第2話→

「そう言えば舞阪さん、両側に人がいるけど、僕の方で良かったの?隣の後藤君じゃなくて?」小さな声で少しだけ意地悪く舞阪さんに話し掛ける。


 舞阪さんの反対隣の後藤は、いつも笑顔の好青年風に見える。

 あだ名もスマイリーだしね。

 僕的には、いつも笑顔過ぎて何を考えてるのか解らないのだけれど。


 舞阪さんは、困った顔で話し始めた。

「理由はいくつか有るんですが」

 彼女は隣を気にしながら、小さな声で、


「 実は私、後藤君とは同じ中学なので知っているのですが、後藤君って、このクラスの前原さんと交際しているとの事で、ちょっとお願いしづらいんです」


「えっ!!そうなんだ。」


 知らなかったな、後藤彼女持ちかぁ。確か吹奏楽部だったよな?大人の合奏でもしているのか?とゲスな事を思いつつ、

「それじゃ、変に揉めたく無いもんな」


「はい後は、その私は、元々お友達が少なかったのですが、進学の際に更にいなくなってしまって……」


「だから、ちょっと勇気を出して、あまり話さない方とも話さないと、と思いまして」恥ずかしそうに照れ笑いをする舞阪さん。


「ナイス勇気、 光栄だね。じゃあ、僕はお友達一号って訳だ」


 実際は、知らない男に話し掛けるなんてハードルは高いのだろう。


 だから、その勇気に心を込めて、ニコニコと笑いながら、手を差し出した。


「よろしくお願いします」


 赤い顔ではにかむ舞阪さんに、僕はとびっきりの笑顔で握手を求めた。


 何だろう、知らない内に舞阪さんと仲良くなれた気がする。


 あの矢印、有能だな。


 先生が来て授業が始まる。


「では、歌川さん、よろしくお願いします」


「こちらこそ、解らない所あったら教えてね」僕は両手を合わせ、拝む振りをする。


「私に解れば、勿論」この言葉だけで、彼女の真面目さが良く解った。


 舞阪さんが、一緒に教科書を見る為に机を寄せてきた。カタンという音をたてて二つの机がくっつく。


 授業中なのに「歌さん、合体!!」とか「舞阪さん、気をつけて、妊娠しちゃう 」とかゲスい煽りをしてくる友人二人とそれを笑うクラスメートに、

「黙れ!!てめえら!!授業中だぞ!!」

 と怒鳴ると、現国の若い女の先生が、


「はい、皆静かにね。」パンパンと手を叩きながら、苦笑いしている。


「すみません先生」

 頭を下げる舞阪さんに、現国の先生、青葉先生は手をヒラヒラさせて笑いながら話し始める。


「大丈夫です。昨日の時点でテスト範囲までは進んでますからね」


「歌川君達が、ちょっとイチャイチャする位余裕がありますからねー!!」


 青葉先生の言葉に教室中が笑いに包まれた。


「すみません歌川君」舞阪さんが、真っ赤になって謝って来るけど、正直それほど僕自身は気にして無かった。


 僕は元々、弄られ体質だから、なぁ。


 でも、やられたらやり返す。


「先生、そんな事言うなら先生の旦那さんに、先生がダイエット中なのに、あんパン、カレーパン、クリームパンの三個も食べてたのラインしますからね!!」こちらは、妙な偶然から先生の旦那さんとお知り合いになってライン交換までしているのだ。


「キャーやめてー!!今、糖質制限されてるのー!!」顔を押さえて狼狽える青葉先生に、

 クラス中で爆笑する。


 青葉先生は、美人で優しいとても素敵な先生なのだが、この前、産休から復帰して、少し産後太りに悩まされているらしい。


 見た目あんまり変わらないけどね。


「先生、ダイエット無理だってー」「きっとバタバタやってる間に二人目出来るんだぜ」「先生が太ってるんなら、私なんてどうすれば良いのよ」


 とからかいの様な声が励ましの様な、みんなの声で授業所では無くなってしまう。


「はいはい静かにー、ゴメンねー、先生が騒がしくしちゃった」


 テヘペロと、小さく舌を出して謝る先生に、周りから「かわいー」と言う声が上がる。


 おいおい先生、確か二十代後半で既婚者だろ、テヘペロが似合うって反則過ぎじゃないか?


 ふと隣を見ると、しきりに舌を小さく出して、考えこんでいる舞阪さんを見てしまう。


 青葉先生の真似してるのかな?思わず吹き出しそうになっている所を逆に舞阪さんに見られてしまう。


 今までの比にならない位に顔を赤くして、

「今、見たの忘れて下さい!!」

 と、消え失せそうな声で言われる。


 何これ、凄く可愛い。思わず、サムズアップして、

「大丈夫、舞阪さんも充分可愛いから」と言ったら膨れた顔をした舞阪さんに消しゴムを投げられた。


 その後の授業は、いたって真面目で、舞阪さんは綺麗な字で一生懸命、黒板の文字を書き取っていた。


 お陰で、チラチラ僕が彼女を見ていたのは気付かれ無かった様で、何故か、後藤君と目が合ってしまい気まずい思いをしてしまった。


 後、授業中に大きなアクビをすると、可愛いらしい隣人に見つかった時に、恥ずかしいと言う事を発見した。うん、コロンブス的発見。


 その後に、舞阪さんから「寝不足は気を付けた方が良いですよ?」微笑みながら言われ、


「雷で、目を覚ましちゃったせいだな」とニヒヒと笑いながら答えた。


 その次の休み時間、早速、友人二人が近寄って来た。


 それは、机の落書きに新しい文字を書いていた時だった。


「歌さん、舞阪さん、ちーす、俺、歌さんの大親友の……」


「友人Aでーす」


「うぉーい、歌さん!!あの熱い夜の事は忘れたのー!!」


「あー、何の事だ?家に止まりに来てカップラーメン作ろうとして火傷した事か?」


「そう、アチチッーって、オーイ!!」


「はいはーい私、佐山神楽!!かぐらってよんでー。歌っちの幼馴染みだから、弱点色々知ってるよー!!とりま……」


「脇腹が弱い」神楽が僕の脇腹を人差し指で刺す!!


「うおっ!!てめえ、止めろ!!」


「ちょっとー、俺挨拶途中ー!!右働優人ね!!よろしく!!」


「てめぇら、二人ともウザいぞ!!舞阪さん、とまどってるわ!!」来た早々大騒ぎの二人にキレると、


「アハハ、もうやだ、可笑しい!!」と大笑いをしている舞阪さん。


「舞阪アリスです。皆さん本当に仲良しなんですね?私、皆さんみたいに面白い事言えないですけど、よろしくお願いします」


「宜しくね、舞坂さん!!」 「よろ、アリスっち!!」


 友達なんて、結局はキッカケみたいな物で、気兼ね無く話せて、楽しければそれで良い。


 そんな感じが、深くなっていって親友や異性だったら付き合ったりするのだ。


 舞阪さんは、今の所、充分馴染んでいる。

 後は、相手の事を思いやりながら、新密度を上げて行けば良い。


「取り敢えず、優人と神楽付き合ってるから、それとこの二人、下ネタ多いから気をつけてね?」


「しっ下ネタですか?……頑張ります!!」

 両手をグーにして気合いを入れる舞阪さんに、

「無理についてく事無いからね!!」

 と、注意しておいた。



 ☆☆☆


 今日のやじるし


 彼女、友達いなくて寂しいらしいよ、話しかけて見たら?→有能!!

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