第7話
「ぼ、僕も、ヴォルクス君にお願いしようと思ってたところだったんだ」
ミンクに一緒に図書室に行って召喚術について調べようと話しかけると、そう言ってくれた。
声をかけたのは正解だったね。よかった。
「じゃあ、行こうぜ」
「待って。私も連れてって」
ミンクと一緒に図書室に向かおうとすると、アンリがそう声をかけてきた。
ん?召喚術について調べるつもりなんだけどなぁ……。
「アンリには従魔術があるだろ?これから行くのは召喚術を調べるためだよ?」
「それはそうだろうけど……。ほら、召喚術も従魔術もどっちも魔物に関わるわけだし、召喚術も知っておいた方が従魔術の理解にもつながるかもしれないし……」
アンリは真面目で偉いな。そんなこと考えもしなかった。俺は単純に魔法陣に興味があるだけだからなぁ。
アンリのことは見習わないとな!
図書室に向かった俺たち3人は、とりあえず、召喚術関連の本を探し始める。
魔法陣術関連の本に、全く召喚術のことについて触れているものがなかったことが気になってたんだけど、召喚術は魔石を使わないってことで、魔法陣術の研究の対象に入ってないらしい。
うーん……。実際、その辺はどうなんだろう?完全に別物なのか。それとも、魔法陣を使うってことで同じものとして考えた方がいいのか。俺はこの世界の常識がまだそんなに分かってないからなぁ……。
「ミンクは、よさそうな魔物見つかった?」
アンリが、みんなじっと本を読んでるだけだったのを気にしてか、ミンクに話しかけてる。
「うーんと、やっぱり、僕は近くで魔物と戦うっていうのは出来ないからさ。近くで戦ってくれるのがいいなと思うんだよね。だとすると、これかなって」
ミンクは、ゴーレムと書かれたページを開いて俺とアンリに見せてくれる。
ゴーレムか!土人形みたいなもんだから、魔獣ではないよな。そりゃ。
ただ、ゴーレムってめちゃくちゃ強いイメージあるんだけど、初心者が使えるレベルなのか……?
「これね、魔力量によって出来る強さとか大きさが変わるんだって。土魔法との相性がよければ使えるみたいだし、僕はゴーレムを扱えるように練習しようかな……」
「なるほど。じゃあ、どんどんミンクが強くなればゴーレムの強さも上がっていくってことか!面白そうじゃん!」
召喚される魔物の実力も術者の実力次第ってのは、成長も分かるし、楽しくなるな!
うん。近接戦闘用っていう選択もいいと思うし。
「なるほどー。野生のゴーレムっていうのもいるのかな?」
アンリも、興味をもったみたい。
「う、うん。それもここに書いてあるんだけどさ、ちょっと2人とも読んでみてもらっていい?」
ん?なんだなんだ?どういうことだろう?
えーっと、なになに。
野生のゴーレムも存在しているが、そのゴーレムには従魔術が使えないことが明らかとなっている。これは、召喚術によって生み出された魔物の特徴であり、すべてのゴーレムはどこかの魔術師により召喚されたものとする考え方が一般的である。
召喚術を使用した魔術師が死亡した場合、本来であれば召喚された魔獣は消滅するが、なんらかの原因で消滅しなかったものが野生のゴーレムとなったと考えられる。
「へぇ。野生のゴーレムは召喚主が亡くなっても残ったものなんだ……恐ろしい話だな……」
「私はなんか悲しい気がするな。自分を作ってくれた人がいなくなっても行動し続けて魔物化してしまったゴーレム。なんか可哀想……」
アンリの言葉に、なんとなく暗くなってしまう。
その雰囲気に、俺たちは話しづらい感じになってしまったけれど、その雰囲気を打ち破ったのは、ミンクだった。
「あ、あのね。それなんだけどさ、もし、魔法陣を書いたままほっといたらどうなるのかなって思って」
「え?でも、召喚術は人が魔力を使ってイメージしないと使えないんじゃないの?」
「そ、そっか……2人とも使ってないから……。僕が使った感じだと、ちょっと違ったんだ。魔法陣の上に乗ったら自動的に頭の中に召喚できる魔物が浮かんできた感じで……。うまく言えないんだけどさ……」
うーん……分からん。
いや、別にあれか。実際に今から試してみればいいのか。
「よし!じゃあ、実際に今からやってみるか!」
そう言って、俺は2人を外に誘ってみた。
「あ!私も言おうと思ってたのに!」
アンリが頬を膨らませる。
俺が手柄を取ったみたいになっちゃって申し訳ないけど、どっちが先に言ってもいいじゃん。そんなの。
「アンリも同じこと思ってたのか!気が合うなぁ!」
まぁ、こう言っておくのがいいだろう。
うんうん。アンリも嬉しそうにしてるから問題なしだな!
さて、じゃあ、外で召喚術試してみるか!
3人で外に出ると、早速本に書いてある通りの魔法陣を書いてみることにする。
とりあえず、ミンクにそれで召喚できるかどうかを試してもらうように事前に話してたから、そうする。
ミンクが集中すると、さっと小さな土人形が目の前に姿を現す。
「うわー!かわいい!」
アンリが叫ぶ。
完全に同意だ。あれだ。埴輪みたいな感じ。
なんか、イメージにあるゴーレムってゴツい怪物って感じだったけどこの世界のはこんなのなのか。
てか、さっきスライムを呼び出した時より全然早くなってる気がする。
ミンク、もうマスターしたのか?
才能ってすごいな。
「ミンク、もう召喚術マスターだね!」
アンリが楽しそうにそう言う。
ミンクも照れたように笑う。
いい友達だよな。本当に俺たち。明日から、朝練にゴーレム使っての接近戦特訓も入れられるんじゃね?
「ヴォルクスくんもやってみてよ。さっき、僕が言ってたこと分かると思うから」
あぁ、イメージするって感じじゃなくて、勝手に頭に浮かんでくる感じってやつか。
魔法陣の中心に立った瞬間に言われていることがはっきりとわかった。
確かに、自分でイメージす・る・のではなく、イメージさ・せ・ら・れ・て・い・る・感覚がある。
これなら、少し魔力を込めれば……うん。出来そう。
……ドーン
という大きな音とともに、校舎の高さを越える巨大な土で出来た兵士が現れる。
……え?これが俺の呼び出したゴーレム……?
ミンクが呼び出したやつの20倍ぐらい大きくない?
ナニコレコワイ……。
「うわー!大きい!」
アンリが嬉しそうに声を上げるけど、そんな感じじゃないだろ、おい!
ミンクは、その大きさに驚いて……ん?失神してない?
わー!なしなし!
そう思ってすぐにゴーレムを戻すと、ミンクに声をかける。
「大丈夫か!ミンク!」
「あ、う、うん。ちょっとびっくりしちゃって……。やっぱりヴォルクス君はすごいね……」
い、いや。俺もこうなるなんて驚きだよ……。
本当に魔力量に応じた魔物が召喚されるんだな……。
「すごかったー!あれなら、村の人みんな乗ることも出来ちゃうね!」
アンリは無邪気にそう言うけど、コイツ、恐怖って感情ないのか……?
それを聞いたら、「え?だってヴォルクスが呼び出した魔物でしょ?大丈夫に決まってるじゃん」だってさ。信頼されてるなぁ……。
それから、アンリも試してみたけど、アンリの召喚したのはミンクのよりもさらに小さくて、キーホルダーにしたいぐらいの感じだった。
それから、俺がミンクぐらいのサイズのやつも召喚出来るのか試してみたけど、それもうまくいった。
込める魔力の量で調整できるみたい。
それも、その込める魔力量によって召喚出来る時間も決まってくるみたいだから、今の俺では、さっきの巨大ゴーレムはたぶん数秒から数分しか召喚できないと思う。
よく分かってなかったから魔力込めすぎたね。
まぁ、使えるってことは分かったから、それでいいか。
で……なんだっけ?
「いや、だから、これをこのまま放置したらどうなるんだろうってこと」
あぁ、そうだったそうだった。
元々ミンクがそんなこと言い出すから実験したんだった。
「それは、つまりこれを放置してたら、そのうち勝手にゴーレムが生まれるんじゃないかってこと?」
「う、うん。というか、ゴブリンとかが乗ったら勝手に召喚されるなんてこともあるんじゃないかなって」
はぁー。なるほど。
そんなに意識せずとも勝手に召喚されてしまうんだとしたら、魔力を持った魔物が召喚してる可能性もあるってことか。
え……?だとしたら……。
アンリと俺は顔を見合わせ、すぐに魔法陣を消す。
「い、いや、僕の単なる予想だから、本当にそうかはわからないけどさ。なんかそんな気がして」
「いや!面白い話だと思う。ミンクは魔法のことになると、本当に発想も含めてすごいな!」
素直にそう思ったから褒めると、ミンクは照れたような笑顔を浮かべる。
「そ、そんな大したことないよ」
「そんなことないよ。私、そんなこと思いもしないし。ミンクは頭いいよ!」
俺とアンリのその褒め言葉に、顔を真っ赤にしたミンクは、「じゃ、じゃあ今日はこれで帰るね」とか言ってる。
褒められ慣れてないんだろうな……。
「そうだな。とりあえず、明日からは朝練にミンクの召喚術の訓練も追加しよう!」
「そうだね!これからももっと楽しくなりそう!」
新しいことを勉強するたびに、新しいことができるようになるのはやっぱし楽しいね!
明日からも頑張れそうだ!
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