第11話

 ゴーレムを使っての製品チェックを30分ほど続けていた。身体を動かしてないから、疲れるはずがないと思ってたんだけど、ずっとフルパワーで魔力使っている形になっているから、だんだん疲れてきてる。


 正直、このまま倍の時間も続けられるとは思えないんだよなぁ……。


 とか思ってたら、突然使っていたゴーレムが消えてしまった。1番大きいやつだ。


 魔力が切れてきて、維持できなくなったってことだろうな。


 それから、なんとか1分ぐらいは続けられたけど、徐々にゴーレムが……消えて……行く……。




「エリー……。坊ちゃん……ームが!」




 あー。ロックさんの声だ。


 あれ……?なんか、途切れ途切れにしか……聞こえないなぁ。おか……。




 そのまま、俺は気を失った。






 目を覚ましたときには、数時間が経過しているようだった。




「ん……?俺、どうしたんだっけ……?」




「あぁ、目覚めたかい。魔力切れで倒れちまったみたいだね」




 ばあちゃんが起きた俺にそう声をかける。まだ身体が重たい。あぁ、これが魔力切れってやつなのか……。話には聞いてたけど、今までそこまで使ったことなかったからなぁ。


 ばあちゃんは最初にあれぐらいの量なら1時間ぐらいで終わるって言ってなかったっけ……?半分ぐらいしか持たなかったのか。




「まだ慣れてないから、魔力の消費に無駄が多いんだろうねぇ。召喚術は今まで練習してたような魔法とは使い方が大分違うからね。ま、何回か続けていけば慣れて無駄がなくなるよ。きっと」




 ばあちゃんがそう言ってくれる。


 そうか、無駄が多いのか……。どうやれば無駄なく召喚ができるようになるか、繰り返し召喚することで見つけ出していくしか方法がないのかな……?


 明日、ミンクとも話して本も探してみるかな。




「さて。まだ、目覚めたばかりじゃ動けないと思うから、そこで晩飯の時間まで休んでていいからね。私は仕事に戻るからさ」




 ばあちゃんはそのまま自分の仕事をしに行く。


 何をするんだろうと思ったら、さっきのゴーレムの実験室のようにガラス張りの部屋に入っていった。




 そこには沢山の製品が置いてあるみたいだ。


 棒状の何かのように見える。


 魔力を込めると、伸び縮みする棒を製品として造っていた記憶がある。それかな?


 中で何人か作業してる人もいる。製品を作ってるのかな?




「さて。それじゃあそろそろ検品するから、みんな、出てってくれるかい!」




 ばあちゃんがそう言うと、作業をしていた工員が外へ出ていく。


 これから検品するらしい。


 あの量を……?ざっと見ただけで、凄まじい量だ。1000個ぐらいあるんじゃないか……?




「ヴォルクス、母さんのあの作業、初めて見るか?圧巻の光景だぞ」




 いつのまにか隣に立っていた父さんがそんなことを言ってくる。


 検品が圧巻……?どういうことだろう。




「さて、行くかね。『大規模検品!』」




 少し集中すると、ばあちゃんの身体から大量の魔力が吹き出してくる様子が見える。


 その大量の魔力が一つ一つの製品にまとわりついていくのが分かる。


 全ての製品をばあちゃんの魔力で包み込んでいるみたいだ。




「はぁ」




 数分そうしていてから、ばあちゃんがため息をつく。すると、魔力の放出が止まった。


 終わったのか?


 それから、すぐに、ばあちゃんが手を広げる。




「ピックアップ!」




 その言葉に答えるようにいくつかの製品がばあちゃんの手元に引き寄せられる。


 そのまま引き寄せられた製品がばあちゃんの隣に置いてある箱の中に入っていく。




「よし。今日はこんなところかね」




 箱の中に入っていったのは、全部で十数個ほどだろうか。


 それ以外のものは全て机の上に置いてあるままになってる。




「はい!みんな集合!」




 ばあちゃんがそう言うと、さっきまでその部屋の中で作業をしていた工員が全員部屋の中に入っていく。




「えーっと、12番、47番、85番、126番、248番、324番、325番、326番、568番、780番、793番、825番、848番。以上」




 突然謎の番号を叫んだかと思うと、ばあちゃんは工員に目を向ける。




「はい、2つ以上自分の担当の製品が呼ばれたもの、いる?」




 その言葉に1人の工員が手を上げる。




「ジェイドかい。最近、忙しかったからね。じゃあ、あんたは明日と明後日仕事は休みね。今日の不良品は13個ね。優秀優秀。じゃあ、ジェイド以外のみんなは明日もよろしく!」




「はい!お疲れ様でした!」




 工員たちの揃った声が響き渡る。




 ……。なんだったんだ……?




 圧巻というよりは圧倒されたな。とりあえず。




「ははは。初めて見たらそんな反応になるよなぁ」




 いやいや、父さん。笑ってないで説明してよ。




「最初のは全製品を一気に検品する魔法なんだよ。母さんのオリジナル魔法で、無属性らしいんだけど、魔力を空間上に広げることによって、それぞれの製品に込められてる魔力量とか製品の魔力バランスなんかを判定できるんだと。製品によって、それぞれ使われるものが少しずつ違うらしい。俺も使えるわけじゃないから、本人に聞いた話ではってことなんだけどな」




 ……。それ、どんな原理か分からないけど、俺の合成魔法なんかより全然すごい気がするんだけど……。さすがは賢者様って感じするな。




「次のは、最初の魔法で見つけた不良品をそのまま引き寄せたんだな。あれは空間魔法の応用だな。あれなら、ヴォルクスも練習すればきっとできるようになるよ」




 引き寄せ系の魔法は、確かに空間魔法で出来るみたいだけど、正確に一部の製品だけを狙って引き寄せるなんて出来るのかな……?


 あれだけの製品の中から、正確に不良品だけを引き寄せるって、まとめて引き寄せるよりも大変そうだけど……。




「適当な教え方するのはやめなよ。ヴィンセント」




 一通り仕事を終えた様子のばあちゃんがこっちにきた。




「え?適当じゃないだろ。そんなに間違えたことは話してないと思うんだけど?




「適当っていうのはそういうことじゃなくてね。もっと丁寧に教えないと意味がないってことだよ。検品の魔法はね、あれは魔力の抜けがないかを確認してるだけなんだよ。均等に魔力をかけてあげて、どこかで歪みが出ないかを確認してたんだ。だから、ああいう風に空間に広がるようにするのが一番確認がしやすいってだけさ」




「で、でも、あれだけの魔力を部屋いっぱいに広げるのは大変じゃないの……?」




「そんなもん、魔力が30000もあれば簡単だよ。それぐらいあるやつなら教えれば誰でも使えるようになるレベルだよ。ただ、あんな無駄に魔力を消費するだけの魔法なんて、私みたいな仕事をしてるのしか必要ないわけ。だから、私しか使えないってだけの話さ」




「30000って……」




「あんたも10000越えてるんだろ?30000なんて、王宮勤めの魔導師だったら大抵越えてるよ。そこそこ優秀なのはそれぐらいないと食っていけないからね」




 なんか当たり前のように言ってるけど、色々基準が先生に教わったのと違う気がする……。


 ただ、賢者様であるばあちゃんは、王宮への出入りも多いし、そもそも王都の学院出の人だ。そういう視点の方がばあちゃんにとっては常識なんだろう。




「え……?ちなみにばあちゃんは魔力量どれぐらいあるの……?」




「私かい?私は……最近測ってないけど、3年ぐらい前に測ったときは250000ぐらいだったかね」




「に、にじゅうごまん……!」




 桁違いなんてものじゃない数字が出てきた。




「まぁ、魔力には老化ってのがないからね。仕事でもずっと使い続ければこんなもんだよ。それに魔力なんてたくさんあったって魔法使ったときにちょっと疲れづらいぐらいで、何の役にも立ちやしないよ」




 ばあちゃんにとってはそうなんだろうけど。普通、そんな感じで言えるものじゃないんじゃないかな……。






「その後、番号を言ってたのは?」




 この際、聞きたいことは全部聞いておこうっと。




「あぁ、あれは不良品として回収したやつについてた番号だよ。一つ一つ、製品番号で管理してるからね。その日に不良品を2つ以上造った担当は次の日から2連休ってことにしてるんだ。どんなに優秀な人間でも、疲れがたまるとミスは多くなるからね」




 それが、この工房の働き方ってことか……。


 不良品を造ったとしてもお叱りを受けるわけじゃなく、もらえるのは休みっていうのはなかなかなホワイト企業ってことになるんじゃないか?


 俺が前世で働いてた会社でミスなんてしたら……。




「ところでヴォルクス。さっき、あんたが作業してた製品も確認してみたけど、いい数値が出てたね。終わったところまではよく出来てたと思う。あんな感じで続ければ問題ないと思うから、明日からもその調子でよろしくね」




 おっ!ばあちゃんのお墨付きをもらった!


 よっしゃー!


 実際、ゴーレムたちの魔力の変化とか、身体の変化とかが魔力の数値としてダイレクトに分かるから、それで色々と方法を変えながら試してたけど、あれでいいのか不安だったんだよな。




「よし!じゃあ、明日も製品はどんどん作るから、ヴォルクスもどんどん検査しないと仕事がたまっていっちまうぞ!」




 父さんが恐ろしいことを言ってる。


 え……?あれで全部じゃないの……?




「お前の検査の結果を受けて、色々微調整していかないと、意味がないじゃないか。当然、毎日検査するものは増えていくぞ」




「え……。じゃあ、明日も今日みたいに倒れちゃうじゃん……」




「いやいや。倒れるまでやらなくていいって。それに、大体どのぐらいで魔力切れになるか今日で分かっただろ?」




「そうそう。自分の魔力の限界も分かっておかないとね。どんな仕事に就くにせよ、大切なことだよ。一回魔力切れを体験しとくと、その前の予兆なんかも感じ取れるようになるから、明日からはきっと完全にぶっ倒れる前に止められるようになるよ」




 魔力切れギリギリまでやるのは決定事項なのか……。




「えーっと、一気に魔力量増やす方法ってないの?ばあちゃん……」




「いくつか、あるにはあるけどオススメはしないね。寿命縮める方法とか、1ヶ月間寝込んじまう方法なら今のあんたでも試せると思うけどね」




「それはやめとく……」




 さすがに、この年で寿命縮める方法なんて恐ろしくて絶対にごめんだ。もう一つは、1ヶ月寝込むって、仕事をする為に高めたいのに、そんなの本末転倒じゃないか!




「まぁ、魔力切れギリギリまで仕事をする日々を繰り返せば知らないうちに魔力量は上がっていくよ。無理しないで少しずつでいいからさ。そもそも、今回の魔法陣鎧はどこかに頼まれて造ってるわけじゃないから、いくらでも時間をかけて構わないしね」




 まぁ、それもそうか。


 って、マジでどのぐらい時間かかるんだろう……。




「うーん。今日の様子を見てると、下手したら一年ぐらいかかってようやく発売できる製品になるかもねぇ。ゆっくりやって行こうじゃないか」




 気が遠くなりそうだけど、なんとか持ちこたえた。そうだな。俺には時間がたっぷりあるし、ゆっくりゆっくり魔力も鍛えて、ゆっくりゆっくり仕事をして行こう!


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