第27話
さて、俺たちはダンジョンの中に入っていった。前衛はリックとセルファ。中衛にはアンリが。後衛に俺とミンクがいる構成。
基本的に、前衛の二人が敵を引き付けて戦い、中衛からアンリがサポート。俺とミンクは必要な時に魔法を使う形だ。
ダンジョン内は、土で満たされているから、魔法陣も書きやすい。必要な時に「ドロー」を使えば、問題なく術を発動できるだろう。
ミンクもドローは使えるようになっているし、リックとセルファが危なくなったらすぐにゴーレムを呼び出せるようにしておいてある。
魔法を使えば簡単に魔物を倒せるんだけど、時間は長い。ミンクが魔力切れなんてことになったら困るから、必要な時以外は節約する作戦だ。「じゅもんせつやく」ってやつだね。え?通じない?ああそう。
「あ、スライム!」
セルファが声を上げる。確かに前にはスライムの群れがいるみたいだ。10匹ぐらいの群れかな?まぁでもスライムならたいしたことは……いや。あれは、魔法を使えるタイプの?
「気を付けろよ。進化してるタイプだ。確かあれは……」
「土魔法を使うタイプのアーススライムだね」
ミンクがそう言う。さすが、そういう勉強はすでにできているらしい。
「えーっと、確かアーススライムは……」
「スライムは魔法を使えるといっても少し発動が遅いから、こちらが隙を見せなければ大丈夫。一気に殲滅するように意識することが大切。でしょ?先週教わったばかりじゃない」
リックとセルファは授業で教わったことを確認しながら戦闘に入る。
どちらも、魔剣と魔棒への魔力込めはスムーズみたいだ。
「肉体強化。リックとセルファの筋力を高めて!」
アンリがつぶやいているのが聞こえる。
そのまま、リックは剣をふるう。問題なく倒せるみたい。まぁ、そもそも2年生の頃のあの対決であれだけの数のスライムと戦ってたからな。問題はないだろう。
セルファもうまく対処してるみたい。このぐらいの敵だったら2人とも何の心配もなさそうだな。
アンリも弓を構えているが、使う必要はなかった。
「やったー!初めての敵を倒したぞ!」
「やったね!私たちでもなんとかなるじゃん!」
リックとセルファは嬉しそうだ。大人の目がない状態で戦闘するのは実際初めてのことだから2人とも少し緊張していたんだろうと思う。ただ、その緊張も解けたみたいだ。
意外と簡単に行けるかもな。
それから、一時間ほどの間、俺たちは魔物と出会っては戦い、出会っては戦いを繰り返した。
スライムレベルの魔物なら、何の問題もなく倒せるし、少しバット系の魔物……蝙蝠だね。が襲ってきても、心配ない。
「意外といけるんじゃね?魔物も強くないしさ!」
「そうだね。私たち、全然余裕!」
ずっと前衛で戦ってる2人もまだまだ元気そう。ただ、そろそろ休憩して食事でもとりたいところだけど、いい感じの魔獣が襲ってこないかなぁ……。とか思ってるのがよくなかったのか、少し手ごわい魔獣の姿が見える。
「あれは……ストームウルフだっけ?」
ストームウルフ。そんな名前だけど、風属性の魔法を使うっていうわけじゃなくて、純粋に素早さがすごいことからそんな名前がついている魔獣だ。狼が魔獣化したものとしては一般的だけど、このダンジョンの中にいる魔獣としては強いほうだ。
まず、その速さが厄介。しっかりと狙いをつけないと簡単にかわされてしまう。更に、その爪と牙の威力は恐ろしい。できるだけ攻撃を受けないようにしながらこちらの攻撃をぶつける必要がある。
「あいつのスピードに対処するには、リックよりもセルファの方が得意だろうから、セルファが前に。リックはそのサポートを。アンリは弓で相手の移動経路を塞ぐように打ってもらってもいいか?」
おれがそう指示を出すと全員がその通りに行動する。ミンクは……。
「ドロー」
そう言って地面に魔法陣が書かれる。ゴーレムを召喚する準備をしているみたい。
「ミンクは、まだゴーレムは召喚しないように。セルファが攻撃を仕掛けてからの方が奇襲っぽくなっていい気がする」
「了解」
俺たちは、それぞれ得意なことも違ってバランスもとれてるから、あの程度の魔獣にはやられないはずだ……たぶん。
まず、セルファが前に向かうストームウルフもこちらに気づいたようで、低いうなり声を上げている。
セルファが棒を前に突き出す。がしかし、その攻撃は外れてしまう。そのまま、ストームウルフも攻撃を仕掛けてくる。爪を振り上げての攻撃だ。
それに合わせるようにアンリが矢を打ち込む。……当たった?いや、惜しい。矢が向かってくる音に気付いたのか、簡単にかわしてしまう。
野生の魔獣はだいぶ警戒心が強そうだな……。それぞれ向かい合ったまま、動けない。膠着状態が続く中。その空気に耐えられなくなったのはこっちのリックだった。
「くそっ。面倒くさいな」
そう言ってリックはストームウルフに向かって剣を突き出す。
「おい!リック!お前のスピードじゃあ……」
俺がそう言っても遅かった。当たり前のようにストームウルフは攻撃をかわすとそのままの勢いで牙をリックに突き立てる。
「うぐっ」
リックは腕を噛まれて痛そうな声を上げる。
「リック!」
俺たちはその様子に焦って一瞬動きが止まる。そんな中、リックが叫ぶ。
「今だ!」
その言葉に我に返った俺たち。セルファがその声を受けて棒を敵に当てる。
しっかりと攻撃が当たった。
「ぎゃんっ!」
ストームウルフがもだえる声を上げる。思った以上にかわいい声だな、おい。
「ゴーレム召喚!」
攻撃が当たった隙をつかないわけにはいかない。ミンクは素早くゴーレムを召喚するとそのままゴーレムの攻撃がストームウルフに当たる。完全に傷ついた敵に対し、そのままアンリが弓矢を放つ。胴に矢が深く刺さり、そのまま動きが止まる。
「やった……のか?」
どうやら、死んだようだ。
ふぅ。何とか助かった。
「リック!大丈夫!」
そうだ。リックに駆け寄る俺たち。
「大丈夫だよ。ちょっと痛いだけだ」
「もう。危ないことしないでよ……」
セルファが悲しそうに声をあげる。泣き出しそうなぐらいだ。
「だって、あのままずっと待ってる方が嫌だったんだからしょうがないだろ」
そう言ってリックは口をとがらせる。
「もう……とりあえず手を出して。『ヒール』」
腕の傷がアンリの魔法の力でふさがっていく。とりあえず、傷の方も大丈夫そうだな。
ただ、今回の戦いに関しては反省だらけだ。俺たち一人一人の強みがうまく生かせないまま、結局リックが傷をつけられてしまったように思う。
「少し反省会だな……」
「うん。そうだね……」
俺の言葉にセルファがうなだれる。
「分かってるけどさ、今倒したストームウルフは食ってやろうぜ!」
一番反省しなければいけないはずのリックのその言葉に俺たちはみんな少し笑ってしまうが、それは間違いない。
「じゃあ。食事をとりながら反省会ってことにしようか。俺が毛皮は魔法ではぎとるから、解体はリックがやってくれ」
そう言うと、俺は瞬時に風魔法でストームウルフを完全に裸にしてしまう。
リックは普段からロックさんと一緒に狩りにもいってるし、ストームウルフを解体したこともあるだろうから任せても大丈夫だろう。
その間に俺は、簡単なかまどと鍋を作り出す。
鍋なんかは本当は持ってきてもよかったんだけど、魔法で作れるならそっちの方が楽だからね。
「私、取れたばかりの魔獣食べるの初めて!」
アンリが嬉しそうに声を上げる。まぁ、狩りをするような家じゃない限り、取れたての魔獣なんか食わないよな。
そのまま、解体を終えた狼を、俺とミンクの火魔法で焼きあげ、近くに生えていた食用のキノコと混ぜて鍋を作る。オオカミ鍋だね。
それをみんなでつつきながら、さっきの戦闘の反省をそれぞれが話し始める。
「さっきのは、私の最初の攻撃が当たらなかったのがよくなかったと思うな……」
「いや、セルファが攻撃を仕掛ける前に私が弓で動きを制限した方がよかったんだと思う」
「それで言ったら、俺がすぐに後に続いて攻撃を仕掛けなかったのが一番よくなかったんじゃないかな……」
攻撃に参加していた三人が思い思いに自分の反省を語る。
「というより、連携がうまくとれてなかったのがいけないんだろうね。それぞれ、勝手に攻撃を仕掛けるんじゃなくって、声を出し合いながら、それぞれの考えていることを伝えた方がよかったんじゃない?」
そんなミンクの意見も正しいとは思うけれど、なかなか実際の現場になると自分の考えを言葉で伝えるのは難しいと思う。
「魔法を使える俺たちが、召喚ばっかりに気を取られてたのが一番よくなかったと思う。実際、リックが噛まれそうになった瞬間にあの場所に木の棒なんかを空間魔法で移動させれば噛まれることなく済んだと思うし。攻撃班はそのままでいいと思う。俺たちがもっと魔法でサポートすることを意識しておこう」
実際、攻撃するときには複雑なことを考えている余裕はないと思う。それだったら、後ろで見ている俺とミンクが臨機応変に対応するほうがうまくいく気がする。
「うーん……」
「まぁ、まだ先は長いんだし、これから戦闘を繰り返しながら、俺たちにあった戦い方を見つけていけばいいよ!」
とりあえず、最初の反省会はこんなところだろう。今は食事を楽しんだ方がよさそうだしね!
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