第3話 記憶喪失

ある日の事だった。



「じゃあね、鮎花ちゃん」

「うん、バイバイ」



友達と別れる私。


私はお嬢様だけど、送迎は頼んでいない。

理由は自由が効かないからだ。


自分のペースで帰り、寄り道したり学生ならではの楽しみが出来ないからだ。




その時だ。

私の携帯に着信が入る。



「はい」

「もしもし、お嬢様? 今、どちらへ? もう遅いですし迎えに……」

「大丈夫! 来なくても良いから!」



携帯を切る。



次の瞬間 ―――




ドカッ

誰かが私の頭を殴った。


ドサッ

倒れる私。


そして連れて行かれるのだった。



「ここ……何処……?」



目を覚ますと見慣れない部屋にいた。



ガチャ

ドアが開く。



「お目覚めかい?」

「……誰?」


「名乗る必要はない。君に聞きたい。悪い事はしない手荒な真似もしたくない。素直に応じれば、すぐに帰してあげよう。データーを渡してくれないか?」


「…データー…? 何の事…ですか?」

「知ってるだろう?」

「知りませんっ! 早く帰して下さいっ!」

「データーがあるはずだ。正直に吐くまで、ここからは一歩も出さないよ。良いね」




そう言うと部屋の鍵をかけられた。



ドンドンドン……


私はドアを何度も叩く。




「ちょ、ちょっと! ……どうしよう?」




その時だ。



♪~

『鮎花、今、何処にいる?』

『パパ』




と、記された私の携帯にメールが届く。



「パパ? 鮎花…? ……私の…名前…?」




――― そう ―――



私は頭を殴られ記憶が失われていた。



♪♪~

『すみません。私、学校帰りに背後から誰かに殴られ記憶が……』


『私の名前は鮎花という名前なんですか?』





♪~

『ああ、そうだよ。君の名前は、ゆうき あゆかだ』



♪♪~

『今、何処にいるか分からなくてデーターを渡して欲しいと言われ部屋に詰め出されています』





次の瞬間 ――――




ドーーーン……


大きい爆発音がし、建物内に響き渡る。



「……何? 今の音……爆発……した?」




ドンドンドン……


私はドアを叩く。




「だ、誰かっ!」




バリン……




バリン……





窓硝子が割れるような音が聞こえた。




「………………」




私は幼い頃の記憶がフラッシュバックするかのように恐怖になる。


このままだと……私……炎に包まれる?



「やだ……怖い……誰か……誰か……」




ドンドンドン……


再びドアを叩くものの何の反応もない。




「誰かっ!」




ガチャとドアが開いた。




「出ろ!」



私の手を掴み連れ出そうとする。




「や、やだ……あなた誰!? さっきの人は?」

「良いから出るんだっ!ここはいずれ炎に包まれる」




ドクン……



「炎……? や、やだ……離してっ! 嫌あぁぁっ!」



私は相手を押し飛ばし逃げる。




「おいっ! そっちは……」




ドーーーン……


爆発音がし私は逃げ場を失う。



後ずさりする私。



グイッと腕を掴まれ、強制的に連れて行かれる。



「い、嫌ぁっ! 離してっ!」

「君には死んでもらう訳にはいかない! 来いっ!」



ドーーーン……




再び爆発音がし私の前は炎に包まれ、男の人に火が燃え移る。




ドクン……



「熱い……熱い……うわぁぁぁぁっ!」



男の人は私の目の前で燃えていく。

人が燃える独特な異臭がする。




「いやあぁぁぁっ!」




私は偶然にあった近くのドアに入り込む。




「……怖い……怖いよ……誰か……来て……助けて……」



その時だ。

天井からスプリンクラーが発動したのか、私のいる部屋の前を誰かが何人か行き来しているのが伺える。




「女はどうした?」

「女は逃すなっ!」

「まだ遠くには行っていないはずだ! 探せっ!」

「はいっ!」

「絶対逃すなっ!殺す事も出来ないんだ! 良いなっ!」

「はいっ!」



そういう会話が聞こえ、足が遠くなっていくのが分かった。



ガチャ

私のいる部屋のドアが開く。



ビクッ




カチッ

私の気配を感じたのか私に銃口を向けた。



ドクン……




「……女? ……お前……まさか……」



私の目の前にいるのは男の人だ。




その直後 ―――――




ガタガタガタ……




天井の空調室が開く。




「麻那斗(まなと)いてるか?」

「あ、ああ……」

「その女は? 誰や?」

「知らん! 今、会ったばかりだ!」

「そうなんや! ともかく逃げるで!」

「ああ……」



天井からロープが垂らされる。



「………………」



「一緒に行くか?」


「おいっ! 麻那斗っ! 何、言うてんねん! 今、会ったばかりの女連れて行くてアホちゃうか? それとも、一目惚れでもしたんですかぁ~? 鹿賀 麻那斗(かが まなと)さぁ~ん!」


「女子校生に興味はないっ! おいっ! 女っ! お前、名前は?」

「鮎花…邑岐…鮎花…です」

「……邑岐……?」


「はい……だけど、それ以上の事は何も分かりません……」


「何も……」

「分からへんって……」

「記憶……」

「……喪失……か…?」


「……気付いたらここに連れて来られてて……良く覚えていないんです……どうしてここにいるのかも……データーのどうのとか言われてた気もしたけど……」


「データー……?」

「……そのデーターというのも気になるが……」


「麻那斗、どないすんの?」

「ここにいたら危険過ぎるだろう?」

「つまり……麻那斗は連れて行く気なんやな。鮎花、言うたな? 事情が事情や!一緒に行くで!」

「すみません……ありがとうございます……」



私は彼等と建物を出た。



「麻那斗、連れて来たのはええねんけど…どないするん? 記憶喪失なら何も分からへんやん」




その時だ。




♪~

『鮎花、今何処にいる?』



「あの…今…父親からメールが入ってきたんですけど……」

「家まで送ろう。父親が心配しているのなら尚更だ。住所を教えてもらえ」

「はい」



私はメールを送り住所を教えて貰う。



そして送って貰った。




「鮎花っ! 大丈夫か?」

「はい」

「本当に何も覚えていないのか?」

「はい……」

「そうか……すみません。助かりました。どうお礼を……」


「お嬢様っ! 大丈夫ですか? だから迎えをと言ったじゃないですか!?」


「すみません……ところであなたは?」と、私。


「私は邑岐家に仕える執事です。まあ記憶がないので仕方がないですね」


「すみません……せめてお名前を……」と、父親


「名乗る者でもございません。偶々、あなたの娘さんに遭遇しただけの事です。失礼します」



二人は去って行く。



「あの…本当にありがとうございました」


と、父親。



「ありがとうございます」


と、私と執事と言われている男の人。




そして、彼等は帰って行った。





「麻那斗、顔出しNGなんちゃうん?家まで送るて関わらん方が良かったんちゃうか?」

「本来は、そうだが、ここに関しては問題はない」


「えっ?」


「名前を聞いてまさかと思ったが……データーに関して娘が拉致られたのも無理はない。ここは、俺達のデーターを預けられている同じ裏組織の人間だ。しかも幼い頃の彼女と執事は会った事のある人間だ」


「それってつまり……味方っちゅー事か?」

「そうなる」



そして ―――




「まさか君だったとは良かったよ。助かった」



連絡している父親の姿。



「データーと娘は言っていたが、今後同じような事がないとは限らない」

「そうだな。相手が動き出したようだ。データーの件は、娘と執事である神崎に近いうちに話をしておこう」



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