第6話



 分かりやすく言えば、この世界は精巧に作られたシミュレーションゲームのような物らしい。


 正規の神様に徹底管理された世界。


 しかし、そこにある日不具合が生じた。


 例えるならロールバック現象。


 オンラインゲームなどで見られるそれは、ある時点で修正不可能な障害が発生した場合に、過去の障害がみられない時点まで時間が巻き戻される現象だ。



「なら、世界は日曜日から金曜日までをずっとループしてたっていうのか?」


「そういうこと。君にだって何か心当たりがあるんじゃないかい?」


「……言われてみるとそうかもしれない」  


「とかく、彼らが突き止められなかったロールバックの原因を僕は突き止めてしまった。で、問題点を指摘したんだけどまるで相手にされなくてね。でも、僕はあきらめ切れなくて無理やり干渉した」


「それが非正規の意味か……」


「僕はこの聖域――つまり君の部屋にいる間は彼らに感知されない。……でも、さっき飛び出してしまったから――」



 コンコンコンコン。



 扉を叩く音に驚き、俺たちは息を飲んだ。

 激しく体を震わせるロリエル。


「この頭に直接響いてくる感じ……やつらがすぐそこまで来てるんだ!」


 ロリエルの瞳孔は小刻みに震えていて、もはや半狂乱。

 俺は肩を掴み、


「しっかりしろって! もしやつらが来ても俺がなんとかしてやるから!」


 視線が合うと次第に血の気が戻り、ロリエルは少し落ち着きを取り戻した。 


「奉助……ありがとう。でも、そんなの無理だよ……」


「勝手に決めつけるな! 俺が追い返してやる!」


 勇んで立ち上がり玄関の方に向かおうとする俺を、彼女が呼び止めた。


「待って! どうせ消えるなら……この会話さえ君の記憶から消されるとしても……君に謝っておきたい事があるんだ!」


「……謝る?」


「僕が君に近づいたのは別に君が気に入ったからじゃない。特異点である君のおばあちゃんの死を覆せるなら誰でもよかったんだ」


「そんなの俺は気にして――」


「違うんだ! 君は僕にとってただ都合が良かった。君は両親もいないし彼女もいないし友達も少ない。バタフライエフェクトの副作用を減らし、リスクを最小限にするのに君は本当に都合が良かった。つまり僕は君の恵まれない境遇を利用したんだよ」


「そんな事――」


「でもね奉助、僕はこの数日君と過ごして気づいたんだ。こんな事言う資格は僕にはないのかもしれないけど……僕は君の事が――」


 シャツが音もなく床に落ちた。

 その言葉の続きをもう聞く事はできないのだと俺は悟った。

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