第20話

「はーい。今日はみんなに伝えなければいけないことがあります!」




 先生が授業の最初に突然そう言った。


 みんなは一体なんだろうというような顔をしているけれど、俺は分かってる。昨日の話だろう。


 結局、俺は朝練中に交流会の話を言い出せなかった。いや、昨日のことは、食事はどうだったとか、領主様ご家族は綺麗だったかとかいろいろ質問攻めにはあったんだけど、まさか、「アウレール様とだったらみんなもすぐに会えるよ」なんて言えなくてさ……。




「うちの学院と領都の学院との交流会を開催することが決定いたしました」




 その発表があった瞬間にみんなが一斉に俺の方を見る。いや、うん。俺のせいです。




「交流会といっても、領都の学院ではどんな内容の授業をしているかを向こうの学院に行って見させてもらうことが中心です。だけど、私たちも授業の成果を見せる機会が与えられます。普段の戦闘術の練習とか勉強の成果を見せられるように頑張りましょう」




 みんな、俺の方じゃなくて話してる先生の方を見ようよ。そんな態度じゃ領都の学院に行ったときに心配だよ。俺は。




「そこで、あちらの学院には貴族の子女も何人かいらっしゃるということで、みんなが向こうの学院で失礼がないように、今日これから少しだけ説明会を行います。よろしいですね?」




 先生の珍しい有無を言わさぬ姿勢に気が付いたのか、みんなは静かにうなずく。


 あー、なんか緊張感が伝わってくるよ……。本当にみんなごめんよ……。




 それから、向こうでの過ごし方のマナーとかそういったことを軽くレクチャーされた。まぁ、今回は貴族の家に行くってわけじゃなくて、あくまでも学院同士の交流会ってことだから、細かい所作なんかは気にしなくていいってことになったみたい。


 それを聞いたときはみんな以上に俺がホッとしたよね。マジで、俺のことに巻き込ませて、それで更に迷惑をかけるなんて話になったら申し訳なさすぎる。




「すごいよね!領都の学院に行くなんて!うちの学院との交流会なんて学院始まって以来じゃないかって話だよ!」




 アンリが興奮して語っている。




「う、うん。ヴォルクス君、ありがとう。僕も楽しみ。向こうで教わっている内容もすごいだろうし、向こうの生徒さんたちもすごいんだろうなぁ……」




「そんなたいしたことないんじゃないか?俺たちも自分の実力見せつけてやろうぜ!」




「もう、リック。失礼がないようにって説明受けたばっかりでしょ。リックがそんな感じで行ったら向こうの人に失礼になるじゃない」




「はー?なんでだよ。交流会なんだから自分の実力見せる機会があったら見せつけるに決まってるだろ。セルファだって、貴族に会えるって嬉しそうじゃん」




「そりゃそうでしょ。貴族様に会える機会なんてこんな田舎ではそんなにないし。みんなきれいなんだろうなぁ」




 なんか、俺が心配してた感じと違って、みんなめちゃくちゃ喜んでる?


 俺は面倒なことが増えただけって感じだけど、みんなが嬉しそうならよかった。




 そして、数日経った交流会当日。俺たちとキャロリーゼ先生の合計6人は馬車に乗せられ、領都に向かっていた。


 そもそも、みんなは領都自体行ったことないみたい。まぁ考えてみたら俺もこの間まで行ったことなかったし、それも当然のことだよな。




「あぁー、緊張してきた……。ヴォルクスはやっぱり落ち着いてるね」




 アンリが隣で震えてる。




「そんな緊張しなくて大丈夫だよ。学院は学院でしょ?」




「だって、領主様の息子さんに会うんでしょ?領主様の息子さんってことはそのうち後を継いで領主様になる人じゃない」




 あぁ、考えてみたらそれはそうか。お姉さんがいるとはいっても嫡子はアウレール様だよな。って、俺はそんな人に対してあんな態度取ってしまったのか……。今更ながら自分の無知さと自分の愚かさに恥ずかしくなるな。


 そんなことを思ってると、突然アンリが俺の手を握ってきた。




「ご、ごめんね。こうすると少し落ち着くかなって思って」




「ん?別にいいよ。俺の手なんかで緊張が解けるんならいくらでも貸すよ」




 しかし、いつもはしっかりしてるアンリだけど、今日は年相応って感じだな。




「はい、みんなもうすぐ領都ですよ。ここからは失礼の内容に気をつけましょうね」




 先生が俺たちに声をかける。心なしか先生も緊張しているように見える。


 先生は領都の中等学院と高等学院に通っていたらしいと聞いたことがあるから、そんなに緊張するようなことないと思うんだけどな。




「へぇー。うちの学院とは全然違うねー」




 セルファが驚いたように声を上げる。


 確かに、セルファの言う通り。俺たちの学院は二階建てでたいして広くもないし普通の田舎の学院って感じ。それに対して、この学院は5階建て。敷地の広さも全然違うし、同じ学院だとは思えない。


 これで初等学院なんだよな?中等学院とかどうなってんだ……?いや王都の学院はこんなもんじゃないって話だし。すごいところだな……。




「フェルナの初等学院へようこそ。本日は交流会の申し出を引き受けてくれてありがとう」




 向こうの先生らしき男性がこちらにそう声をかける。




「いえ。こちらこそお招きありがとうございます。ダニエル先輩」




 ん?先輩?




「ああ、キャロリーゼ。久しぶりだね。今日はいい交流会になったらと思っているよ。よろしく」




 ああ、どうやら領都の学院の先生はキャロリーゼ先生の先輩らしい。それでかな?先生も緊張している様子だったのは。




「いえ。先輩の生徒さんに負けず劣らずうちの生徒がすごいところをお見せできればと思います」




 ん?なんか先生対抗意識燃やしてる?どういう関係なんだろう。この二人。




「ははは。お手柔らかに頼むよ」




 うーん。会話の端から見えるお互いに対抗意識ある感じ。なんか、別の緊張感がすごいな。




「それでは、まずは私の教室に案内しよう。生徒たちももう準備はできているからね」




 ダニエル先生がそう言ってクラスに案内してくれる。


 うちの学院は一学年一クラスだけど、さすがは領都の学院。実力ごとにクラス編成がされてるみたい。俺たちが行くのはその中でも特別クラスと呼ばれる精鋭だけがいるクラスだ。


 そりゃ、元々はアウレール様との話の流れで決まった交流会だからね。アウレール様のいるクラスと話すことになる。




「やあ、ヴォルクス殿。ようこそ、特別クラスへ」




 教室の扉を開くと待ち構えるようにアウレール様が立っていた。


 おいおい、そんな迎え方をされたせいでみんなが驚いてるじゃん……。




「早速だけど、今日は僕たちの授業に参加してもらいたいんだ。皆さんの実力を知るためにもその方がいいと思って」




 アウレール様が話を進める。後ろに控えている7人の生徒たちも同じようにうなずいている。


 実力、ね。俺がみんなのことを優秀だって言ったからどれだけのものか見たいってことだろう。




「今日の時間割はどうなっているんですか?」




 キャロリーゼ先生がダニエル先生に聞いている。




「今日は、特別編成で、すべての実習系授業を行うことになっています。最初に剣術。それから棒術、弓術、魔法術、従魔術・召喚術の順に授業を行います」




 ふーん。本当に俺たちの実力を見るための授業編成って感じだな。




「そこで、僕から提案なんですけどね。お互いの実力をよく知るためにも、ここは模擬戦の形式をとってみたらどうかと思うんです。ただ、お互いに演武を行うってだけでは芸がないでしょう?」




 アウレール様のこの間とは違う落ち着いた雰囲気に少し圧倒される。だけど、模擬戦か。確かに面白そうだけど……。




「え……?模擬戦?そんなことをやってお怪我をさせたら……」




 ミンクが驚いたようにつぶやく。




「大丈夫だよ。回復魔法を使える先生もいるし、模擬戦で少し手荒くなったところで誰も咎める気はない。だよね。みんな?」




 アウレール様が後ろを向いて自分のクラスメイトに聞くと全員そろってうなずく。




「いいじゃん。面白そうだよ。やろうぜ!」




 リックが嬉しそうにそう言う。こういうときはやっぱしリックみたいなタイプの方が思い切りがいいよな。


 最初は剣術みたいだし、リックに任せておけばみんな緊張も解けてそれなりに実力を出せるようになってくれるだろう。




 俺たちは毎日朝練で俺やミンクのゴーレムを使って練習してる。田舎の学生だと思って甘く見てると痛い目に合うってことを見せつけてほしいよな。




 話がまとまって、みんなで校庭に向かうことになった。


 全員で向かっている途中、アウレール様が俺に話しかけてくる。




「ヴォルクス殿。今日はありがとう」




「いえ。こちらこそ。お招きいただき光栄です」




「今日は、君がこちらに転入したくなるように僕たちの実力を見せつけるつもりだから、じっくりと見ていってね」




「アウレール様も自分のクラスメイトに誇りを持っているようですが、それは私も同じです。転入する必要がないということをお見せできればと思います」




 そう俺は笑顔で返す。




「楽しみにしています」




 そう言ってアウレール様が離れていくと、今度はアンリが話しかけてきた。




「ヴォルクス、今の話どういうこと?ヴォルクス、転入しちゃうの……?」




 今にも泣きだしそうな顔をしているアンリの顔を見て、焦ってしまう。




「い、いやいや。そうしようって決めたわけじゃなくってさ。そういう提案がされたってだけ」




「でも、ヴォルクスは転入するつもりってことでしょ?」




 既に目に涙がたまってきた。あーやめて。泣かないで。こんなところで。




「だ、大丈夫だよ。俺はそんなつもりないから。俺たちの仲間は優秀だってところを見せつけて、田舎の学院でも十分勉強できることを見せつけてやろうぜ!」




「う、うん。分かった。私も頑張るね」




 ふー。なんとか大丈夫みたいだ。


 けど、これで本当に今日の結果次第で転入させられてしまうかもしれない事態になっちゃったな……。


 いや。みんななら大丈夫だよな。きっと。


 しっかり実力を見せつけて、鼻を明かしてやる!

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