第4話 戻る記憶
ある日の事 ―――
「鮎花、調子はどうだ?」と、父親。
「うん……まだ」
「そうか……」
「お嬢様、今日は病院なので迎えに行きます。宜しいですね」
「はい」
放課後。
「お嬢様」
「神崎さん」
「相変わらずですね。お嬢様」
「えっ?」
「呼び方が違うので他人行儀な気がします。ずっと仕えているので何か寂しく感じますね」
「すみません……」
「いいえ。早く記憶が戻れば良いのですが……」
「そうですね。私自身も、そう思います」
病院に行く私達。
診察が終わり病院を出てすぐの事だった。
神崎さんを待っている時だった。
グイッと背後から腕を掴まれ抱きしめられるように私の背中辺りに何かを突きつけられている事に気付く。
私を前後挟む様に立ち塞がる。
「きゃ……」
口を手で塞がれた。
ビクッ
驚く私。
「静かにしてもらおうじゃねーか? 黙ってついてきな。お・嬢・様」
「………………」
「俺達の指示に従えば悪い様にはしない」
次の瞬間 ――――
ドカッ
「うっ……」
ドサッ
背後から人が倒れるような音がした。
ビクッ
驚く私。
そんな中、私は解放された。
「何? 連れがいたのか? 」
「……っ……お前……帰ったんじゃ……」
振り返ると、そこには神崎さんの姿。
「……神崎さん……」
「学校から後をつけられていたとは思いましたが、私は執事です。帰る訳にはいきませんので。あなた達は、二人ですか? それとも……他に仲間がいるんでしょうか? 答えて貰って良いですか?」
「仲間はいない。俺達だけだ」
「そうですか……嘘がお上手ですね」
「えっ!?」
≪えっ? 嘘?≫
グイッと私の手を掴み引き寄せると私を庇う様に抱きしめながら
ドカッ
私の背後にいるまた別の人を蹴っ飛ばした。
ドキン
「うっ……」
≪嘘……神崎さん……凄い≫
神崎さんの意外な行動に驚くのと同時に私の胸は大きく跳ねた。
「お嬢様には指一本も触れさせません! どうやら相手が悪かったようですね。お引き取り下さい!」
彼等は逃げる様に走り去り車に乗り込んだ。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「は、はい……ありがとうございます」
「お礼は良いですよ。私はあなたの執事ですから」
私達は帰る事にした。
屋敷に戻る私達。
屋敷に入ろうと玄関先に来ると ―――
「お嬢様……少々お待ち頂いて宜しいですか?」
「えっ? どうかされましたか?」
「ええ……ちょっと……」
「………………」
「いや……一人にしない方が良いようですね……」
「神崎さん?」
「お嬢様、私の傍を離れないで下さい」
「……はい……」
私の肩を抱き寄せると屋敷のドアをゆっくり開く。
馴れない対応に私の胸はドキドキ加速している。
ドアを開けた瞬間。
ドカッ
右側の人影を蹴っ飛ばす神崎さん。
ビクッ
驚く私に休む時間もなく
カラン
床に拳銃が転がる。
ドクン……
「…拳……銃…」
「………………」
グイッと私の手を掴み、私を守る様に、今度は左側からの人影を蹴っ飛ばし、最初の人の手元から離れた拳銃を取りに向かう神崎さん。
拳銃を手にとり、神崎さんは二人に銃口向ける。
「何者ですか? 本来なら、こんな物騒な物は扱いたくないのですが、お嬢様を守る為にはやむを得ないですね」
「………………」
「誰かの命令ですか? それとも……個人的な逆恨みでしょうか?」
「デ、データーをよこせ!」
「データー? 何の事でしょう? 私達は何も知りませんが?」
「………………」
「不法侵入で警察に連絡して欲しくなければ、お引き取り願いますか?」
「………………」
彼等は去って行った。
「全く困ったものですね。お嬢様大丈夫……」
「………………」
「お嬢様!? どうされましたか?」
「平気……頭が痛くなっただけだから」
「大丈夫ですか?」
「うん…大丈夫…神崎は、怪我してない?」
「はい、大丈夫です。……お嬢様?」
「何?」
「今……」
「えっ? どうかした? 神崎」
「やっぱり聞き間違いではなかったんですね」
「えっ?」
「記憶……戻られた感じですか?」
「あー……うん。何か変な感じではあるけど、多分大丈夫……」
「ゆっくりで良いですよ」
「うん、ありがとう」
その時だ。
「ただいま」
「おかえりなさいませ。旦那様」
「おかえりなさい。お父様」
「ああ、ただいま……ん? 鮎花? 今……」
「えっ?」
「先程、記憶が戻られたようです旦那様」
「おおーーっ! 良かったぁ~」
お父様はぎゅうぅと抱きしめる。
「お、お父様、く、苦しいからっ!」
「すまない。余りにも嬉しくて、つい……」
「旦那様、嬉しい気分を味わっている所を申し訳ないのですが……先程……こちらに不法侵入者が……」
「不法侵入者?」
「はい……データーをよこせと……の事で犯人は二人で拳銃を装備されていました」
「……そうか……」
「私達の知らない何かを旦那様は知っている感じですか?」
「それは……」
「このまま 、お嬢様の命が危険に晒されるようなのでれば一刻も早く……むしろ、お嬢様だけではなく、旦那様にも危険が……」
「それは……鮎花、しばらくは送迎をしてもらいなさい」
「えっ!? 送迎?」
「神崎は優秀な執事だし身体能力を備えている」
「鮎花が、送迎を嫌っているのは知っている。だからと言って学校を休む訳にはいかないからね」
「………………」
「しかし旦那様に何かあったら……」
「覚悟の上だ」
「お父様に何かある位なら私は学校に行かないっ! ボディーガードつけてもらった方が良いよっ!!」
私は自分の部屋に足早に向かった。
「鮎花っ!」
「お嬢様っ! 旦那様……いいえ……桂一(けいいち)おじさん。個人的に意見を言わせて頂きます。鮎花は、桂一おじさんしか身寄りはいないし、むしろ、俺もあなたしかいないんです」
「………………」
「先程、鮎花を守りながら一人で相手の攻撃を交わす事が何とか出来ましたが、次もそういう訳にはいかないと思います。正直危険すぎます。ボディーガードをつけて下さい!」
「昴君」
「もし、組織に関する事でしたら、桂一おじさんの顔がきくボディーガード等いらっしゃるのでは? すみません、失礼します」
コンコン
私の部屋がノックされた。
「はい」
「お嬢様? 一人が宜しいですか?」
カチャ
部屋のドアを開ける私。
「失礼します。お嬢様、旦那様も色々と考えた上だと思います」
「……うん……」
「………………」
背後から抱きしめられた。
ドキン
突然の行動に胸が大きく跳ねた。
「神崎……?」
私を振り向かせると、私達は向き合う。
「大丈夫……鮎花の気持ちは桂一おじさん分かっているはずだから」
ドキン
「久しぶり呼んでくれた……」
「俺は邑木家に仕える執事だからむやみに呼べない。でも、今しか言えないから言っておくけど、記憶が失われた時、こんなに淋しいとは思わなかった」
「……昴……君……何か昴君じゃないくらいカッコ良くなってるから変な感じ……」
「昴で良いよ。桂一おじさんにはボディーガードつけるように俺も言っておいたから検討してくれると思う」
「うん……」
「鮎花、元気出して」
「うん……」
昴は私の部屋を後に出て行った。
しばらくして ―――
「鮎花、パパだけど入るぞ」
「うん……」
「鮎花、お前に伝えておきたい事がある」
「何?」
「以前に大事な話がある事を覚えているか?婚約者の件とは別の話だ」
「あー、うん……何となく」
「それから最近、良く耳にするデーターの件だが、実は、とある場所に預けてあるんだ。もし、父さんに何かあった時は、そのデーターを収集しなさい」
「お父様……」
「まあ、昴君も鮎花もいるから死ぬ訳にはいかない。ボディーガードの件は検討する。知り合いに優秀なボディーガードがいるから。いつか鮎花と昴君に会わせよう。だから、送迎の件は考えてくれないか?」
「お父様……分かりました」
そして、データーの情報の件を話してくれた。
本当は考えたくなかった
だけど ―――
もしもの時を思い
父親から
情報の事を預かった
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