05
「素晴らしい! まことに、素晴らしい考えではないか⁉ 異世界からやって来たばかりだと言うのに、この世界の人間のためにそこまで考えるとは、見上げた心意気だ! 我輩は、そんなあやつの考えにいたく感動し、その願いをどうにか叶えてやりたいと思ったのだ!」
「ちっ……余計なことを……」
話の途中で、アレサは思わず舌打ちをしてしまっていた。そのくらい、国王が語ったトモの行動は、アレサをイラつかせるものだった。
「ト、トモくん……」
一方ウィリアは、不安そうに話を聞いていた。そのときの彼女が気にしていたのは、国王やアレサがトモのことをどう思っているかなどではない。そんなことはどうでもよく、今の彼女の気掛かりはただひとつ、「現在のトモの
ギリアムは、どこかわざとらしいような深刻な口調で、その答えに繋がる話を続けた。
「しかしな……
もしもそれが無くなれば、今まで優遇されていた
ただどんなことが起こるにしろ、この国が今まで例を見ないほどの混乱に見舞われるということだけは、確実に言える。それはそうだ。国の法律から、社会ルール、隣人との付き合いにいたるまで……
「その、通りですわ……」
辛うじて、国王の言葉を肯定するアレサ。
「突然
「……ふ」
そこでギリアムは、ニヤリと微笑んだ。
それは、これまでの嫌な感じのするほほえみを更に深めた……「邪悪」と言ってもよいような表情だった。
「だから我輩も最初は、トモの願い出を退けようと思ったのだ。国王として、国や国民をいたずらに危険にさらすわけにはいかんからな。しかし、」
「え……?」
「しかし同時に、我輩は考えた。
名数令がなくなると混乱を避けられないということは……それは逆に言えば、『わが国が混乱に耐えられるだけの強固な状況であるならば、
ふふ……だから我輩は、あやつの言葉を否定する代わりに、こう言ったのだ。『もしも、この国の
「な、なんですって⁉」
その言葉を聞いた瞬間、アレサは声をあげずにはいられなかった。それまで黙っていた周囲の少年少女たちも、一斉に驚きの顔になっていた。
「ふははは! 全く、たいしたやつだな。あの、トモという男は! たった一人で、たった一週間で、我輩たちが散々手を焼いていた魔王を打ち倒し、そのついでで魔王軍まで壊滅させてしまったのだからな!
まさに英雄! あるいは、伝説の勇者とでも言ってやるべきか! あやつは、この世界の歴史にその名を刻んだのだ!」
「ま、まさか……まさか、そんな……」
「だから我輩も、その労力には応えてやらねばならん。あやつとの約束通り、
今日この時をもって、この国の人間は全て平等だ! これからは、
「えぇぇぇーっ!」
周囲から、叫び声のような歓声が上がる。国王に対する礼儀などすっかり忘れて、ザワザワとアレサのクラスメイトたちが騒ぎ始める。
「そ……そんな……」
そんな中アレサだけは、体を震わせて、さっきからうわ言のようなものをつぶやくばかりだった。
バァーンっ! バァーンっ!
外からは、勢いよく花火が上がる音が聞こえてくる。合わせて、そこかしこから歓声も上がる。声の主は老若男女様々だが、そのほとんどが、「自由」を喜んでいるような口振りだった。恐らく
それは、とりもなおさず、国王が先ほど告げた言葉が全て真実だったという証明でもあった。
「これをアレサ嬢に伝えることも含めて、トモとの約束だったのでな。わざわざ我輩直々に、ここまでやってきてやったというわけだ。
どうだ? この学園を隠れミノに、今まで
「そ、そんな……こんなことって……。そんな……」
思わせぶりに笑みを浮かべる国王ギリアム。しかし、やはりアレサはうわ言ばかりで何も答えられない。
いてもたってもいられなくなったウィリアが、彼に尋ねる。
「そ、それで……彼は⁉ トモくんは、今どこに⁉」
「……あ?」
自分の取り巻きの兵士以外の
「……ああ、トモか? やつならば、今は城の近くの魔導病院で療養中だ。さすがに一人で魔王軍を壊滅させるほどの大仕事を成し遂げたのだからな。城に帰ってきたときは全身傷だらけで、辛うじて生きているような状態だったのだ。
……まあ、我輩が手配した一流の病院で優秀な医療魔術師たちの治療を受ければ、万にひとつも死ぬことはないだろうがな」
「そ、そんなっ⁉ トモくんっ!」
その言葉を聞くなり、ウィリアは学生寮の食堂を飛び出していた。
国王が手配するほどの一流病院となれば、この国にそう多くあるものでもない。その場所に見当がついた彼女は、負傷したトモのもとへと向かったのだろう。
「さて、と……」
それをきっかけにするように、国王ギリアムも、近くの者たちに合図を送る。
「もう、トモとの約束は果たしたな? ……さあて、我輩もやつの様子を見に行ってやるかな?」
そんなことをうそぶくと、側近たちを引き連れて、来たときときと同じように勝手に寮を出ていってしまった。
「ど、どうする? アタシらも……?」
「まあ、今さらここにいてもしょうがないわね。学級委員長として、彼の容態も気になるし……」
「トモトモに、会いに行くなのー!」
ウィリアの誕生日に集まっていたクラスメイトたちも、ウィリアに遅れて次々とその場を立ち去り始めている。
最後まで残ったのは、呆然と立ち尽くす、アレサ一人だった。
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