第2話・なんやかんや

「ねぇ美晴」

「んー?」

「どうして美晴は、私と一緒にいてくれるの?」

「恙が可愛いから」

 昼休み。私と恙は避難訓練くらいでしか使われない非常階段で昼食を共にする。一緒に食べる人が他におらず、心安らかに過ごせる場所も他にないからだ。

「やん嬉しいっ……そうじゃなくて、割と本気で聞いてんだけど?」

 一緒にいることに理由がいるの? と、こちらも疑問を呈したいところだが、質問に質問で返すのにはポリシーに反する。

 はて、理由か。

「おー考えてる考えてる。好きな人が自分のことを考えてくれる顔って愛おしいねぇ、嬉しいねぇ」

 そういえばなんで一緒にいるんだ? 小中学校が同じだったとはいえ、つるみ出したのは高校生になってからだ。私も恙も他に友達なんか一人もいなくて、なんやかんやでずるずると……。うん、なんやかんやだな。

「なんやかんやかな」

「それを言語化してほしいって言ってるのにぃ。じゃあほら、一緒にいる理由じゃなくて、離れない理由でもいいよ?」

 一緒じゃん、とは思ったが、思考のハードルはグッと下がった気がした。

「強いていうなら」

「うん」

 本当に、強いて言うならだ。欠片のような感情、思考を、無理やり文章化させる。

「同類、だからかね」

「同類? この美人でスタイルのいい恙ちゃんと、根暗で髪でほぼ顔見えないし制服のシルエット的にたぶん貧相な体してる美晴ちゃんが?」

「うっぜー。もう弁当食べるから話しかけないで」

「うそうそっ。そんなところも全部含めて好きってことを暗に伝えてるの。わかって?」

 暗に伝えんなら明に出すな恩着せがましいやつめ。ったく、そういうところも嫌いじゃない。

「ほら、だから割と正反対でしょ私達。それで類友って言われても」

 確かに言ってることはわからなくもない。……むぅ、これを言葉にするのはなかなかに恥ずかしいな。

「恙はさ、いろんな噂流れてんじゃん」

「だね。援交ビッチとか。ヤクのやりすぎて脳みそとアソコとろけちゃってるとか。ウケるね」

 そんな深堀りした噂は聞いたことなかったが。

「んで、それらをまとめると、恙は異常者だなぁって」

「異常者っていうか普通に犯罪者だと思うけど……、えっ美晴って犯罪者だったの?」

「そうじゃなくて……その、私も自分のこと……その……普通じゃないって……思うこともあるし……」

「あー異常者の方でシンパシー感じたわけね! へー、ふーん」

 はず。恥ずいし、ニヤケ面したこいつが次に言うこと、手にとるようにわかる。

「へぇ~美晴ってば厨二病なんだねっ、恥ずかしいねっ」

 あーやっぱり。やっぱりケタケタと笑ってからかってきた。そんで私をからかうその顔が最高に可愛い。ダメだなぁ私。案外マゾなのかも。

「でも、だったら美晴が異常者で良かった」

 そして突然はにかんで、初恋へ恋する乙女のように顔を赤らめるそんな表情は、最高に綺麗だ。

「それに……くだらない噂も放置しておいて良かった」

「それは……良いことなの? 嘘なんだったら否定しておいた方が」

「んーん。ああいうのって否定すればするほど盛り上がっちゃうし。もう検証済み」

「そっか。恙がいいならそれでいいや」

「うん、私は美晴が一緒にいてくれたらそれでいいよ」

 弁当も残すはウィンナー一個とご飯一欠というところで、恙が抱きついてきて手から落ちそうになる。

「ちょ、危ない」

「ごめんごめん」

 とは口で言うものの離れようとはしない恙。既に春も終わりに近く、気温は梅雨の入りに相応しく高温多湿の日が増えてきた。つまり、暑い。気温と合わせて体温もなんて熱中症になってしまう。だがしかし。

 なってもいいかなと思えるくらいには、この恙という女、私の中では愛おしい存在らしい。

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