彼女は引きこもりだけど引きこもりじゃない

和五夢

第1話


 朝早くからひっきりなしにクレームの電話対応。

 ひたすらに怒鳴られて謝って気がついたら夜の8時過ぎ。

 帰路の途中、業務用スーパーで牛丼一杯99円を購入するのがお決まりの流れ。

 

 俺は一条いちじょう奉助ほうすけ、22歳。

 ある事情から大学を中退して社会人二年目。

 安月給のブラック会社で心をすり減らす使い勝手のいい社畜だ。


 毎日、毎日変わり映えのしない日常の繰り返し。


 ――あれ? 日曜にあんなことがあったのに俺はどうして……。


 古アパートのきしむ階段を踏みしめながらそんな事がふと頭に浮かぶ。


 もう心が限界なのかもしれない。



 錆び付いたドアの前に立ち、カギを突っ込んで回す。

 扉を開けて手探りで玄関の豆電球をつけて薄暗い部屋を一望するといつもの殺風景な景色が広がる。


 1LDK。家賃月2万の格安物件。

 右手にはキッチン、左手にはユニットバス式のトイレ、そして正面にはワンボックス型のリビング。


 シンプルイズベスト。

 一人暮らしの俺にはこれで十分。

 そこに不満はない。


 憂慮すべきことがあるとすれば


 “この物寂しい生活がずっと続いていくのではないか”

 

 という漠然とした不安。


 願わくば――



「……彼女が欲しい」 

 


 そうぼやいて内カギをカチャリと閉めた。




「その願い聞き届けたよ」


「⁉」



 俺は誰もいないはずの後ろを振り返った。

 まだ薄暗いはずのリビングルームに浮き上がる小さな人影。

 窓から差す僅かな月光を反射し眩しく輝く銀色の髪と水銀のように怪しく揺らめく銀色の瞳。

 齢にして12歳かそこらの美少女は不敵な笑みを浮かべてこう言った。





「僕が君の彼女になってあげるよ」



 

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