第3話→
窓際から二列目、後ろから二番目それが今回の席替えで決まった、私のクラスでの居場所。
私の名前は舞阪アリス、この場所で授業を受け、予習をし、時々本を読んだり、スマホの小説サイトを覗いては作品を見たり、今日の夕食の献立を考えたりしてる。
私は自分の名前があまり好きではない。このルイス・キャロルの有名な作品の主人公と同じ名前は私には可愛らし過ぎて。
お陰で、小さい頃から名前でからかわれたりして、いつの間にか、人前で挨拶したり、目立ったりする事が苦手になってしまった。
いえ、名前の事なんて所詮言い訳なのだろう。
結局は、私が一歩を踏み出せなかっただけなのだけど。そして、その一歩を踏み出せないまま、時間ばかり重ねている。
今、私の席の周りには、前後に知り合い無し。右は、同じ中学だった後藤君。
後藤君とは、昔色々あって、少し話し辛い。前の席に座っている前原さん込みで……笑顔が素敵な優しい人なんだけど。
左の席の男子は、歌川清水君、しみずと呼ぶのかな?
少し調子が良い気がするけど、優しくて親切で少し格好良い。
他の女子も言っていたけど、背も高目だし顔もアイドル俳優(私は、よく知らない人だった)に似ているらしく、イケメンさんだ。
まぁ、内気な私には関係無いかな?なんて最初は思っていた。
机の上の落書きを見るまでは。
『お隣さんは、君を気にしてる』
思わず、左右を見渡す。
私の、隣は後藤君と歌川君だ。
最初は、後藤君の事かと思っていた。
彼は、同じ中学だったし、優しいから高校に入っても一人きりで友達を作れない私を気にしてくれているのかと思ったからだ。
でも、彼は意識的にだろうか?私を避けようとしている気がする。と言うよりは彼には前原さんみたいに可愛らしい彼女がいるのだから私なんかに関わっている暇なんて無いだろう?
じゃあ、歌川君が?と考えていた時だった。
歌川君が、私に話し掛けて来た。
話はなんて事は無い、昨夜の天気の事だった。
昨日は、確か現国の予習をしていたら、眠ってしまって部屋の小さなテーブルにうつ伏せになって眠ってしまったな、雷なっていたかな?……あれ?そう言えば……歌川君と話しながら、少し焦っていた。
昨日、予習をした後、教科書入れた?
不味いです。私の様なコミュ症にとって、教科書を忘れるって事はかなり不味い事になる。
あぁもう、せっかく予習をして来たのに!!と言うより教科書どうしよう?先生に忘れたと正直に言おうか?
……うん、多分、隣の人に見せて貰ってってなるよね?
エー!!どっちに?と言うか、この流れだと、歌川君に見せて貰う方が良さそうだよね?
あー、失敗した、失敗した、失敗した!!
私は、笑顔で歌川君と話す間、頭の中をぐるぐるさせて恥ずかしがっていた。
でも、どうしよう嫌な顔されたらどうしよう。
せっかく、仲良くなれたのに。
そんな時に、あの机の落書きを思い出した。
もし、あの矢印の落書きが本当なら……。
「あぁ、そう言えば隣なのに、ちゃんと挨拶して無かったな。僕は歌川清水よろしく舞阪さん」
歌川君が自己紹介してくれた。
あっ、きよみずって言うんだ。
素敵な笑顔での挨拶だった……なら、私も。
「はいっ、改めて舞阪アリスです。よろしくお願いします」
つい、フルネームで、挨拶してしまいました。
言ってから顔が赤くなってしまいます。
すると、歌川君の方も顔を明らめているのに気付いたのです。おまけに名前も誉めて貰えました。
嬉しくなった私は素直に、
「あの歌川君、いきなりで申し訳無いですけど」
困り顔で教科書の事をお願いしてみた。
歌川君は、優しいとは思っていましたが、快く受け入れてくれるどころか、自分は良いから貸すとまで言ってくれた。
勿論、そこまで甘える訳にはいかないけど、その優しさが凄く嬉しかった。
正直、私は少し浮かれていたと思う。
高校に入学して、他の人と話す事が余り無かった私が、異性のしかも少し格好良い男子と仲良く話す事が出来て、尚且つ友達一号だねと迄言われたのだ。
机の落書きに少し感謝したくなった。
歌川君が見ていない間に、私の机の落書きに矢印を書き、『お陰でお友達が出来ました』と書き入れた。
その後は、今までの学校生活では、あり得ない事の連続で、机を二つくっ付けては、クラスメートにからかわれて(主に歌川君が)、少し歌川君と話していたら、先生にもからかわれて(主に歌川君が)、私は授業中、顔を赤らめながらも内心楽しくてしょうがなかった。
休み時間には、歌川君のお友達の右働君と佐山さんが遊びに来てくれて、楽しくお話をさせて貰った。
二人とも、とても優しくて楽しくて、お友達になれたと思って良いのかな?なんて自惚れてしまった。
その次の日の翌日、体育があった時間の次の時間、ふと書いてあった落書きを見て、びっくりしてしまった。
元々書いてあった落書きが消えていて私の書いた字に矢印が書かれていて新しい言葉が書かれていたのだ。
単なる悪戯だと思っていた落書きに返事が書いてあるなんて……。
一体、誰が?歌川君が?自作自演?何のために?
しばらく考えて、顔を赤くしてしまう。
歌川君が私と仲良くなる為に?
待って待って、それは自惚れが過ぎるでしょ?
私なんかと仲良くなったって何のメリットも無いのに……。
深いため息を一つ、馬鹿馬鹿しい多分、これは歌川君が書いたんじゃ無いんだろう。
歌川君は、そんな事をする様なタイプじゃないし……。
あれ?私、何で言いきってるんだろう?
歌川君と仲良くなってまだ、そんなに間も無いのに……。
良く解らないな、私は深く考えるのを止めて机の落書きを見る。
机には、こう書いてあった。
→『お隣さんも、本が好きらしいよ?』
歌川君も本が、私見たいに好きなのかな?
どういう意味があるんだろう?彼の趣味が解ったからって、例え私と趣味が同じだからって……少し嬉しいかも?
本の話しとか出来たりするのかな?
話し掛けても良いのかな?
平静は、装おっていたけど、内心はバクバクでした。
☆☆☆
今日の矢印
side歌川
彼女、友達いなくて寂しいらしいよ、話しかけて見たら?→有能!!
side舞阪
お陰でお友達が出来ました→お隣さんは、本が好きらしいよ?
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