第10話

 魔力量のチェック。


 先生は突然そう言って、妙な水晶玉を持ってきた。




「ヴォルクス君は見たことあると思うけど、これが魔力量をチェックできる魔道具、魔力球です」




 ん?俺は見たことあるって?


 いやいや、見たことないから。




「あれ?知らないの?これもエリーゼ様の作った魔道具なんだけど……」




 あー。ばあちゃんの作ったものなのか。だから、先生は俺が知ってると思ったんだ。




「いや、俺はばあちゃんの作ったものほとんど知りませんよ。ばあちゃん、魔道具は生活に必要なもの以外見せてもくれませんから」




「え……?そうなの?てっきり、エリーゼ様の魔道具であふれた生活をしているものとばかり思ってたんだけど……」




「ばあちゃんはそういうの嫌うんですよ。私は必要な人のために作ってるだけで、私が必要ってわけじゃない。だから、私自身が必要だと思うもの以外は私が作ったものでも使わないって言ってるような人なので」




 俺は苦笑する。


 賢者様としてのばあちゃんしか知らない人からするとそんな感じなんだろう。


 魔道具だらけで生活をして、便利に暮らしてるイメージ。




 実際は全然そんなんじゃない。




「私の魔道具は便利だけど、それを使いすぎると力が身につかないからね。生活に必要なものは使うけど、それ以外は自分の力でなんとかしなさい」




 そう俺が話せるようになったぐらいの頃からずっと言われてる。


 当然、そんな魔力量を測定する水晶玉なんていう生活に全く必要のないものは見たことも聞いたこともない。




「じゃあ、ヴォルクス君も使うのは初めてかな。じゃあ、今から先生が使ってみるから、見ていてください」




 そう言って先生は水晶玉に手をかざした。


 どうやら魔力を込めているようだ。


 数秒そうしていると、突然水晶玉が輝きだす。


 うわっ。まぶしいな。


 光がおさまったかと思うと、水晶玉の中に数字が浮かび上がっていた。


 5600と書いてある。




「はい。これが私の魔力量です。教師になるためには魔力量の検査もあって、これが5000を越えていないと合格できないんです。一般的に、王宮勤務の魔導師の方は20000以上が当たり前と言われてるけどね。本当にそこまで行くとエリート中のエリートだから」




 へぇ。


 教師になるのにそんな検査があるのか……。


 まぁ、そりゃそうか。遠足中に突然魔物が現れたらそれに対処しなきゃだもんな。




「はい。それじゃあ、ミンク君とヴォルクス君もやってみましょう。どっちからやる?」




「じゃあ、僕からでいい?」




 ミンクは、魔法の授業では積極的だよなぁ。




「いや、ヴォルクス君の後だと自分の少なさが恥ずかしくなると思って先にやっておきたいんだよね……」




 えー?俺ってそんなに多いのかなぁ。ミンクもそこそこあると思うけど。




 ミンクが水晶玉に手をかざすと、僅かに光ってすぐに消えた。


 さっきの先生のよりも小さかったし、光の量も魔力量に比例する感じなのかな?




 ミンクの魔力量は、1250と出た。




「おお!すごい!一般的に、3年生になるまでに1000あれば優秀と言われています。やっぱり、ミンク君は魔法の才能あるのね!」




 先生に褒められてミンクが恥ずかしそうな顔をしている。へぇ。3年生で持っていればいい魔力をもう持ってるのか。


 普通にすごいな。




 じゃあ、俺はっと。


 水晶玉に手をかざすと、さっきの先生のときよりも大きく輝きだす。


 おっ!これは期待できそうだな!




 数値は……なーんだ。1200か。そんなもんかぁ。




「え……そんなに……」




 ん?先生が驚いてる。どうしたんだろう。




「やっぱり、ヴォルクス君の後じゃなくてよかった……」




 ミンクまでそんなことを。そんなに変わらないじゃん。


 と思ってよく見てみると、12000と書いてある。


 ん?12000?




「エリーゼ様、どんな教育を……」




 先生が遠い目になってる。おーい!戻ってきてー!




 先生が戻ってくるまで数分かかったけど、そこからは質問攻めだった。


 何歳ぐらいから魔法の訓練をしているのかとか、普段どんな方法で魔法の訓練をしているのかとか、ばあちゃんからは何を教わってるのかとか。




「えーっと。少し喋れるようになったらすぐ魔法使ってみてました。普段は、別に特別なことはしてないと思いますよ。ただ、基本的に魔法を使うことを意識して生活してるだけです。ばあちゃんからは何も教わってません。父さんとか母さんは少し教えてくれたけど、ばあちゃんから教わったこととか覚えてないなぁ」




 俺の返答に不満だったのか、納得できない顔をする先生。


 いや、だって本当に普通の生活しかしてないし、ばあちゃんは何も教えてくれないんだよ。


 もうちょっとばあちゃんが色々教えてくれれば、今ごろ空間魔法ぐらい使えるようになってるはずなのになぁ……。




 あ、俺も遠い目になっちゃった。




「ま、まぁとりあえず、ミンク君はこれからも魔力を高める努力をしていきましょう。ヴォルクス君は……ちょっとカリキュラムは後で考えます……」




 魔力量を知って、普通の授業が通用しないって判断されてしまったみたい。いやいや。




「誰かに教わって使えるようになったわけじゃなくて、ただ魔力量が多いってだけなんで普通のカリキュラムで大丈夫です!基礎がわかってないのはよくないと思うし」




 そうそう。基礎を疎かにして応用ばっかり取り組んでも、成長はできないよ。俺は、魔力量だけにものを言わせる魔導師になりたいんじゃないんだ。


 正しい理論をしっかりと理解して、その上でマスターしていきたいんだ!




「偉い!偉いぞ!ヴォルクス君!私はヴォルクス君の想いに応えます!一緒に頑張ろうね!」




 先生、激しい人だよな……。








 いやー、今日の学校は充実してた。


 新しいことを教わるってのは面白いね!




 そんな充実した学校の後に待っているのは、仕事だ。


 仕事なんて言葉を転生してまだ数年しか経ってない今使うことになるなんて思ってもみなかったよ……。




 仕事とは言っても、俺がやることは出来上がった製品がちゃんと実用に耐えうるものになっているかをチェックするだけだ。


 だから、楽勝楽勝!っと思ってたんだけどなぁ……。




「え……?今日でもうこんなにできたの……?」




 家に帰って、俺の作業場を見た瞬間飛び込んできた光景に俺は唖然とした。


 並べられている凄まじい数の鎧、鎧、また鎧……。




「そうか?当然他の作業をしながら作ってるから、一日で作った数にしては少ないほうだと思うが」




 父さんは当たり前のようにそんなこと言ってるけど、サイズ違いで50個ぐらいあるじゃん。一日でこんなに作れると思わなかったよ……。




 鎧のサイズを見てみると、全部で5種類ぐらいあるようだ。その5種類の鎧に、大きさの違う魔法陣が刻まれており、そこにそれぞれ数の違う魔石がはめ込まれている。




「魔法陣を大きくすれば、魔石の組み込める個数が増える。ただ、魔石を組み込みすぎると硬くなりすぎるんじゃないかと思ってな。硬くなりすぎると、その衝撃も体に伝わりやすくなるとも思えるし……。昨日の実験、確かに剣は砕けたがその衝撃は結構俺にも伝わってきていたからな」




 父さんが技術者の顔になっている。そうか……硬くすればいいってもんでもないのか。この世界の鎧は、動きやすさが重視されているタイプ。前世の感じで言うと、西洋の鎧騎士の甲冑よりも日本の鎧武者のイメージに近い形だ。基本的にあまり体に衝撃が伝わらないように体に密着はさせていないみたいだし、普通のものであればそれほど衝撃は考えなくてもいいけど、今回はそういうわけじゃないみたいだな……。




「さてさて。早速作業を始めてもらうよ。ここに並べてある鎧がそれぞれどの程度の衝撃を抑えることができて、それを抑えた時の着用者はどうなるのかを細かく記録していくからね。それがあんたの仕事なんだから頑張りなさいよ」




 ばあちゃんの指示の声が飛ぶ。




「え……?これ、全部調べるの……?俺が着れないサイズのもあるんだけど……」




 長身の騎士用の鎧とか、俺の体じゃ絶対に着れない。そんなもの、どうやって性能チェックするっていうんだ?




「え?あんた、昨日ゴーレムを召喚できるようになったって言ってたじゃない。全部、ゴーレムにやらせるんだよ」




 当たり前のようにばあちゃんが言ってくるけど、え?ゴーレム?




「あんた、魔力量は……そういえば調べたことなかったね。おい、魔力球持ってきな」




「あ、大丈夫。今日、学校で調べたから」




「ん?ああそうかい。で?どのぐらいだった?」




「えーっと、12000だった」




「なるほどね。まあまあじゃないか。じゃあ、大丈夫。限界ギリギリまでやれば、このぐらいの量は1時間ぐらいで終わるよ。やり方説明するから、こっち来な」




 ばあちゃんはそう言って、別の部屋に俺を連れていく。えー。先生は驚いてたのに、ばあちゃんの反応そんなもん?




 実験は、ゴーレム専用の実験室で行うようだ。


 その部屋の中にゴーレムをいれると、ゴーレムの魔力量や衝撃に対しての反応なんかを数値化してチェックできるみたい。


 なんか、ここだけファンタジーって感じじゃなくてSFみたいだ。この部屋の装置もばあちゃんが作ったものらしい。




「ゴーレムは実験にはちょうどいいのさ。自分の召喚でいつでも呼び出すことができて、消すのも自由。魔獣やら動物やらを使う場合は食費とか場所の確保とか考えなきゃいけないけど、そんなのも必要ないしね」




 なるほど。確かに、ゴーレムは餌がいらないから、その点はだいぶ楽だよな。ただ、俺がめちゃくちゃ疲れるだろうから、今日はたくさん食わせてもらわないと。




「12000あれば、人型のサイズなら同時に8体ぐらいは召喚できるはずだね。それをペアにして攻撃役と防御役に分けて実験をしていくような感じで行こう。この部屋の中で行動させれば、細かい数値は全部記録されていくから問題なし。あんたは、ただそこで召喚したゴーレムを操るだけの簡単な仕事だね」




 ばあちゃんは笑ってそう言うけど、簡単って言ったって、8体も召喚したらめちゃくちゃ魔力使うじゃん。しかも、それぞれにいろいろ行動させなきゃいけないって、ずっと魔力削られっぱなしだから、めちゃくちゃきついんじゃ……。




「まぁ、今日は初日だし、あんたが一回魔力切れになったら終わりにするからね。全部終わるまで持てばいいけど……まぁ無理だろうからね」




 ばあちゃんが恐ろしいことを言う。初日だから一回魔力切れになったら終わりにするって、明日以降はどうなるのさ……。




「大丈夫大丈夫。一日やれば慣れるだろうし、ずっと続けてれば魔力量もさらに増えていって、日に日に楽な作業になっていくから。それじゃ、頑張んな」




 なにが大丈夫なのかさっぱりわからないが、ばあちゃんはそう言って自分の作業に戻っていく。




 ……はぁ。頑張ろう……。

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