第30話
それから、少しだけアンリと話していたら、セルファも目を覚ましてきた。それからすぐに見張りを交代して俺も就寝。
ストームウルフの死体に関しては、とりあえず袋の中に入れておいた。
この袋、空間魔法の効果で魔獣10匹ぐらいだったら入れられるようになってるんだよね。便利便利。まぁ、ばあちゃんの作ったものなんだけど。
それから、みんなが起こしてくるまでぐっすり眠ってしまった。
やっぱり少しは疲れてたんだろうね。徹夜ぐらいたいしたことないと思ってたけど、身体は子どもだからなぁ。
精神的にはやれるつもりでも肉体的にどうしようもないってときは意外と多い。逆ももちろんあるけどさ。
結局、昨日のミスはその辺が原因なんだよね……。
全員が起きたところで、俺は袋に入れていたストームウルフの死体を取り出して、みんなに見せる。
見張りを交代するときにストームウルフを倒したことを伝えていなかったことが少し不満だったようでアンリに膨れられた。ただ、実際ストームウルフはキャンプスペースに入って来たわけじゃないからね。
魔除けの薬草は効果がすごくて、明らかにストームウルフも入って来れないようだった。
だから、倒したことを話して無駄に緊張させたくなかったんだって言ったらなんとか納得してくれたみたい。
正直、これ以上このダンジョン内でケンカしたくなかったから、分かってくれてよかったよ……。
それからは、昨日の昼食に食べたのと同じように鍋を作る。
2日連続で同じものを食べることになるけど、こういう遠征中は取れる食材によってはそうなっちゃうからしょうがない。
こういうのに慣れるのも必要だ。
「じゃあ、食事を取りながら今日の作戦を決めようか!」
俺の言葉にみんながうなずき、真剣になる。
昨日のことは結構みんなに緊張感を与えてるのは間違いないよね。
特に、普段は適当なリックが一番真剣。
本当に昨日のことを反省している様子だ。
何回、俺が悪かったって言っても、俺の方が悪いって言ってリックは聞いてくれないからね。
まぁ、どっちが悪いかを比べてもしょうがないってことで、すぐにそのやり取りは終わった。
「けど、計画は最初に決めた通りで行くんでしょ?今日中に奥まで行って。そこから、今日中にもう一度ここまで帰ってくる。昨日と一緒で配置はリックとセルファが前衛で……」
「そうだね。それがいいと思う。やっぱりここで夜を過ごせるようにするのは大切だよ。魔物が近づいてくる危険性が少ないっていうのが一番いい。それに、戦いでの位置も変えようがないと思うし……」
「ただ、疲れてたらすぐに休むようにしようぜ。俺は昨日無理をしすぎてたからさ。やっぱり休むのは大切だな」
「それはそうだね。特に私たちは前で戦うわけで他のみんなよりも疲れやすいだろうから、そうなったらすぐに言うよ」
前にいる2人はずっと緊張感を持って警戒して行かなきゃいけないって言うのがバランス悪いんだよな。
明らかに、俺たちよりも疲れるのが早くなってしまう。
「やっぱり、僕の光魔法の力を強くしてもっと先まで見渡せるようにした方がいいんじゃない?光の量が多くなれば緊張感も減るだろうし……」
それだとミンクの魔力の状況がどうなるか不安だけど……。
「一応、できる限りそれでやってみるか。ただ、リックもセルファもミンクも疲れてると思ったらすぐに言うこと。最終的には俺がどの役目も変わるからな」
別に、前衛だって俺は魔法で戦えばいいわけで出来ないわけではないしね。
「……わかった。そうする。ヴォルクスがすげぇのはわかってるから、できるだけヴォルクスの力に頼らないようにしないとって思いすぎてるかも知れねぇな、俺たち」
リックの言うことは昨日から少し感じていた。4人とも俺に頼ってもいい場面でも出来るだけ自分たちでやろうとしていた。
結局、実力に差がありすぎて、仲間というよりも保護者みたいな立ち位置に俺のことを置いてしまってることがよくないんだよな。
「俺は、仲間だからさ。もっと頼ってくれよ!」
どれだけ、お互い躊躇って今回のことに取り組んできたかが分かった。
確かに先頭で俺が戦ってしまったらみんなのためにはならない。だけど、それで誰かが傷ついてしまう方が嫌だ。それは、昨日、リックとセルファが怪我をしたことで強く感じた。
だから、今日は躊躇わないことにする。
俺が手を出す必要のあるポイントを見極めて、出来るだけ手も口も出していこうと思う。
特に、最深部ではガーディアンとの戦いも待ってるわけだし……。
さて。そんなこんなで俺たちは先に進んでいる。
昨日途中まで進んだ道をもう一度進むのは思いの外楽だった。敵もスライムぐらいしか出てきていない。
「魔物も寝坊するんじゃない?」
なんて無駄話をする余裕もある。余裕で歩を進めるうちに簡単に地下への階段に到着。ここまでは特に問題はない。
ただ、もしかしたら、ここまで敵が来なかったのは光魔法の威力を強めたおかげもあるかもしれないな。
魔物にとってみると、人は食料であると同時に天敵でもある。
弱い人間には近づいて自分の食料にしようとするものの、強い人間には出来るだけ近づかないようにしようとする習性みたいなものがあるらしい。
だから、光魔法を強く出していることで、強い人間だと思われることであまり敵が近づいて来ない可能性というのはある気がする。
「さて、ここからは地下二階だ。地下二階は今までよりも距離が短いけど、生息してる魔物も強くなる。更に、一番奥には目的地もあるし、目的地にはガーディアンが待ち構えてる。しっかり注意しながら余力を残して進んで行こう!」
俺はみんなにそう伝えて気合いを入れる。
いや、こういうところが保護者みたいなんだけど、言わないわけにもいかないしね。
ガーディアンは、今回の訓練のために先生が準備している最後の関門だ。
地下二階、一番奥の部屋に置いてある目的の宝箱の前に待ち構えている。
このガーディアンを倒すか、倒さなくてもやり過ごして宝箱の中身を手に入れなくてはいけない。
実際、ガーディアンは俺たちの実力を考慮してある程度強い設定にしてあるらしい。
設定というのは、その字の如く設定だ。
ガーディアンは、魔物ではない。野生の魔物ではないという意味じゃなくて、召喚術で召喚された魔物ですらない。
それは、いわゆる機械みたいなものだと思う。魔石と魔法の力で動く機械人形。ゴーレムに近いと思うんだけど、ゴーレムは召喚術でしか呼び出せないし、呼び出している間中ずっと魔力を消費し続けていなければいけないから、こういう訓練には不向きだってことで開発された物らしい。
これはばあちゃんが作った物じゃない。もっと、軍よりの開発者が作った物だって聞いてる。
細かい構造は作ってる人しか分からないって話なんだけど、噂では魔法陣術も使われてるんじゃないかって話だから、ちょっと興味あるんだよね。
倒して解体して構造を……と思って先生に聞いてみたんだけど、ガーディアンは結構高価らしくって、毎年使い回してるって話だから解体は禁止された。
そもそも、相当硬い素材を使っているらしく、相当な魔力がないと壊すことなんて無理らしいんだよね。
うーん。残念。
コアとなっている魔石を無力化すれば活動は停止するらしいから、倒す場合はそれを狙って攻撃するしかない。
ただ、魔石がどこに設置されてるかは教えてもらってないんだよね……。
実際に戦闘するときに最初から弱点が分かっている敵ばかりだとは限らないから、それを探るのも訓練のうちってことらしい。
なかなか難しいと思うんだよね。それ。
ただ、今回の訓練用のガーディアンは背中を向ける者は襲わないという設定になってるから、実際、倒そうとする人は少ないらしい。
誰かが引きつけておいてその隙に仲間が宝箱を開けて、入手したらそのまま逃げるっていうのが最良の戦略なんだって。
倒すのは、10年に1回あるかないかだって言ってたかな。
もちろん、俺たちの目標は倒すことだけどね。
そのためにも、ガーディアンのところにたどり着く前にはゆっくり休んでから、挑みたい。
俺たち用に強く設定されているのを、倒さなくてもいいのに倒すわけだから、準備を整えないと無理だと思う。
そのときは俺も全力を出していいってことになってる。
王都の学院の入学試験の中にはガーディアンとの戦闘っていう項目もあるし、ここで倒し方を学んでおいて損はないしね。
楽しみだな。どれだけ強いんだろう。
それから、俺たちは奥に向けて少しずつ少しずつ進んで行った。道中、魔物とは少し戦ったけどもう戦い方が分かってるから大丈夫。
困ったのは、やっぱり精霊系かな。魔法を使ってくる敵は厄介だね。そういう時は、俺も戦闘に加わって、なんとか全員が体力を使わないようにしながら突破した。
「そろそろ、目的地じゃない?」
セルファが前の方を見てそう言う。
「そうだな……。少し休んで食事をとってから向かおうか!」
というわけで、いつも通り食事の準備。
今回はさっき襲ってきた、イノシシ型の魔獣パワーボアの肉があるから、ステーキを食べることにする。やっぱり力をつけるには肉だよね。肉!
あと、もやしなんかも見つけたから、それも一緒にして……。うん。うまそう!
「みんな、準備はいい?」
俺がそうみんなに声をかける。
今回は俺が前衛だ。
ガーディアンからガードするのは俺の役目。
『もちろん!』
みんなが元気よく返事をする。
よし。ガーディアンとの対決だ!
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