第21話
それから、うちの学院とは比べ物にならないぐらい大きな校庭につくと、早速模擬戦の準備が始められた。
模擬戦では、各戦闘項目について、一人ずつが戦うことになった。これは、俺たちの学院が5人しかいないからだね。向こうでは参加しない人もいるみたいだけどしょうがない。
こっちはそれぞれの得意種目でいく。
剣術はリック、棒術はセルファ、弓術はアンリまでは簡単に決まった。問題は魔法術と召喚術だ。
「魔法術と召喚術に関しては本当にどっちでもいいんじゃない?ミンクはどっちがいいの?」
「僕はどっちでも……。ヴォルクス君が決めてよ」
「本当か?本当にミンクはどっちでもいいのか?こういうときにはしっかり自分のやりたいことを主張するのも大切だと思うけどな」
普段の様子を見てれば分かる。ミンクは魔法術よりも召喚術のほうが好きなはず。
そりゃ、俺も召喚術で普段仕事でもゴーレム使ってる成果を見せつけたいけどさ。ミンクがやりたいもんを奪うつもりはない。
「う、うん……分かった。やっぱり、僕は召喚術で戦いたいかな」
「分かった。俺が魔法術をやるよ。みんなもそれでいい?」
俺たちの決定にみんながうなずく。
「もちろん。ミンク、いつもの朝練の成果、偉そうな坊ちゃんたちに見せつけてやれよ」
リックの坊ちゃんの言い方にロックさんを思い出す。
「ミンクのすごさは私たちが一番よく知ってるんだから」
「ミンクなら大丈夫!ヴォルクスも頑張ってね!」
「俺とミンクだけじゃなくてみんなも頑張れよ。自信をもってやろうな!」
全員で笑いあう。うん。俺はやっぱりこいつらが好きだ。領都の生徒がどれだけ優秀だろうが俺たちには敵わないってことを見せつけるぞ。
「さて。決まったかな?」
アウレール様たちはもう既に決まっていたようで、俺たちの話し合いが終わるのを待っていた。
「お待たせして申し訳ありません。大丈夫です」
「ここでは立場の違いなんかは気にしないで普通に話してくれていいよ。僕たちもクラスの中ではそういうことにしている。名前も呼び捨てで構わない」
アウレール様……アウレールの言葉に、後ろの全員がうなずく。まぁ、そういうことならそれで行こう。
「さて、模擬戦の方法だけど、先生たちと相談した結果、召喚術により呼び出した魔物と戦うということになった。人対人は本当に何かあったときにまずいからということらしい」
あぁ、なるほど。それは分かるな。こっちはまぁいいけど、向こうは貴族もいるみたいだしケガをさせたなんてことになったら大変だろう。
「オレはそっちの奴と戦いたかったんだけどなー」
あちらのうちの一人がそんなことを言う。ってか、同じ学年だよな……?なんか妙に背が高いんだけど……。
「ライナー。仕方がないだろう。お前が本気を出して相手の子にケガでもさせたら……」
ふーん。こっちの心配ね。
「え?こっちの心配?いやいや、もしやりあったら俺がそっちをケガさせちゃうかもよ!」
リックが挑発する。どんな立場の人か分からないんだから、あんましそういうこと言うなよ……。
「やめたら。実際にやってみたら結果は分かるんだから、こんなところで言い合っててもしょうがないでしょう」
向こう側の女の子がそう言って言い争いを止める。かなり勝ち気で強そうな女の子だ。
「そうだな。カルラの言うとおりだ。早速始めよう。まずは、剣術からだな」
「アウレール。ここからは僕らが仕切るよキャロリーゼ。いいね?」
ダニエル先生がそう言うとキャロリーゼ先生もうなずく。
「じゃあ、それぞれの選手、前へ」
「「はい」」
俺の方はリックが、向こうの方はさっきの背の高い男が前に出る。なるほどね、剣術担当なんだな。
「へー、お前が剣術担当か。やっぱ、普通にやりあいたかったな。オレはライナー。カレンベルク家兵法指南役の孫だ。じいさまから戦い方は一通り教わってるからな。田舎のガキなんかに負けねぇよ」
あぁ、ローレンツさんの孫なんだ。ってか、この態度騎士として大丈夫か?ローレンツさん、この姿見たら怒るんじゃないかな……。
「俺はリック。お前の爺さんがどれだけ偉いか知らねぇけど、それはお前に関係ないだろ。俺の方が強いってこと見せてやるよ」
リックも強気だ。なかなか面白くなりそうだな。
対戦は、二人同時に召喚された複数の魔物を相手にしてやりあうことになった。一体一体はそれほど耐久力がないものが召喚されるみたいで、お互いの倒した魔物の数で勝負を決めるみたい。
当然、魔物からも攻撃は仕掛けてくる。それを交わしながらどれだけの手数を打ち込めるか、正確に弱点を狙い打って一体一体を最速で倒せるかが重要な対戦形式だということだ。
二人とも構えを作ると、召喚担当の先生複数人が召喚を行う。
領都の学院は先生の人数も全然違うみたい。各科目に担当の先生がいるっていうのはちょっとうらやましいかも。キャロリーゼ先生に不満があるわけじゃないけど、聞いてもわからないこともあるからね。担当の先生ならそういうことも減るだろうしなぁ。あっ。だけど別に転入したいってわけじゃないから。って俺は誰に言い訳してるんだ。
今回召喚されてる魔物は、スライム。とはいっても基本のスライムではなく少し強い強化版。
一応、一回でも弱点となる部分を狙えば倒せるようだけど、普通にやったんじゃ大人でも何回か攻撃しなければいけない相手のようだ。
リックが向かってくる魔物に対してしっかりと攻撃をかわしながら反撃を繰り出している。
うん。いい感じだ。軸もぶれてないし、基本に忠実。本当にリックは戦い方うまいよな。
一発で倒せてるのもいるみたいだし、あれが続けばそんなに疲れることなく最後まで行けるかもしれない。
対してのローレンツさんの孫だというライナー。リックよりも少し余裕がありそう。しっかりと相手の動きを観察して、体力を使うのを最小に抑えながら攻撃してる感じがする。
さすがは兵法指南役の孫って感じだ。
顔もちょっと笑ってないか?楽しんでる感じがする。
それから、しばらくはお互い変わらなかった。
それを見た召喚担当の先生が一気に召喚するスライムの数を増やす。
制限時間まで半分ぐらい?なんか、戦闘の試合って感じの構成を意識してるんだろうな。
そうやって、数が増えてくると2人の様子に差が出てきた。
リックは同時に複数体が攻撃を仕掛けてくるとかわすのに精一杯になっちゃうみたいだ。うーん反撃ができてない。
最初は召喚されてる魔物も少なかったから対処できてたけど、だんだん多くなってくると、少し粗が出てきたな……。
一対一での戦闘訓練は、俺とミンクのゴーレムで練習してるから少しは慣れてるけど、一体複数ってなるとまだ経験が足りないんだろうな。
そんなリックに対してライナーは魔物の数が増えても様子にあまり変化が見られない。
いや、むしろより楽しそうにしてるように見える。
かわしながらの攻撃も変わらず。しっかりとさばけてる。
更に分かりやすいのがそれぞれの手数だ。
リックは数が増えてからは弱点をしっかりと狙えていない。何回も攻撃しなければ倒せないことが増えてきた。そうなると、更に向かってくる数が増えて、どんどん対処できなくなっていく。手数を多くさせられてる感じだ。
対するライナーはというと、全てのスライムに対して弱点を狙い打ってるという感じではないけれど、リックに比べれば全然弱点を狙えている割合が高い。そうなると、あまり数も増えずにしっかりと対処できている感じになる。
うーん……こうなってくるとそれぞれの実力の差もリックの課題も明確だな……。
残り制限時間まで、あと一分というところになると、いきなり魔物の数が増えた。
ほとんどスライムで埋め尽くされるような校庭の一角。
え?なんか他の教室からも注目されてない?
なんか、視線を感じる。それぐらい圧倒される光景だった。
リックは攻撃をなんとかかわすのに精一杯。何回か攻撃を受けてもいるみたい。
攻撃力は低いように召喚してくれてるみたいだけど、攻撃を受けるとひるんでる。
ライナーも少し苦労するようになってる。さすがにこれだけの量を余裕で対処することはできないみたい。だけど、口元の笑いはずっと変わらない。むしろ今は大きく口を開けて笑ってるよ……。戦うの好きそうだな……。
「それまで!」
ダニエル先生の言葉にいきなりスライムが全て消え失せる。
召喚術だとこういうところが便利だよな。
「はぁはぁ……。疲れたー。ダメだったー」
リックが悔しそうにそう叫ぶ。
「はぁはぁ……。いや、でもお前もいい線いってたと思うぜ」
ライナーもさすがに息は切れてるみたい。それでも、リックの疲労具合と比べると余裕さはあるように見える。
「いやー、でも、やる前にあれだけ大口たたいたのにこんなんじゃ……」
リック、めちゃくちゃ悔しそう。俺はミンクと顔を見合わせる。そうだな。明日からは一対複数との戦闘も朝練の中に組み込まなきゃいけなさそうだね。
「いや。田舎のガキってバカにした言い方して悪かったよ。正直、最後までついてこれると思ってなかった。一対一での戦いには問題なさそうだったし、十分強いよ」
ライナーは優しく声をかける。なんだかんだでちゃんとリックのことを認めてくれたみたい。
「リック君もよく頑張ってたけど、やっぱり数が多くなってくると対処できてなかったみたいね。どうすればいいかは今後の課題にしましょう。もうすぐ3年生になるし、より高度な戦闘方法も今後学んでいきますからね」
「ライナー君はもう少しじっくり狙った方がいい部分もありましたよ。対処はできていましたが、あのレベルなら全部弱点を狙えるぐらいにならないとローレンツ様には到底かないません」
それぞれの先生がそれぞれの生徒に講評を伝える。
え?あれだけ戦えてても課題言われるんだ……大変そう。
「ロベルト先輩。けど、あの戦い方は明らかに3年生で教えるようなレベルだったような……」
「私は何もしてませんよ。お爺さまに教わっているのでしょう。そこまでは私には分かりませんから」
そう言ってロベルト先生が微笑む。本当にこの人、教えてないのかな……?
「さて。とりあえず剣術は終了です。次は棒術と行きましょう」
そうだな。次の対戦だ!
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