第26話
あの、領都の学院での対決からもう約一年が経とうとしている。
俺は、そのまま村の学院で3年生になった。アウレールはあれから完全に納得したようで、カレンベルク家からも特にそれから転入に関しての話が来ることはなかった。
ただ、あれからも何回か食事にはお呼ばれした。まぁ、毎回ばあちゃんも一緒だったし、特に問題はなかったけどね。
アウグスト様は本当に俺みたいな研究者が好きみたいで、色々話を聞きたいとおっしゃっていた。俺なんかの話の何が面白いのかは分からないけれど、魔法陣に関しての新しく分かったことだったり、召喚術についてだったり、とにかく思いつく限りの話題を必死で探しながらいつも話をしている。
最近は、もうネタがなくて厳しくなってきているぐらいだ。
あれから、クララの正体も探ろうとしたけれど分からない。実際はばあちゃんや父さんや母さんなんかは正体を知っているような気がするんだけれど、教えてくれない。アウレールが口止めされていると言ってたってことを話しちゃったからかなぁ……。
それだけの権力者なんだろうということはなんとなく想像ができるけど、何者なのかがはっきりしないと納得できないんだよなぁ……。
初等学院では高学年になったことで、少し専門的な内容を教わるようになった。
俺は結局、魔法術と召喚術しか選択しなかった。他のも選択しようと思ったんだけど、領都の学院での対決を思い出してさ。あのレベルまで武器での戦闘をできるようにしないと王都の学院では意味がないと思うとさすがにやろうって気が起きなかったよね……。
実際、5年生の最後には王都の中等学院の入学試験に挑戦しなくちゃいけないから色々調べたんだよ。その時に高学年時点で学んだことを活かしての科目もあるらしい。もし剣術とか棒術を選択してたらそれに関する試験にも挑戦しなくちゃいけないんだってさ。そんなの、無理じゃんってなってあきらめたっていうのはある。
他のみんなもあれ以来自分の本当に得意な物だけを極めようと意識したみたいで、リックは剣術と棒術、セルファは棒術のみ、アンリは弓術と魔法術、ミンクは俺と同じで魔法術と召喚術を選択した。
細かく何を教わっているのか分かっているのは、俺が一緒に教わっている科目だけだから、魔法関係以外は何をやっているのか細かくは分からないんだけど、毎日の朝練でその成果を見る限り、かなりみんな上達しているみたい。
それと、みんなはあれから暇な時間があると領都に行くこともあるらしい。リックはライナーと仲良くしてる様子でよく汗まみれになって帰ってくるとロックさんが笑ってた。
アンリも、カルラのところに行くことはあるみたい。弓術のポイントに関しては、先生よりも分かりやすいなんて言ってた。それは、ちょっと酷くない?
セルファはどうなんだろう。詳しく話してくれない。あの時は男の人に誘われたってテンション上がってたみたいだけど、デートとかしてんのかな?
ミンクは朝練以外にゴーレムを使う機会があるっていうので、リックやアンリと一緒に訓練に参加してるらしい。完全にゴーレム召喚担当になってるみたいだけど、他の魔法術も頑張ってるし、まぁいいのかな。
さて、そんなこんなで俺たちは3年生最大のイベントを迎えようとしている。
遠征挑戦、初級レベル……というか普段生活している範囲内のダンジョンへの挑戦だ。
「いやー、楽しみだったんだよな。俺たちだけでの戦闘」
リックが興奮気味にそう話す。
「あんまりうるさくしないでよ!みんなで協力しないといけないことなんだから、一人で突っ走らないでよ!」
リックに対してこういうことを言うのはいつもセルファの役目だよな。
「けど、私も楽しみだな。そもそも私たち5人でお泊り会っていうのもやったことないじゃない?」
「お泊り会って、ダンジョンの中で寝ることをそんな言い方するのアンリぐらいじゃない?」
アンリの言葉に俺は思わず笑ってしまう。
「僕は、やっぱりまだ少し怖いな……実際に魔物を前にした時にいつもみたいにできるか不安で……」
「大丈夫だよ。ミンク。自信出せって!お前の魔法なら、この程度のダンジョンにいる魔物なんかに負けるはずないんだからさ!」
ミンクの気の弱さはなかなか治らないようだけど、俺たちはミンクの強さをよく分かってるから、リックのその言葉にしっかりとうなずく。
ダンジョンへの挑戦は3年生の終わりに全員で初めて行う実戦的な訓練だ。2泊3日の日程で、全員で乗り越えることになっている。
ダンジョンは、村の近くにあるもので地下2階まで。中に生息している魔物はさほど強くはない。実際、子供だけで挑戦するわけで、その辺の安全性はかなり考えられているみたいだ。
ダンジョンは魔物が発生する場所らしい。どうして魔物が発生するのか、どうして単なる獣が魔獣化するのかはまだ解明されていない。けれど、魔物の存在は生活をするうえで必要な素材の提供や食事の提供をしてくれるものだ。だから、ダンジョンも生活のために必要不可欠のものと言われている。
そのため、弱い魔物しか現れないダンジョンの近くに人の集落はできる。
強い魔物が発生するダンジョンももちろん存在するが、そういうのは、冒険者が自身の力試しに挑戦するか、人の生活に不利益をもたらすと判断された場合は軍の管理下に置かれている。
「私も、すぐ外で待っているけど、本当に危険な時とか自分たちでは対処できない怪我をした時以外に助けはしません。できる限り自分たちの力だけで乗り越えるように。この遠征の目的は、地下2階の奥にある宝箱の中身をもって帰ってくること。また、必ず2泊3日はダンジョン内で過ごすこと。魔物をどれだけ倒すかは任せます。別に一体も倒さなくてもいいです。大丈夫?」
『はい!』
ちゃんと注意事項も頭に入っている。全員の力でこの訓練を成功させるぞ!
実際、俺たちはかなり成長したと思う。俺は空間魔法を完全に使えるようになっていた。そのおかげでダンジョン内といっても、持ち込める物が相当多い。さすがに、空間魔法で作った空間の中で過ごすなんという上級なことはできないけど、いざとなったら一番奥まで一人で行って宝箱の中のものを取ってくることぐらいはできると思う。やらないけどね。みんなで協力しなきゃだから。
リックとセルファには、俺が簡単に作った魔剣と魔棒を持たせてある。魔石粉は使用していない、今度うちの工房の商品として出す予定のものだ。この一年で魔石を削る機械に少しだけ魔法を込める技術が発達して、それを使えば一回り小さくできるようになったんだよね。これは、俺のミキサーで魔石の効果が失われないことから、ばあちゃんが考えて開発した商品。俺は全く開発に関わってないから、俺の技術を使ったって知ってるのはうちの家族だけだけどね。
リックのものは、物質強化の魔法陣が使われている。切れ味が鋭くなって、小さめの岩ぐらいなら真っ二つだ。属性魔法を使えるようにもできるけど、それは持たせてない。あまりにも威力が強くなるのは危ないからね。
セルファのは物質硬化。だいぶ強度が上がっているから、どんな魔物を相手にしても壊れることはないはず。
アンリは、空間魔法も使えるようになっているけど一番才能を発揮してのは回復魔法。これは人体の知識なんかがあると想像力が高まって、効果が上がるみたいなんだけど、アンリは勉強の方も頑張ってるから、その成果だね。回復魔法では俺よりも効果が高いものも使える。
それと同じように、人体について分かっていないと使えない、単純な強化魔法もかなり得意。本当は自分にしか使えないものなんだけど、アンリは人にも使える。
身体強化、リックやセルファも習っていて練習しているんだけど、まだ難しいみたいで、その辺はアンリに頼ることになりそう。
ミンクは攻撃魔法も召喚術も相当力が上がっている。召喚術と併用した複合魔法もどきのバリエーションも増えてきていい感じだ。それだけじゃなくて、光魔法なんかも使いこなしているから、ダンジョン内での明かりはミンクに頼ることになる。いや、俺も使えるんだけどね。
俺は……今回は環境整備一番の役割だってさ。戦いにはできるだけ参加しないでくれってみんなには言われちゃった。俺の魔法は一発一発の威力調整が難しいから、あまりやりすぎるとダンジョンを壊しちゃうんだよね……。その辺の調整の仕方は今後の課題でもあるから、今回の訓練で少し練習しようとは思ってる。
環境整備っていうのは寝泊りするところとかの確保とか。食事をするときの処理とかそういうの。今回は食事もダンジョン内のものを取って食べなきゃいけない。魔獣をさばいて食べてもいいし、ダンジョン内に生えてる草やキノコなんかを食べてもいい。
どちらにしても、俺の風魔法なんかを使えば簡単だからね。それと、料理には火が必要だしね。水魔法の水も……と言いたいところなんだけど、水魔法で作った水は飲み水には使えないんだよね。魔力がこもってるから、飲むと気持ち悪くなる。遭難したときなんかを除いてできるだけ飲んではいけないってことになってる。
とりあえず、そんな感じで役割分担もできてるし、準備は万全って感じだ。全員で乗り切る意識も高い。必ず、乗り越えるぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます