第9話

 はぁ……。昨日は疲れた。


 あれから、工房で働く人たちにも魔法陣鎧について説明をして、鎧を作るための素材の確認をして、いくつか試作品を作ることになったのはわかる。


 魔法陣のサイズや魔石の数によって微妙に性能が変わってしまうから、これから、何十というパターンを一つ一つ作って色々と確かめていくことになるというのもわかる。


 分からないのは、その製造班に俺も回されてしまったことだよ!




 しばらくは、魔法陣の研究どころではなさそうな雰囲気なんだよなぁ……。


 ……いや、この鎧を作る作業も魔法陣の研究の一部といえば一部なのか……?


 そう考えことにして、それは我慢だ。




 それよりも面倒なのは、開発者としての権利証の書き方やら手続きの仕方やらを細かく教わるハメになったことでさ。


 なんか、ばあちゃんが今回の魔法陣鎧は俺に開発責任者を務めさせるつもりみたいなんだよね。


 なんで、転生してまで面倒な書類書いたりしなきゃならないんだよ!




「これはあんたが考えてからあんたが作り出した製品だ。あんた自身が最初から最後まで責任持って耐久性やら何やら確認しなさい。そうでなかったら私はこれを販売なんてしないからね」




 とか言われてしまったら責任者にならざるを得ないじゃないか!


 今回の製品は素材の問題だけじゃなくて魔法陣や魔石の問題もあるから、サイズ違いに関しても相当細かくチェックしないと販売できない。


 だから、ばあちゃんの見立てでは、俺の手から離れて量産するようになるまでは軽く半年以上はかかるってさ。


 俺には学校もあるから昼間はがっつり働くわけにはいかないからね……。




 まぁ、というわけで、しばらくは朝昼学校行って、帰ったら夜まで作業って感じのスケジュールになりそう。


 なんか、前世の大学時代を思い出すな……。


 朝から講義受けて、夜からバイトで……まさか、同じ生活を異世界ですることになるなんて思っても見なかったよ!




 ま、まぁ学校は学校だ。


 今日も朝練に励むとしよう。ミンクに、2つの魔法を同時に使えないか聞きたいしね……。




「ヴォルクス!お前昨日何したんだよ!父ちゃんが帰ってきたら『坊ちゃんは偉い』とか『坊ちゃんはすごい』とか連発して、最後には『お前も見習え』とか言われてめちゃくちゃ面倒くさかったんだけど!」




 あ、あぁ……。学校でも昨日の余波が出てる……。リックごめんよ……。




 謝罪ついでに、リック用にゴーレムを召喚してあげることにした。


 サイズはリックの背丈に合わせた感じ。ゴーレムは防御力も高そうだし、リックの打ち込み相手にはちょうどいいだろう。




 それを見て、セルファがズルいズルい連発するから、セルファにはミンクが召喚してあげてた。


 ちょっとサイズが小さいけど、ミンクの訓練にもなるし、まぁいいだろう。




 召喚してるだけで少しずつ魔力が消費されていく感覚があるから、俺とミンクはとりあえず魔法の特訓は少し休んでる。


 俺は、召喚しながらでも全然魔法使えると思うけど、ミンクは辛そう。


 これは、魔法を同時に使うとか使わないとかいう話ではなくて、魔力の容量の問題だと思う。たぶん。




「ミンク、ちょっと聞きたいことあるんだけどさ」




「ん?な、なに?」




「いや、ミンクってさ、2つの魔法を同時に使うことできないかなって思って」




 俺の言葉の意味が全く理解できていないようで、すげぇ不思議そうな顔をしている。そんなに変なこと言ってるかな……?




「俺さ、風魔法と土魔法を同時に使って物を削る魔法を使ったりしてるんだけどね。ばあちゃんとかに言ったら、そんなんおかしいって言われたんだよ。本当におかしいのかって疑問に思ってさ」




「風魔法と土魔法を同時に……」




 ミンクの疑問が解消された感じが全くない。


 俺の説明が下手すぎるせいなのは分かってる。


 実際に使って見せるしかないか……。




「ちょっと見てて」




 ちょっと大きめの石は……あぁ、これでいいや。




「ミキサー!」




 俺がそう言うと、石が削り取られて形を変えていく。


 綺麗な円形になったところで、魔法を止める。




「……。ん?え?これって普通に土魔法で形を変えたってわけじゃないんだよね……?」




 あぁ、そっか。ただの石だったら単純に土魔法でも削り取れるよな。


 普段は魔石だからそれが出来ないだけで。


 分かりづらいことしちゃったな……。




 じゃあ、これかな?




「クーラー!」




 今度は、氷魔法と風魔法を組み合わせた冷風をミンクに当ててみる。




「うわっ!寒い!」




 うん。これなら、ただの風魔法との違いが分かるかな?




「分かったから、魔法止めて、ヴォルクス君……」




 歯をガタガタ言わせて寒そうにするミンク。




「あ、ゴメンゴメン」




 すぐに魔法を止めると、理解したようにうなずいてくれる。




「意味は分かったけど、そんなの考えたこともなかったよ……。そもそも、エリーゼ様も出来ないんだよね……?僕なんかが出来るわけ……」




「いやいや。ばあちゃんができなくても俺はできてるわけだし、ミンクもきっとできると思うんだよ。練習しようぜ」




 そう言ってミンクを誘う。


 俺だけができるなんて、そんなことありえないと思うんだよな。実際。




「なになに?2人でなんの話?」




 アンリがそう言って近づいてくる。ミンクのゴーレムを抱きかかえたセルファも一緒だ。


 リックはまだゴーレムと特訓してるみたいだけど、2人は自分たちの練習が落ち着いたみたい。




「ヴォルクス君がすごいんだよ」




「そんなの知ってるよ!」




 ミンクの言葉にアンリが答える。


 いやいや。そんなことないから……。


 ミンクの雑な説明では分かってもらえないと思ったから、2人にも話してみる。


 2人とも、そんなこと考えたことないらしい。




 うーん……。この世界の人では無理なのかな……。


 いや、諦めるのはまだ早いだろう!


 そもそも、俺もしばらく魔剣作りとか魔法陣術研究とかに時間は使えないだろうし、魔法陣鎧が完成して、魔石に余裕が出来次第研究が再開できるように、みんなに練習してもらって……。




「絶対みんなも出来るようになるから、これも練習していこうよ。な!」




「僕は、しっかり魔法を使いこなせるようになりたいから、もちろんやるよ」




 ミンクが力強い言葉を出してくれる。


 本当にミンクは魔法のことになると積極的だよな。ありがたい。




「わ、私も頑張る!ヴォルクスができるからって私ができるとは思えないけど……」




 アンリもありがたい!アンリもミンクも、俺はいい友達を持った!




「うーん。私はパス。そもそも、魔法使いとして頑張ろうと思ってないし……」




 まぁ、セルファはそうだよな。それは、しょうがない。




「で、でも魔力を上げるのも大事だから、セルファちゃんはゴーレムともっと戦ってほしい」




 ミンクがそう言って、セルファのできる範囲での協力を取り付ける。


 うんうん。また、みんなでできることが広がっていくな。




「なになに?なんの話?俺も混ぜてくれよ!」




 あ、リックを忘れてた。まぁ、でもリックもセルファと一緒で魔法できるようにするつもりなさそうだしなぁ……。


 一応、説明はしたものの、実際、リックは全く理解出来てない顔をしてた。




「うーん。よくわかんねぇから、俺はこのゴーレムと一緒に特訓してるよ。ミンク!ヴォルクスばっかすげぇってことにされないように頑張れよ!」




「う、うん……」




 リック、俺ばっかって……。昨日、ロックさんはどれだけしつこくリックに話したんだろう……。帰ったら聞いてみなきゃな……。




 家帰ったら、面倒くさいことが待ってると思うと、今のこの時間が大切なのがよく分かるな。


 ずっと、こうやって友達と遊んでたい……けど、仕事が待ってるから、そういうわけにはいかないんだよな……。


 いや、そもそも、まだ朝練の時間で学校の授業はこれからだしね!








 その日の魔法の授業が始まった。最近では普通の魔法の授業のときには、俺とミンクは他の3人とは実力があまりにもかけ離れているということで、俺たちだけ別メニューでやることになっていた。


 いや、俺は入学する前から自主的に魔法使ってたわけだけど、ミンクは学校入ってから始めたのに、そのペースって本当にすごいよなぁ……。


 あ、そういえば、そろそろ聞いてもいいんじゃないかな。




「先生!そろそろ空間魔法教えてくれませんか?」




「あぁ、ヴォルクス君、まだ空間魔法は使えないんだっけ。けど、ごめんなさい。空間魔法はとても危険な魔法だから教えるのは3年生以降、魔法術を選択した子だけって決まってるの……」




 危険な魔法……?どういうことだろう。




「空間魔法は中途半端な状態で使っちゃうと、自分の作り出した空間に取り込まれてしまったり、思いもよらないところに移動してしまったりして、突然失踪する……なんていう事故が一時期多発してね。それは、ヴォルクス君みたいに才能のある子どもに空間魔法を教えた教師が何人かいたのが原因で……。そのことが判明して以来、ちゃんと魔法の理論が身についている人にしか教えてはいけないって規則ができたの」




 へぇ。それは怖いな……。


 俺は、大丈夫だとは思うんだけど、普通の子どもには教えられないか、そりゃ。


 ミンクは……。




「ぼ、僕、空間魔法覚えるのやめておこうかな……」




 完全に怯えちゃってるじゃないか。




「あ、ミンク君はちゃんと他の魔法で練習を積んで、しっかり理解できるようになったら大丈夫だから。空間魔法を使えるかどうかで、就ける仕事も全然違うの。だから、ミンク君ぐらいの魔法の力がある子が覚えないのはもったいないよ」




 先生が焦って付け加える。


 ミンクぐらい魔法が得意なのに空間魔法は怖いから覚えてませんとか言うのはきっと、仕事に就くときにまずいんだろうなぁ……。




「そ、それなら……。でも、ちゃんと順番通りに一つ一つやって危険がないようにしたいな……」




「そうね。ヴォルクス君もそういうわけだから、我慢してもらってもいい?」




 まぁ、そういう規則があるっていうならしょうがないよな。


 俺は、前世でも真面目に生きてきたからさ!規則って言葉にはどうしても弱い。




「分かりました。じゃあ、今日もいつも通り、色んな魔法を使ってみる形ですか……?」




「じゃあ、そうね……。ヴォルクス君とミンク君は基礎的な魔法なら一通りマスターしたし、そろそろ2人の今の魔力量のチェックでもしてみましょうか?」




 え?魔力量のチェックって言った?


 そんなことできるんだ……。


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