力を示せる者。
つまり、死んでいる者にしかその強さを発揮できないわけだ。
パラディンは攻撃魔法も使えるが、それはあくまでも死霊とアンデッドに対してのみの攻撃魔法なので、生物にかければ治癒魔法にしかならなかった。
他にも、毒や麻痺や呪いを解いたり、敵の攻撃魔法を防ぐバリアーを張ったり、身体能力を上げたりと。
色々と使えるようになったが、やはり生者への攻撃には使えないものばかりだ。
異世界から召喚された俺たちパラディンは、通常のRPGゲームのようにパーティメンバー間の職業バランスなどは一切考慮されていない。
全員がパラディンで、神々から与えられた武器が各々得意くらいの差しかなかった。
パラディンとは、称号のようなものなのだそうだ。
「死霊王デスリンガー、とどめです!」
俺に続き、二人目のパラディン清水涼子(しみず りょうこ)さんが死霊王デスリンガーの腹部を神槍『キヨマサ』で貫いた。
彼女は名前からして俺と同じ世界から召喚されたのかと思ったが、彼女の世界には除霊師なる職業の者は存在しない。
もしいても、詐欺師扱いされるケースが多いそうだ。
どうやら、俺のいた世界とよく似ているが、細部が色々と違うパラレルワールドのような世界から召喚されたらしい。
つまり、俺が元の世界に戻ると二度と彼女には会えないというわけだ。
三年ほど一緒にやってきたけど、別に恋人同士にはなっていないので、悲しい別れとかはない……美少女と別れるのが寂しくない男はいないか。
ちなみに彼女は、俺と同じ年だそうだ。
身長は、女性にしては高めで百七十センチほど。
スレンダーながらもスタイル抜群で、腰まで伸ばした黒髪がよく似合う美少女であった。
ちょっと胸が薄いと思ってしまうのは、久美子の胸がかなり大き目だからかもしれない。
そういえば、久美子は元気だろうか?
「もう一撃! 神弓『ヨイチ』よ!」
三人目の仲間は、葛城桜(かつらぎ さくら)さん。
やはり彼女も、俺や清水さんがいた世界とよく似ているが、やはり細部が違う世界から召喚されてきたそうだ。
年齢は俺の一個上だが、身長は百五十センチほどしかない。
久美子よりも背は低いが、胸の大きさはそんなに変わらないのが凄いと思う。
ショートカットで、とても活発そうに見える元気な子だ。
彼女は高校では弓道部だったそうで、今もその実力をいかんなく発揮していた。
「どう? 神扇『ランブ』の切れ味は? なかなかでしょう?」
四人目は、木原愛実(きはら あいみ)さん。
彼女も俺と同じ年で、高校では部活に所属していなかったが日舞を習っていたそうだ。
彼女は、扇子を武器とする変わった戦闘方法を用いていた。
開いた扇子をまるでブーメランのように遠くから投げて敵を切り裂き、まるで踊るように敵に接近して、鋭い扇子の先で相手を攻撃する。
扇子は遠近両方の戦いに対応できる優れた武器なのだが、こんなことができるのはこの世界で鍛練を受けた木原さんだけだと思う。
実は彼女、美しい金髪と西洋人と見間違えるほどの白く透き通るような肌が特徴なのだが、髪は染めているわけではなく、祖母がアメリカ人で隔世遺伝なのだそうだ。
左右ひと房だけ、お気に入りの組み紐で結んでおり、日舞をやっている割には明るくてムードメーカー的な子であった。
胸の大きさは普通で、そこは祖母の血を引かなかったようだ。
「裕! あんたがリーダーなんだからちゃんと決めなさいよね」
「わかったよ」
召喚されたパラディンの中で、男性は俺一人だけだ。
自然というか、面倒だからというとんでもない理由で俺がリーダー役に就任したわけだが、正直なところちゃんとリーダーとしてやれていたのかは不明であった。
それでも、今こうして死霊王デスリンガーを滅ぼす瞬間が訪れたのだから、終わりよければすべてよしであろう。
「死を統べる王よ、お前はやり過ぎた! これより永遠に輪廻の輪の中で苦しむがいい!」
本当は、生を統べる神々と対の存在である、死を統べる神死霊王デスリンガーを滅ぼすことができない。
だが今回だけは例外で、俺たちは神々から武器を授かりこれを滅ぼせるというわけだ。
倒された死霊王デスリンガーは、他の生物と同じく輪廻転生の輪に入り、神々は代わりに死を統べる神を誕生させるそうだ。
両者は対の存在なので、片方が滅んだままだとバランスが崩れて世界自体が崩壊してしまう。
死霊王デスリンガーの代わりの存在を作り出し、両者の対立関係を維持するしかないのだそうだ。
それでも、こいつを倒せるのはいいことだ。
元の世界に戻れるのだから。
そういえば、久美子は元気だろうか?
物心つく頃から毎日一緒だったので、三年も顔を合わせないと違和感を感じてしまう……いや、今まで恥ずかしくて言えなかったが、俺は久美子のことが好きなんだろうな。
だから、会いたくて仕方がないのだ。
「じゃあな、死霊王デスリンガー。次はミジンコにでも生まれ変わるんだな」
「貴様ぁーーー!」
「いやだって、その可能性も十分にあるから」
今回の罰で、死霊王デスリンガーは二度と神に転生できないことになってしまった。
つまり、ミジンコへの転生も十分にあり得るのだ。
「俺様は消滅しないぞ!」
「例え神様でも、諦めが肝心だから。そこはこう考えよう。ミジンコでも、なにかいいことがあるかもしれないと」
「誰がミジンコなどになるか!」
「それを決めるのは俺じゃないし、まずは消滅して転生ルーレットガチャを回せるようにしてやる」
すでに、俺の先制攻撃と涼子さんたちの連続攻撃を受け、死霊王デスリンガーは身動きできない状態であった。
あとは俺が、その心臓にもう一撃入れてトドメを刺せば終了だ。
「裕君、長かったわね」
「裕、ようやく終わりね」
「裕、早くやってしまいなさいよ」
この三人とも色々とあったが、今ではいい思い出になった。
このあと彼女たちとは離れ離れになってしまうが、こればかりは仕方がない。
住む世界が違う……誤解を招くような言い方だが、本当によく似た別の世界に住んでいるのだから。
「じゃあ、さよならだ。死霊王デスリンガー」
「ちくしょうぉーーー!」
神刀『ヤクモ』による心臓への一撃により、死霊王デスリンガーは塵となって完全に消滅してしまった。
これでようやく元の世界に戻れると思うと、嬉しくもあり、名残り惜しくは……早く元の世界に戻って牛丼とラーメンを食べたい気分だ。
ああ、久美子に会いたいな。
「牛丼とラーメンって……もっと他にないのかしら?」
「ない。なぜなら牛丼とラーメンは至高の存在だから」
涼子さんはいいところのお嬢様と聞いているので、俺が牛丼とラーメンを食べたいと言ったら呆れていた。
セレブと庶民との間には、これほどまでに大きな認識の差があるというわけだ。
「涼子はお嬢様だから。私も牛丼とラーメン食べたいわね」
「私、ハンバーガー!」
桜さんと愛実さんは、俺とそう生まれに違いはないので、庶民の味を食べたいと言っていた。
愛実さんはハンバーガーと言うあたりが、四分の一とはいえアメリカ人の血が流れているだけあるなと思ってしまうのだが。
「できれば、みんなで牛丼食べたかったけど」
「それは無理ね」
四人とも元の世界に戻ってしまえば、もう二度と会えないのは確実であった。
全員がこの世界に残れば一緒にいられるが、俺は元の世界に戻りたい。
なぜなら、きっと久美子が待っているはずなのだから。
「裕君は、彼女さんに会いたいわけね」
「そうだな。まだ彼女じゃないけど」
「ふーーーん、ここに美少女が三人いてもそんなことを言うのね」
「私たち、そういう男子いないものね」
涼子さんはお嬢様で、校則の厳しい女子高に通っており、男女交際に制限があるらしい。
桜さんは部活の先輩たちからマスコット扱いされ、男子が近づくと女子たちにガルガルされてしまう。
愛実さんは、よく外人と間違われて男性が尻込みしてしまうそうだ。
あくまでも自己申告なので、それが事実かどうかはわからないけど。
「ようやく死霊王デスリンガーを倒せたんだ。まずは凱旋しようか」
「そうですね」
「賛成!」
「あの女王陛下、ちゃんとお礼言うかしら?」
「さすがに言うだろう。そのくらいは」
三年もかかってしまったが、俺たちは無事に死霊王デスリンガーを倒すことに成功し、アーデル王国へと凱旋することができたのであった。
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