第8話

 さて。家に帰ってからはほぼ毎日続けてる魔法陣の研究だ。


 とは言っても、なかなか進行しない。


 新しい特化陣を発見して、それを役立てようかと思ってもいたんだけど、全然見つからない。


 何か、きっかけがつかめればいいとは思うんだけどなぁ……。


 けど、考えてみたら、そりゃそうだよな。魔法弱者の魔術とかバカにされてるかもしれないけど、ちゃんと研究してる人自体はいたわけなんだから、魔法陣術を知ってから半年ぐらいでその人が見つけられてないことをいきなり見つけられるようになったら天才すぎるからなぁ。


 いや、俺自身は自分のこと天才だと思ってるけど、天才にも限界はある。




 ただ、最近は魔石の在庫が増えてきているみたいで、今日からは魔石インクに関しての研究も許可してもらえたから、それを使ってもっと細かく調べていこうと思ってる。




 初めてやったときに大変なことになったのは、魔法陣全てを魔石インクで書いたからであって、量を調整すればいいんじゃないかと思ってる。


 結果がどうなるかは怖いから実験は外でやるけどね。




 とりあえず、外に出て、紙と魔法陣型と普通のインクと魔石インクを準備。


 まずは、型に普通のインクと魔石インクを半分ずつつけて紙に押してみる。


 この、半分ずつつける作業は、ハケでインクを取って、それで塗ってみることにする。


 魔法でばーっとやっちゃってもいいんだけど、魔石と魔法が反応して事故でも起きたら大変だからね。


 今度、また事故なんて起こした日には、完全に研究を禁止される可能性だってある。


 前回と同じ氷魔法だと違いがわかりやすいからそうするかなぁ。




 とりあえず氷魔法を込めると、氷柱が出来上がる。


 今回もでかい氷柱になったけど、心の準備ができてたからそんなに驚きはしないな。まぁ、こんなもんかって感じ。


 2メートルぐらいかな?まぁ、このぐらいだったら予想していた通りだしな。




 それから、魔法陣の大きさを変えたり、魔石インクの量を変えたりしながら色々と試した結果、分かったのは、魔法陣の大きさを大きくした場合、範囲は広がる代わりに氷柱の高さは低くなること。そして、魔石インクの量を変えてもわずかに高さは変わるけど、それよりも魔石インクを塗る場所を変えた方が高さの変化は大きいってこと。




 やっぱり、魔石の量というよりも、魔石のある範囲に影響を受けるみたい。


 魔法陣の大きさを広げたときには、同じ威力を保つためには、結果的に広い面積に魔石を使わなきゃいけなくなるから、なかなか広い範囲では威力を強くできないみたいだ。




 これだと、魔法陣の大きさを小さくすれば、魔石の量を減らしても効力が保てることになるから、魔法陣のサイズ調整さえ上手くいけば、そんなに使わなくても済むかもなぁ。




 さて、次はどうしよっかなぁ……。




「うぉっ!!」




 魔法陣型をいじりながら考えていると、突然手から真っ直ぐに5メートルぐらいの氷の棒が出てきた!


 思わず手を離してしまう。


 な、なんだ……。




 あ、あぁ……。魔法陣型を手に持ったまま魔力を込めちゃったのか。


 ん……?


 ってことは、魔法陣は紙にインクで書いていなかったとしても、反応はするってことか!




 いや、考えてみたらそりゃそうか。地面に書いても作動するんだから、紙に書かなくても発動するよな。


 新発見だ!って思ったけど、意外とそんなことない普通のことなのかもしれない。




 ん?でも、これは……。


 いや、そうだな。魔法陣のサイズを調整して、しっかり刻み込めれば……。


 これは実験してばあちゃんに報告しなきゃかもしれないな……。俺って天才かもしれん。








 というわけで、少し思いついたことについて実験をしてみたら見事に成功した。




「父さん!母さん!ばあちゃん!ちょっと来て!」




 俺は急いで工房の方に行って3人を呼びに行く。


 他の工房で働いてる人がこっちを見てくる。




「あ……。ごめんなさい。仕事中だよね……」




「いや、大丈夫大丈夫。お前たち、私たちは少し抜けるけど、大丈夫だね?」




「大丈夫です!坊ちゃんと話してきてください!」




 リックのお父さんのロックさんがそう言ってくれる。




「ありがとうロックさん!」




「いいってことよ。坊ちゃん。リックとも仲良くしてくれてるしな!」




 ロックさんには感謝だな。お礼に明日はリックの修行用にゴーレムを召喚してあげることにしよう。




 さて。3人が来てくれることになったから、しっかり準備だ!




「今日は魔石インクを使って実験してたんじゃないのかい?なんで、剣を持ってるんだい?」




 そう。俺は手に剣を持っている。


 なんの変哲もない剣に見える。と思う。


 実際は普通の剣なんかじゃないんだけどね!




「まぁ、見ててよ。いい?」




 そう言って、魔力を込める。すると、剣の切っ先から炎が上がった。それほど大きいわけではない。けれど、しっかりと炎の形になっている。




「え!?なに?魔剣……?」




 母さんが驚いてる。


 父さんもばあちゃんも声が出ないで目が点になってる。




 ははは。大成功だ!!




「これはね、剣の切っ先に魔法陣の形を掘って、そこに削った魔石を取り付けた、簡易魔剣なんだ!!」




 そう言って、俺は剣の先っぽを3人に見せる。


 そこには、俺が魔法のミキサーで少し削って作った魔法陣の真ん中に、これも魔法のミキサーで細かく砕いた魔石を取り付けてある。




 魔法陣が紙に書かなくても、刻んであるものだとしても魔力を込めれば発動するものだとわかって、簡単に炎とか氷を出せる魔剣が作れるんじゃないかと思って、作ってみた。




 実際の魔剣は本でしか見たことないから分からんけど、まぁ、ほとんどの人がそうだろうし、これが魔剣だと言っても差し支えないだろう。




 結果は今見た通り。


 火の特化陣を刻んだ剣だったら、火の魔剣になる。


 で、更に気づいたのが鎧に物質硬化の陣を刻みこむと、魔力を込めるだけで素晴らしく硬い鎧が出来上がるってこと。


 装備品の革命ですよ。これは!




「う、うーん……。すごいね、これは……」




 ばあちゃんが絞り出すような声でそう漏らす。




「ね?すごいでしょ!ばあちゃんの工房の新製品になる、簡易魔剣だよ!」




 俺が自信満々に言うと、ばあちゃんは少し考えているみたいだ。ん?なにを考えてるんだろう?


 そう思っているとばあちゃんは言いづらそうに口を開く。




「いやいや、そうはいかないよ……。これは細かく砕いた魔石が必要だろ?その魔石はあんたしか作れないわけで、結局、あんたしか作れないよ。それじゃ量産はできないから商品には……」




 あ……。そういやそうだった。


 うーん……。めちゃくちゃいい装備ができたと思ったんだけど、また、俺専用か……。




 いや、俺は嬉しいんだよ。


 俺自身はどんどん強くなってるわけで。ただ、それが世界中に広まった方がもっと楽しいんだけどなぁ。


 やっぱし、ミンクに聞いて合成魔法使えるようにならないか確かめる必要あるよなぁ。ミンクが使えるんだったら、誰でも頑張ればできるようになると思うし……。




「待って。お義母さん。鎧の方は全面に魔法陣を刻んで、魔石を埋め込めばなんとかなりそうじゃないですか?試作品作ってみてもいいんじゃないですかね……?」




 母さんが助け舟を出してくれる。


 そっか。剣の方は魔法陣を大きくするのが難しいから、俺じゃないと埋め込める魔石作れないけど、鎧だったらサイズを気にせず作れるか!


 その母さんの言葉に、ばあちゃんは少し考えてからうなずく。




「なるほどね。そうとなったら善は急げだ。ヴィンセント、シャロン。手伝ってくれる?」




「わかりました。鎧に魔法陣の形を刻むのは私がやるから、魔石の整形はあなたに任せていい?」




「おう!任せとけ!」




 そんな感じで話が決まってからは早かった。


 さすが父さんも母さんもプロだ。母さんはきっちり魔法陣を刻み込むし、父さんもその魔法陣の大きさや形が既に分かっているかのように魔石の形を作り上げていく。




 一つ作ってみて、そのサイズ感を確かめて、少しずつ手直しを加えた結果、すぐに魔法陣鎧は完成した。




「さて。どうやって実験しようかね……」




 これは、魔力を込めないと普通の鉄鎧でしかないから、誰かが着てみないことには実験にはならない。




「俺が着てみるよ。魔法を込めれば硬くなるんだろ?剣での攻撃はヴォルクス、お前がやってみるか?あぁ、その炎の出る魔剣は使わないでくれよ。一応の耐久性チェックなんだから」




 父さんがそう言って、出来上がったばかりの鎧を着こむ。何回か自分で鎧を叩いてる。魔力の込め具合を確かめてるのかな?




「よし!いいぞ!来い!」




 父さんがそう言うのとほぼ同時に俺は父さんの身体に向かって剣を打ち出す。




「うわっ!」




 鎧に剣が当たった瞬間、その鎧の固さに剣の方が耐えきれなかったのか、そのまま剣が折れてしまった。




「こんなに硬くなるのか……。これが量産できるとなると、凄まじく売れるぞ……。実際、これを打ち破れる剣なんてそうはないだろうし……」




 父さんが驚いてそう呟いてるのが聞こえる。


 よしよし。俺の研究の成果が出てる。


 これで、うちの工房が更に儲かる。更に儲かることで、魔石が更に仕入れられるようになる。魔石にあまりが出てくる。俺が魔法陣の研究を更に進められる。


 よし!これだ!




「ヴォルクス。この鎧を作るのに大量の魔石が必要になるだろうから、あんたの魔法陣の研究に使える魔石の量は減らさないといけないねぇ……」




 ばあちゃんが衝撃的な言葉を……。


 なんてこった!自分で作った製品が良すぎて、魔石が使えなくなる?最悪だ……。




「ま、まぁ、俺の鎧のおかげで人が魔物に殺されなくなることの方が、た、大切だからさ。うん。しょうがないよ。うん」




 くっ……。苦しい。


 いや、わかった。しょうがない。とりあえずしばらくは、我慢するしかなさそうだ……。




 自分の発明が自分の首を締めることになるなんて……。


 いやー、天才は辛いな。


 ははは……。乾いた笑いしか出てこない……。

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