第一章第十話「苛政猛虎」
最初に憑依された六体のうちの一体である虎のロボット兵士に捕らえられたかに思われた歩(アユム)だったが、それは歩(アユム)の策だった。
歩(アユム)は、虎のロボット兵士の部下たちに捕らえられる直前、すでに私が渡していた魂塊(コンカイ)を使い、石に皇帝ネロの魂を移していた。
そうとは知らず、虎のロボット兵士は、歩(アユム)のリュックにある荷物を隅々まで探している。
よほど、亀のロボット兵士が倒された理由が気になるのだろう。
「これは!!このスイッチを押せば、ビームの刃などが出てくるのだろう?この武器で亀を?」
先の戦いで亀のロボット兵士に目眩ましに使った懐中電灯をまじまじと眺めいる。珍しい形のものではあるが、お前の居城にもいくつかあるだろう。
「いや、それは……もう電池切れで電池交換しないと使えないかな。」
否定する部分はもっと他にもあると思うが、歩(アユム)は、淡々と答えていく。
亀のロボット兵士のときもそうだったが、魔物相手に物怖じしないこの度胸こそ、私に興味を持たせたのだろう。
「ならば、早く電池を交換しろ!この剣さえあれば、俺が魔王になり代われるのだ!!」
「不粋だな!」
私も不粋な言い回しだと思っていたが、まさか、それを指摘してくれるとは思わなかった。
岩の体を器とした皇帝ネロだ。歩(アユム)の理想か、かなり美形な顔で岩とは思えないスリムな体つきをしているが、城の岩壁を抜けて出て来ると、虎の腕を掴みあげる。
「何者だ?」
「貴様のような魔物に名乗るような名は無いな……ただの一人の偉大な芸術家だ!」
虎のロボット兵士は、爪を出し攻撃を仕掛ける。
爪とはいえ、ロボット兵士に憑依しているため、それをドリルのように回転しネロの体を削りとろうとしてくる。
ネロは、城の岩壁を吸収すると、それを自分の体に回し、腕を巨大化させ虎のロボット兵士を床に叩きつける。
「城の岩壁は既に破壊してあります。さあ、主、逃げましょう!」
ネロは、微笑みながら、歩(アユム)と荷物を抱え、瓦解する城の壁を渡り地上へと降りていく。
・ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス(37年-68年)
ローマ帝国の第5代皇帝。暴君として知られるが、その悪行の大半は、皇妃ポッパエアによるものとする説も存在する。
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