第12話

 さてさて、そんなこんなで、結構な時間が経過しましたよ。


 大体、一年ぐらい?かな。


 学校では俺たち5人、めでたく全員そろって進級。いや、まぁ留年とかないんだけどね。


 魔法陣鎧のほうも製作は順調に進んで、いい感じ。というか、ついに完成した。販売できる状態にこぎつけたんだ。




 マジで一日目にぶっ倒れた時にはこれからどうなるかと思ったけど、二日目からはまぁ倒れるってことはなくなったし、なんとかなった。


 それでも、30分以上召喚を維持できるようになるまでは一か月ぐらいかかったけどね。


 毎日毎日続けていくうちに慣れてくるだろうってばあちゃんが言ってたけど、本当だった。


 実際、維持できるの自体は30分でも、次の日から疲れは一日目ほどじゃなかったから。




 それから、魔力量もだいぶ増えた。そりゃ、毎日毎日学校ではいろいろ訓練して、その後帰ってからも一日中魔法使い続けてって生活を繰り返してきたからね。


 今は、


 とはいっても、俺の召喚での検査は始まって一か月後ぐらいがピークだったかな。


 工員の人たちも鎧の製作に慣れてきて、一日に作れる個数が増えてきたのがその頃だったんだけど、もうその時期には大体方針はわかってきていた。




 まず、わかったのは魔法陣の大きさとその効果は鎧の大きさには左右されないってこと。つまり、魔法陣が適切な大きさで魔石も同じように配置されていれば、鎧はどんなサイズだとしても関係なく魔法陣は効果を発揮する。


 これがわかったときはホッとしたよね。当然、騎士の中には当然背の高い人も低い人もいる。性別も関係ない。けど、鎧のサイズによって魔法陣の効果が大きく変わるんだとしたら、誰でも使用可能なものにならなくなってしまう。それじゃあ嫌だと思ってたからさ。




 それと、魔石を組み込む量も決まった。個数を増やせば、より効果は高まることはわかってたけど。結局、魔法陣の真ん中に一つってことなった。


 組み込んだ分だけ当然経費がかさむ。経費がかさむと、商品の値段を高くしなければならない。効果とのバランスを考えた場合、魔石一個分での金額が妥当だろうということになった。


 魔石は、一塊で仕入れると、中金貨3枚ぐらい。前世の日本円で換算するとだいたい30万円ってところだ。


 その一塊から、魔石が効果を発揮できるギリギリまで小さくした魔石は20個作り出せる。


 つまり、一個あたり1万5000円ほどの経費がかかることになる。


 当然、使う魔石を一つ増やすと経費は倍額になるわけで、そうすると、鎧自体の値段もそれだけ高くしなければいけない。


 俺は、この鎧は今ある鎧では対処が難しいような難所に挑むレベルの冒険者なら買えるぐらいの値段で売りたい。


 そうすると、中金貨1枚ぐらいで妥当だという話になった。それでも、そこそこの性能の鎧なら小金貨1枚(2万円ぐらい)で買えることを考えると十分高いんだけどね……。




 ああ、ちなみに、この国での普段の買い物に使うのは銅貨で、一つ大体100円ぐらい。


 銀貨には小銀貨と大銀貨があって、小銀貨が1000円ぐらいで、大銀貨が5000円ぐらい。


 金貨は、小金貨が2万円、中金貨が10万円、大金貨が80万円ぐらいになってる。




 そういうわけで、魔石は一個。うーん。俺のミキサーを使える人が増えれば魔石の経費の心配はいらなくなるんだけどなぁ……。




 学校のほうでは、みんな、勉強の調子もよくなってきている。


 この一年の間にそれぞれもともと適性があったものに対して更に実力を上げてきている。




 リックの剣術は、上の学年の先輩でも勝てない人がいるぐらいには成長している。俺たちじゃ全く通用しない。


 アンリは魔法術の練習は続けながらも、弓術のほうを伸ばしたいみたい連射性能と的あての技術は急上昇中だ。


 セルファも接近戦の訓練をずっと続けてる。リックもだけど、俺とミンクのゴーレムがだいぶ訓練には役立っているみたい。


 リンクは、魔力を上げるための訓練をずっと重ねていて、もう2000を越えるぐらいにはなったらしい。ああ、リックには複合魔法の練習もやってもらってる。だけど、なかなかうまくいかないみたい。やり方はなんとなく分かったらしいんだけど、まだ魔力量が足りないみたい。使おうとしただけで、意識がなくなりそうになるって言ってた。


 俺は、魔法陣術に関しての研究がなかなか進んでない。魔石が自由に使えなくなったっていうのはあるんだけど、それ以上に毎日の仕事が忙しくてそんな余裕がないっていうような状況だ。まぁ、鎧づくりも魔法陣術の研究には役立ちそうだからいいんだけどさ。




 と、まぁそんな感じで日に日に成長を実感しているところだけど、魔法陣鎧が大体完成したってことで、今日から商会への売り込みを始めることになった。


 普通にそういう仕事はばあちゃんとか、広報も担当してる母さんに任せようと思ってたんだけど、「私は自分が責任者として製作にかかわってないもんを売り込みなんてしないよ」とばあちゃんに言われちゃったから、俺がやらなきゃいけない。


 普通に子どもにそんなことやらせんなよって思うんだけど、この世界では初等学院に通うぐらいの年齢になったらもう働けるという認識みたいで、誰も止めようとしてくれない。




「今日は、貴族様向けの商品を卸してるようなところへの売り込みだからね。一つずつ紹介するなんて面倒なことやってられないから、一気に何組か呼んでるからしっかり説明しなよ」




 貴族向け商会への売り込み。この魔法陣鎧は値段からいってもまずは、冒険者よりも王宮や領地を守る騎士向けに販売して評判を高めたほうがいいのではないかという話になったことから、まずはそういった顧客のいる商会に卸そうという話になっていた。


 実際、貴族とはいっても、下級貴族だったり、後継になる予定がなかったりするものの中には冒険者になるものもいるということで、一回売ってしまえば評判はあとからついてくるはずだった。




 問題は、俺のこの世界で初めてのプレゼンがうまくいくかということだ。


 一応、家族や工員のみんなと質問されるであろう内容をまとめたり、実演のためのゴーレムの扱い方もレクチャーを受けたりと準備はしっかりしてきてはいる。ただ、不安を拭い去ることはできないよね……。




「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。坊ちゃん。そもそも、エリーゼ様の工房の商品ってことで信頼はばっちりなんだ。性能の良さは俺たちも保証するし、心配せずに行ってきな」




 ロックさんが、そう言ってくれる。ありがたい。いや、でもめちゃくちゃ緊張するよ。そりゃそうでしょ。今まで、学校とこの工房と村周辺ぐらいしか行ったことなかったのに、いきなり領都にいくつもの商会の担当者を集めてプレゼンなんてさ。




「私も一緒なんだから心配はいらないよ。いい商品があんたのせいで売れなくなったら困るからね。説明がうまくいかなそうだったらちゃんとフォローはする」




 それなら、最初から自分でやってくれよ、ばあちゃん……。




「ああ、もううるさいね。ほら、そろそろ馬車も来るよ、さっさと支度しな!」




「何も言ってないよ……ばあちゃん……」




「あんたの考えてることぐらいわかるっての。ほら、シャロン、ヴィンセント。あんたたちも行くよ!」




「お義母さんはせっかちなんだから…・・。ほら、ヴォルクス。行きましょう」




「はい……」




 あーー、吐きそう!






 それから、馬車に乗って領都に移動することになった。


 本来であれば、こういった商談は王都で行うべきものなんだろうけれど、うちの村から王都まではかなり距離があるのと、俺が学校から帰ってからじゃないと移動もできないってことから、大きい会場のある領都でプレゼンを行うことになっていた。




 うちの村の領主はアウグスト・カレンベルク伯爵。今日は当然、そこに卸している商会の人もやってくる。領主様に使っていただけるかどうかというのは、かなり重要だ。というのも、カレンベルク伯爵は、後を継ぐ前からばあちゃんの作る商品を気に入ってくれていて、うちの工房のお得意様の一人になっているらしい。


 20年ほど前、伯爵は高等学院に通っている学生だったらしく、その頃、学院で使用していたばあちゃんの魔道具に目をつけ、それを先代の伯爵に紹介。そこから、王宮などでも使われるようになり、ばあちゃんは賢者と呼ばれるようになったということだ。


 恩人みたいなもんだね。




「そろそろ領都に着くよ。ほら、外を見てごらん」




 馬車の乗り心地が悪く、全く落ち着けない時間を過ごしていたところで、ようやく到着したみたいだ。ホッとして外を見てみる。




「おー!」




 村での生活が長かったから、少し都会に来ただけでテンションが上がるな。


 実際、日本の街に比べるとたいしたことはないと思うけど、郊外の都市だったらこんな感じのところもあるし、『都会』感は出ているような気がする。




「今日は、領都の中でもだいぶ大きな会場で売り込みをやるからね。まぁ、いつも通りだったら来てくれたところはいくつか商品を購入してくれるけど、今日は私の名前で作った商品じゃないから懐疑的な連中もいるだろうけど、商品でそういった連中はしっかり黙らせてきな」




 ばあちゃんが激励の言葉を言ってくれる。


 いや、だいぶ気合いが入ってきたな。俺も、結構しっかり製作にかかわったし、そもそも俺の名前で登録してある商品なわけで、売れてくれたらめちゃくちゃ嬉しい。


 ばあちゃんのネームバリューのおかげっていう部分もあるだろうけど、俺の商品の説明を聞きにたくさんの人が集まってくれるっていうそれだけで嬉しいしね。




 そんなことを考えている間に、馬車は会場に到着した。




 確かに大きい会場だ。前世でもよくあった色んなサイズの会場が集まっているタイプの国際会議場みたいなところなんだろう。




「さて、ここからは俺たちにとっての戦場みたいなもんだ。空回りして討ち死になんてことがないようにな!」




 父さんはそんなことを言ってくる。




「あなたは、最後に緊張感高めてどうするの。ヴォルクス。初めてなんだから失敗を恐れないでね」




 母さんもありがたい。


 よし、プレゼン、頑張るぞ!!


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