第2話
“僕が君の彼女になってあげるよ”
目の前の銀髪銀目の美少女は確かにそう言った。
上はたぶん俺のシャツを着ている。下はたぶんパンツ穿いてる……よな?
「ていうかお前どこから入って――」
「どこから入っただって? その質問はナンセンスだよ。僕は
「は?」
「僕の名前はロリエル。君を幸せにするためにやってきた。愛を込めてロリえもんと呼んでも――」
「いや、呼ばねえよ!」
「そうかい? まあ、未来から来たけど未来から来たわけじゃないしね。じゃ、ロリエルと呼んでくれよ。……あ、初めに言っておくけどこの姿はアバター詐欺とかじゃなくて、本当の僕の姿だし年齢も性別も見たまんまだから安心してね」
「いやそんなこと心配してねえし、年齢が見たまんまなら10歳かそこらだろ? 余計まずいだろ! 家はどこだ? 早くおうちに帰りなさい!」
「僕は神様だから帰る家なんてないよ。てか、むしろここが僕にとって唯一のサンクチュアリだからよろしく!」
「何を言ってるの良くわからんが、お前帰らないどころかここに住むつもりなのか?」
「いやいや、流石の僕でもそこまで図々しくはないさ。だからさ、とりあえず今晩泊めてよ。ね? ね? お願い!」
「そんな飲み会後のノリでこられても……」
「てかキミさぁ、僕が神様だってまだ信じてないよね?」
「ああ、一ミリも」
「ふーん。僕がその気になれば君は巨万の富を築く事もできるんだよ?」
「はいはい。じゃあ、試しにその巨万の富とやらを授けてくれよ」
「ふふふふ、いいだろう。君が腰を抜かすほどの大金をくれてやるよ。ちょっと待ってて」
そう言うとロリエルはシュタタッとトイレに駆け込んで扉を閉めた――と思ったら、半開いて、
「絶対に
「覗かねえよ!」
――鶴の恩返しじゃあるまいし、てかそれ以前にトイレだし。
それからたっぷり15分が経過した。
――遅い。それにやけに静かだ。
「おーい。だいじょうぶかー?」
リビングから呼んでみるが返事がない。
俺は心配になって腰を上げ、トイレのドアの前に立った。
見るなと言われたが聞くなとは言われていない。
俺はドアに耳を近づけた。すると――
クチュクチュクチュ、ハァハァハァ……
――人んちのトイレで何やってんだコイツ⁉
「おいお前! いい加減に――」
しかし、俺の怒声は水が流れる音でかき消された。
そして出てきたのはヤケに肌つやの良くなった自称神様。
「はぁー、スッキリしたぁー」
「……じゃねえだろ! 何スッキリしてんだよ! 大金はどうなったんだよ⁉」
「あせるなあせるな。ほら、自分のスマホで貯金残高確認してみ?」
俺は溜息をついて、騙されたつもりで端末から口座を開いてみた。
「……な⁉ 増えてる⁉ 本当に増えてる⁉」
「どうだ見たか! これが神の御業だぁぁぁはっはっはー!」
「いや、確かに増えてる。そこは素直に驚いた。だが20万円って巨万の富って言うか?」
「何を言う。安月給の君にとっては大金だろう?」
「いや、まあそれはそうなんだが……」
「ともかくこれで信じてくれたよね?」
「う……うーん」
「何だい⁉ その微妙な反応は⁉」
「いや、神様って言うよりデイトレーダーって言った方がしっくりくるんだよなぁ」
「ぐぬう……。じゃあ、こうしよう! 君が今一番望むことを言ってみなよ!」
「へえ? なんでもいいのか?」
「ああ! 叶えられる範囲で叶えてやるともさ!」
「叶えられる範囲ねぇ……」
「う……うるさい! ほら、とにかく何か言ってみなよ!」
「はあ……わかった」
――俺が今一番望む事か……。それは間違いなく“あれ”だろうな。
「時間を……戻してくれ」
「それは……」
「やっぱり無理だよな? 悪い、俺もどうかしてた。忘れてくれ」
「無理じゃない! 無理じゃないけど……無理なんだ」
「は? それはどういう意味だ?」
「いつかは戻せるけど。今は……無理なんだ」
「そっか悪かったな。なあ、もう悪戯はこの辺でいいだろ? いいかげん帰ってくれないか?」
下を向いて立ち尽くす彼女。
少し言い方がきつかったかもしれない。
だがこの子の家族も心配していることだろう。
多少強引にでも帰すべきだと思い、手をとろうとした瞬間――
「……僕、君の口座に20万振り込んだよね?」
「え?」
「僕は確かに君の口座に20万振り込んだよね?」
「あ、ああ……」
「君はそれを受け取った。それを宿泊費だと思ってくれたら何の問題もないじゃないか! やっぱり僕って天才だなぁ!」
「ぐ……ならこの金は返――」
「無理しない方がいいよ? 生活苦しいんでしょ? 神様はね、君みたいな幸薄そうな人間がだ~い好きなんだよ?」
「こいつ……」
「だから泊めてよ。ね? いいでしょ?」
「はあ……わかった。ならせめて親に連絡しておけよ?」
「だから僕は神様――」
「わかったわかった。訳ありって事なんだな? もう詮索しないから面倒事だけは起こしてくれるなよ?」
「何か勘違いされてるみたいだけどひとまずそれでいいよ。末永くよろしくね!」
「末永くは余計だ!」
グゥ~
突然腹の虫が鳴った。俺じゃなく彼女のだ。
「晩飯食べてないのか?」
「うん」
「これで良かったら食うか? 半分こだけど」
「いいの⁉ わーい!」
それから俺と彼女はやたら薄味で筋張った牛丼を頬張った。
大したものでもないのになぜかそいつはやたら旨そうに食べていた。
綺麗好きなのか風呂には入って来たようで、俺だけシャワーで汗を流してその日は寝る事にした。
無論布団は一つしかない。
秋の寒さを打ち消すように背中合わせに寄り添って眠る。
妹がいたらきっとこんな感じなんだろうと思う。
「ねえ、奉助?」
「なんだ?」
「この布団汗臭い」
「悪かったな」
「でも、嫌いじゃない」
「……さっさと寝ろ」
そんな風にして夜が更けていった。
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