第22話
「では、それぞれの選手、前へ」
そう、キャロリーゼ先生が言うと、こちらはセルファが前に出る。
向こうは……。ん?なんか物凄く姿勢のいい人が出てきた。
子どもなのに、紳士然としているのが分かる。
「セルファです。よろしくお願いします」
なんか、ちょっと緊張してるみたいだな。セルファ。
「私はロルフ・シェーンベルク。シェーンベルク男爵の三男です。よろしくお願い申し上げます。可愛らしい女性とともに戦えること、光栄に思います」
自然に褒め言葉が出てくるのは、貴族の息子って感じ。
セルファは……。あぁ、慣れてないからかな。顔真っ赤にしちゃってるよ。
「わ、私も光栄です。よろしくお願いいたします」
「ええ。お互い悔いの残らないよう全力で戦いましょう」
立ち居振る舞いがとにかく格好いいな。男の俺でも見とれてしまう。
ただ、確かシェーンベルク男爵っていうと、文官の家系じゃなかったかな?武にも優れてるのかな?そうだとすると、かなり優秀なんだろうな。
今回の対戦形式は、さっきとは違うみたい。というか、全部違うんだな。
今回の相手はゴーレムだ。それも、さっきとは違って大量に戦うわけじゃない。最初から一対三。それぞれのゴーレムをどうさばいて戦うかが勝負のポイントみたい。
「棒術は回避に長けていないといけません。そのため、回避の様子が分かりやすい形式にしました」
と話すのはダニエル先生。今回は全部対戦形式をその場でダニエル先生が考えてるみたい。
向こうに有利なようにしているのかとか思ったけど、そんな恥ずかしいことするわけないし、大丈夫だろう。
「さて、始め」
キャロリーゼ先生がそう言うと、ゴーレムが合計6体召喚された。
そのゴーレムに向き合うセルファの表情からはさっきまでの緊張はあまり感じ取れない。
うん。いい集中力だ。普段はヘラヘラしてるけど、ここぞというときはやるんだよな。
対してのロルフ。先ほどまでの態度と何も変わらない。落ち着いてるなぁ。
それから、ゴーレム3体が同時に向かってくるものの、二人ともさほど動じないで普通にかわす。ただし、攻撃しても簡単には倒れない。耐久力で言ったら、一体一体は俺の召喚するやつよりありそうな感じだ。なかなか倒すのは大変そう。
これは、一体一体を倒せるようにはしてないのかもしれない。本当に時間内ずっと動き続けられるかが大事なんだろう。
セルファはあれで、体力もあるから。まぁ、たぶん大丈夫。
ロルフも余裕そうだ。攻撃をするのと同時に一歩引く。それぞれのゴーレムの頭のところで棒を往復させるなど、パターンも多彩。動きもまるで踊っているかのよう。美しい。
なんか、一連の歌劇を見ているような動きに魅了されてしまう。
うーん。やっぱり、向こうの生徒も優秀なんだよな。
こちらのセルファはというと、ずっと基本に忠実。時間が経っても、動きに変化はない。たぶん、こっちの5人で一番体力があるのはセルファだからね。まだまだ元気いっぱいに動き回ってる。
それから、制限時間の半分が経過すると、少し差が見えてきた。
セルファは変わらず動き回っているが、ロルフの方は少し疲れが見えてきた。動きの華麗さはあまり変わらないが、それでもキレが落ちてきているような気がする。
攻撃はまだかわせているようだけど、そのタイミングがちょっとギリギリ。もう少しで当たってしまうのではないかという場面が何度かある。
あっ。そう思ってたら一回少し強くたたいた瞬間の隙を狙われてゴーレムの手が当たる。
受け身はしっかり取れていたようで、ダメージはさほどでもないようだけど、それでも一撃食らったのは確かだ。
残りわずかというところになると、二人ともさすがに疲れてきたようで、少し距離をとることが多くなってきた。
倒せない敵とずっと戦い続けるっていうのも大変だよな。まぁ、こっちは朝練でいつもやってる練習に近いから何とかなってるけど。
考えてみたら、今回はこっちに有利だったかもしれない。あいてはゴーレムってことで、いつもセルファは戦ってるから慣れてるからさ。
しばらくすると、時間終了。なんとかセルファは最期まで乗り切ったみたい。
ロルフの方も、一回攻撃を受けてからは距離の取り方を考えたみたいで、攻撃を受けずに終えていた。
「セルファさん、よく頑張りました。けど、少し攻撃する回数が少なかったと思います。確かに今回は強度の設定的には倒せない相手だったけど、これが本当の戦闘だったら時間制限はないんだから、倒せる方法を探る必要はあったと思いますよ」
「ロルフ君。君は戦うときの見栄えの良さを考えすぎなのがよくありませんでしたね。これは舞台での演武ではなく実践を想定したものです。もう少しそれを意識するのが課題ですね」
それぞれの先生の講評。
うーん。二人ともよく見ているよな。本当に。
「いや、可愛らしい女性などと言ってしまって申し訳ありませんでした。華麗で可憐な動き、素晴らしかったです」
ロルフはさっきまで戦っていたとは思えないほど涼しい顔でそう言う。そういう感じの強がりをするタイプなんだろう。でも、格好いい雰囲気は変わらない。
「こちらこそ、素晴らしかったと思います。動き、きれいでした」
セルファの真っ直ぐな褒め言葉にロルフは微笑む。その姿なんかも、役者みたいで格好いいな。貴族様って感じがする。
ただ、棒術はこちらの勝ちとみていいだろう。向こうの生徒も、セルファの動きには驚いてたし、さっきのリックもよく戦えていた。ちゃんとこっちの評価は変わってきてるみたい。
ただ、明らかに見物人が増えてきてるみたいなんだけど……。
「では、次ですね。弓術の選手、前へ」
その言葉に反応するのはこっちのアンリ。
「ヴォルクス、頑張ってくるね!」
そう言って弓を持つ。
向こうは、さっきリックとライナーの言い争いを止めていた女の子だ。
「カルラと申します。父は伯爵様の元で軍隊長をしております。よろしく」
「あ、アンリです。よろしくお願いします」
軍隊長の娘さん。そりゃ、なんというか強そうだな。
弓術で召喚されるのは、いわゆる火の玉。ウィルオウィスプってやつ。実際は本当の火の玉ってわけじゃなくて、魔力がふわっと集まったものみたいで、矢が燃やされるってこともないらしい。
ふらふら揺れ動く火の玉を正確に打ち抜けるかが勝負のポイントみたい。
今回は、向こうから攻撃をしかけてくるという感じではなく、それぞれ100体を射抜くことができた時点で終了。タイムアタックだ。
アンリは普段通りの表情。それほど緊張している様子も見えない。集中もできてるみたいだから、何とかなるんじゃないかな。
向こうは……空気感が違うな、めちゃくちゃピリッとする感じ。かなり強そうだ。
それぞれ、開始の合図とともにまず一発。
その時点で差が分かるほどだった。アンリの射た矢はしっかり真っ直ぐ飛んでいく。それは普段の練習の時と変わらない。しかし、揺れ動く的をうまくとらえきれずに見事にたくさんある火の玉の脇をすり抜けていく。
対するカルラの矢は、敵の動きをしっかりと予測できており、見事に射抜いていた。中心が射抜かれると音もなく一つ消えていた。射抜いたからと言って表情は変わることがなく、そのまま次の矢を構えている。
アンリは、二投目からはしっかりと動きを予測して射抜こうとする。しかし、なかなかとらえきれない。一投ごとの時間間隔も長くなってしまうし、少し難しい様子だ。
カルラは最初に射た矢と同様、その後もきれいに射抜いていく。半分ぐらい消えてくると、それぞれの動きが活発化しているためにさすがに全投当てるというわけにはいかなくなってきたが、それでも正確性はすさまじい。
アンリも、だんだん慣れてきたようで途中から少しずつ命中率が上がってきた。だけど、最初についた差はなかなか取り戻せない。
今、残ってるのは、アンリが半分ぐらいで、カルラの方が2割ほどってところだ。
思った以上に差がついている。
ただ、決してアンリができていないというわけではない。単純にカルラの能力が高すぎるだけなんだと思う。
実際、俺がやろうと思ったときには、射抜く想像すらつかない。特に、数が減ってくると何度も当然上がる。
うーん……。アンリも10投あったら7投ぐらいは当たってるんだけどな……。
そうしてしばらく時間が経つと、差は決して縮まることなく、カルラは射抜き終わった。
アンリの方はまだ20匹ぐらい残ってる。
全員が、カルラが終わった段階で終わりみたいな空気を出す中、アンリだけはまだ前を見つめて矢を打ち続けている。
最後までやめるつもりはないみたい。
カルラに遅れること数分、しっかりとアンリは全ての的を射抜き、こちらに向き直る。
顔がめちゃくちゃ悔しそうだ。今にも泣きだすんじゃないかって顔をしてる。
「よく頑張ったな」
俺がそう声をかけると、アンリは泣き出す……ことはなかった。
「うん!」
笑顔でそう言ってくる。本当によく頑張ったと思う。
「カルラさん。お見事でした。いつもの訓練通りにできていましたね。さすがは本校のNO.1です」
「いえ。一投も外すことなく射切る予定でしたが少し外しすぎました。まだ鍛錬に励みます」
ダニエル先生の言葉にも、自身の課題を感じているようでカルラはそう返す。姿勢なんかも既に武人といった雰囲気だ。すごいな……。
「アンリさんは動く的に対してまだあまり慣れていないようでしたね。実践では当然止まっていることはありませんから、今後はそう言った練習を多く取り入れていきましょう。ただ、最後まで集中力を切らさなかったのは立派でしたよ」
キャロリーゼ先生がそう言って励ましている。
実際、俺たちの中であそこまで集中して臨めるのはアンリぐらいのものだろうから、本当によくやったと思う。
というわけで、ここまで三戦が終わった。勝敗は1勝2敗か……。次はついに俺の番だな!
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