第23話

「次は魔法術です。選手、前へ」




 俺は、ダニエル先生のその言葉に反応し、前に出る。


 今まで、みんなの活躍見てて、興奮してきてるから、楽しみ。


 向こうは……。女の子か。




「私、クララと申します。ヴォルクス様と戦えるなんて光栄です」




「クララさん……。ヴォルクスです。よろしくお願いします」




 今までがみんな出自を語っていたのに一人だけ何も言わないことが気になる。ただ、まぁいいか。姓も名乗ってないし、貴族ではないのかな?それにしては立ち居振る舞いが綺麗な気がするけど……。


 まぁ、そんな俺たちの方は何も言ってないんだから似たようなもんか。気にしないようにしよう。




「ヴォルクス様の魔法陣鎧。拝見しました。大変すばらしかったです。あのようなものを開発できる発想力をお持ちだと、魔法もお得意なんでしょうね」




「ははは。あれを作ったことと魔法はそんなに関係ないと思いますよ。まぁ、全力はつくします」




「本当に、ヴォルクス様は自慢というものをされないのですね。アウレールに聞いていた通りですね」




 クララはアウレールに向かって微笑みかける。


 アウレールは恥ずかしそうに下を向く。……?どういうやり取りなんだ?これ。




「2人ともいい?そろそろ始めても」




 キャロリーゼ先生がそう聞いてくる。あっ。そうだよ。試合試合。




 今回の対戦は召喚される魔物をただ速く倒すだけ。ただ、召喚されるのは、精霊だ。


 精霊といっても、そう呼ばれているだけで、中身は魔物。ただ、魔法を使うことのできる召喚できる魔物をそう呼んでいる。


 魔法を相手も使ってくるというところがポイント。正確に相手の弱点の属性を見極めてこちらの魔法をぶつけなくてはいけない。


 相手が使えるのと同じ種類の魔法を使ったら効かないらしい。


 うーん。観察が大事ってことかな?




 正直、俺自身は召喚される魔物と戦った回数が他のみんなと比べると圧倒的に少ない。そこが少し不安だけど、まぁ大丈夫だろう……。




 クララの方を見ると、余裕な雰囲気で微笑んでいる。緊張してる雰囲気も全くない。俺は……正直、観客がめちゃくちゃ増えてきていて落ち着かない。ただ、やるしかないからね。




「はじめ!」




 先生のその言葉とともに、精霊が召喚される。


 最初は……10体だな。


 精霊一体ずつの属性は、少し魔力を感じ取ろうとすればすぐに分かる。


 今いるのは、火と水かな?


 その他のはいないみたいだ。


 逆の属性のものを準備することで、正確に火と水を使い分けられるかを競わせたいのだろう。




 ……まぁ、俺にはそんなに関係ないんだけどね。




「ドロー」




 俺は、召喚された精霊の数を確認すると、すぐにその精霊の足元に魔法陣を土魔法のドローで描く。


 さて。次は……。




「ブロウ」




 風魔法を使って、魔石粉をその魔法陣の上に吹きかける。


 これで準備は完了。




 今回は、魔法術での対決ということで、心置きなく魔法陣術を使わせてもらうつもりだ。


 どうせ、ここの生徒たちも魔法陣術を魔法弱者の魔術だと認識しているだろうから、この瞬間で、俺がしっかりその認識を覆してやる。




「魔法陣、同時発動!」




 そうやって俺が唱えると、魔法陣から水の柱と火の柱が同時に現れる。


 その柱は、学院の校舎の高さよりも遥かに高い。




 ……やり過ぎたな……。




 俺は、この間同時発動を失敗してからも、練習は繰り返し続けていた。


 そして、何度も何度も失敗してしまったのが悔しくて悔しくて、その話をばあちゃんに相談したんだ。




 俺が目指す魔法の方向性を話したら、ばあちゃんは失敗の理由も簡単に教えてくれた。




「あんた、まだ空間魔法使えないんだろ?じゃあうまくいくはずないじゃないか」




 ばあちゃんの同時検査の魔法は父さんは無属性の魔法だと言ってたけど、実際は空間魔法の応用技だったらしい。


 空間全体に魔力の波を作り出して、それで魔道具を包み込む。




 確かに、空間魔法を使えない俺にはまだ使えないのは当たり前のことだった。




「じゃあ、無理か……」




 そう俺が悲しそうに言うと、ばあちゃんは孫がかわいそうだったのか、空間魔法について教えてくれたんだよね。


 いや、悲しそうに言ったのは、ばあちゃんが教えてくれるだろうと思ってってわけじゃないからね。


 たまたまだよ。たまたま……ってだから、俺は誰に対して何を言い訳してるんだろう。




 とりあえず、それから俺は基本的な空間魔法に関してはある程度使えるようになった。


 そうしたら、普通に魔法陣をいくつだろうと同時に発動できるようになったってわけ。




 今回は、それのお披露目として、この機会を利用させてもらった。


 いやー、ありがたい限りですな。




 俺が魔石粉を惜しげもなく使った魔法陣からは、誰の目に見ても明らかなほど異常な魔力を放出していた。




「な……」




 ダニエル先生もキャロリーゼ先生も驚いてる。


 うんうん。今回は驚いてほしくてやったから、その反応に満足感しかない。




「な、なんなの、今のはヴォルクス君!」




 キャロリーゼ先生が俺に駆け寄ってくる。




「え……?魔法ですけど?」




「いやいや、今の規模の魔法を使うのにどれだけの魔力を使うと思ってるの!ヴォルクス君にそんな魔力ないでしょう」




 えーっと。俺が使った魔力は、魔法陣を書いた簡単な土魔法と、魔石粉を魔法陣に振りかけた風魔法。それから、同時発動のための空間魔法だから、全部で1500ぐらい?


 たぶん、それぐらいなら空間魔法さえ覚えればミンクでも使えると思うけどなぁ。


 そう思ってミンクの方を見ると、さすがにミンクも驚いた顔をしている。




 というか、あっ!これって対決だった。


 対戦相手の方は……ん?何にもやってない。




「えーっと……今のヴォルクス様の魔法で私用に召喚されていた精霊も消し飛んでしまったのですが……」




 クララが申し訳なさそうに言ってくる。




 ……あー。完全に使う魔法の威力を間違ったみたい。


 ただ、俺自身の魔力の込め方の問題じゃなくて、魔石粉の量の問題だから、調整がなかなか難しいんだよね。いやー、失敗失敗。




「あー……すみませんでした。もう一回やります?」




 俺のその言葉に、キャロリーゼ先生とダニエル先生が顔を見合わせる。




「……その必要はないでしょう。あの威力を越える魔法はこの中の誰も使えませんし、あれだけの威力を持っているなら、精霊の属性など関係なく全て飲み込んでしまいます。そもそも対決方法に意味がない」




 うーん……。どういう方法で競わせたらいいか、しっかり考えてくれていたかと思うと本当に申し訳ないよな……。


 もう少し抑えて、対戦の雰囲気もう少し出せばよかったかなぁ。




「私としても納得です。正直、ヴォルクス様があれほどの実力をお持ちだとは知りませんでした。すごい発明家だとばかり思っていたのですが、魔法も本当にお強いのですね」




 あー……。この子もそうだけど、もしかして、誰も俺が魔法陣を使って今のをやったってことに気づいてない……?


 いやいや、それじゃあ意味がないのに。


 俺は魔法陣術でやったんだから、その魔法陣術のすごさの方に注目してくれよ!みんな!




 というか、俺はクララがどのぐらいの実力者なのかを確認したかったんだけどな……。




 完全に俺が校庭を荒らしてしまったせいで、次の最終対決までは少し中断となった。


 当然の如く、質問は俺に集中する……と思ったんだけどそんなことはなかった。


 向こうの生徒たちはみんな俺のことを……ビビってる?




「あの、ヴォルクスって人が俺らの学院に入るかもしれないのか?」




「正直、彼が学ぶことが私たちの学院にあるのかどうかよく分かりませんね……」




 あー、ライナーにロルフ……話し声聞こえてるけど、そんなことないからね。いや、確かに魔力量は多いけど、魔法陣術使わないであれだけの魔法使うのはさすがに無理だから……。




「私としては、あの異次元の彼よりも他の3名の方が興味深いです。正直、田舎育ちとは思えないほど優秀な方々でしたよ。私とやった彼女だって、あそこまでできるのはそうはいないでしょうし」




 あ、その意見は嬉しいかも。


 そうそう。元はと言えば、俺がこの学院に入る必要がないってのを証明したくてこの機会を作ったわけでさ。


 俺の仲間たちは優秀だろ?




「いえ。私としてはやはりヴォルクス様に興味があります。彼の先ほどの魔法。なぜ、それほど多くの魔力を感じなかったのにあのような威力が出せるのか、不思議です……」




「でん……クララ。あれは恐らく……いや。後にしよう。ここで大きな声で話す内容ではない」




 アウレールとクララの会話はなかなか不穏だな。


 ただ、アウレールは気づいてくれたみたい。


 考えてみたら、この間アウグスト伯爵に魔石粉を渡したし、それと結びつけて考えたんだろう。




 てか、そうか。誰も魔石粉の存在知らないんだから、あれが魔法陣術だと思うわけないじゃん。


 普通に、魔石もないのになぜか魔法陣を書いただけに見えてた可能性があるのか。


 全く気づかなかった。




 しかも、アウレールはあまりこの話を拡散するつもりがないみたいだしな。


 考えてみたら、魔石粉は秘蔵の品ってことでアウグスト様に渡したんだった。




 うーん。俺自身の計画性のなさが笑えてくるな……。




「ねぇ!ヴォルクス!さっきの、なに?」




 俺が、風魔法を使って向こうの生徒のひそひそ話を『盗聴』していると、アンリに突然そう声をかけられた。


 まぁ、聞きたいことは大体聞けたからいいか。




「ん?魔法陣術だよ」




「え……?魔法陣術ってあんな大きな魔法使えるんだっけ……?」




「魔石の量を増やせば、魔法の大きさは自由自在だからさ。まぁ今回は使い過ぎたみたいだけど……」




「へ、へぇ……。私が知らないうちに本当にヴォルクス遠くへ行っちゃうみたい……」




 そんなことないと思うけどな。


 まぁいいか。




「ミンクは?緊張してるみたいだけど?」




 俺は、明らかに緊張してるミンクにそう声をかける。




「い、いや……みんな頑張ったんだから僕も頑張るよ。みんな見ててね」




 緊張はしているけれど、いつもよりも強い意志の感じる目をしている。


 ミンクも今日で色々と成長するかもな。




「もちろん!ミンク頑張れよ!」




「ミンクが勝ったら私たちの勝ちだからね!頑張って」




「ミンク、信じてるから。ヴォルクスを向こうに渡さないようにしてね!」




 みんながそれぞれ思い思いに言葉をかける。




 さて。最終戦だ!


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