第6話
それから、半年ほどの月日が流れた。
え?いきなりだって?いやー、実際この半年は結局ほとんど同じ日の繰り返しみたいなもんだったからなぁ。
学校では魔法術以外の剣術、棒術、弓術の授業も始まり、それぞれが自分の得意なものを見つけ出している。
俺は当然、魔法術は問題なし。
剣術と棒術も魔法を活用した肉体強化なんかを活用するとなんとかなるからいいんだけど、弓術は厳しい。とにかく的に当たらない。魔法だったら、自分のイメージ通りに行くんだけど、弓術だとどうにもならない。力自体は肉体強化でやってるから問題ないと思うんだけど、何が原因なのかもよく分からん。
リックは魔法術がどうにも上手くいかない。一応使えるようにはなってるんだけど、火魔法としか相性がよくないみたいで、それしか使えるようにならない。
ただ、剣術はすごい。俺なんか比べ物にならないような体捌きで、剣術の先生も認めるぐらいの腕前になってる。棒術もそこそこよく出来てるけど、剣術には及ばない感じだ。
弓術は、集中が保てないみたいで、俺と同じで全く的に当たらない。2人でどうやったら的に当たるのか相談はしてるんだけどなぁ。
アンリは魔法術と弓術が優れてるみたい。
魔法術に関しては最初から俺に練習お願いするぐらいやる気に満ち溢れてたわけで、そのやる気がしっかり形になった感じだ。
弓術に関しては、俺とリックなんて足元にも及ばないぐらいの精度で的に当たる。どうやったらそんなに当たるのか聞いてみたんだけど、感覚でやってるみたいでどうもよくわからなかった。
分からないって言ったらめちゃくちゃ謝られたんだけど、そんなに怒ってなかったんだけどな。
ただ、それ以上に計算みたいな学問に才能があるみたいだ。テストもいつでも満点。そりゃ、俺にとっては簡単だけど、その他のみんなは結構苦労してるし、頭はいいんだと思う。
セルファは、接近戦に才能があるみたい。
とにかく体捌きが上手く、手合わせしても俺やミンクの攻撃なんか全然当たらない。なんか、素早いんだよな。
魔法術と弓術もそこそこなんだけど、接近戦に比べたら見劣りするかなって感じ。
結構万能になんでもこなせるタイプではあるから、3年生からどれを選択するか今から悩んでた。
ミンクは圧倒的に魔法術に偏ってる。
近接戦闘は全然。とにかく、怯えてしょうがない。力は弱いわけではないと思うんだけど、どうもいつも腰が引けてる感じだ。
弓術はそこそこいいんだけど、どうにも手を離す瞬間の弦の勢いがちょっと怖いらしい。
魔法の方が怖いと思うんだけど、その辺は大丈夫みたい。
魔法に関しては、本当にすごい。俺よりもいいペースで進んでる。そのうち、2つの魔法を同時に使う方法なんかを話してみようかなって思ってるぐらい。
俺しか使えないなんて、まだ信じてないからな。
今日は、遂に従魔術と召喚術の授業が始まる。
これは、魔物と戦う必要が出てくるから、ある程度戦えるようにならないとやらせてもらえなかったんだよな。
俺は別に大丈夫だって言ったんだけど、ルールだって言って止められてた。家族もまだ早いとしか言ってくれなかったし。
というわけで、今日の授業は少し遠出することになる。近くにあるスライムの群生地で、スライムを捕まえることになった。
従魔術は、普段と同じように魔力を読み取るんだけど、今回は魔物が発する魔力の波動を感じ取ることになる。
その細い線みたいな魔力の波動を感じ取って、それを掴み取り、それを自分の魔力と繋ぎ合わせる。
その繋ぎ合わせる作業で、魔物との相性も当然あるらしいのだが、その辺は試してみないと分からないらしい。
とりあえず、スライムを全く捕まえられないのは完全に従魔術に才能のないものぐらいらしいから、練習にはちょうどいいということだ。
さすがスライム。どんな作品でもそういう役目だよな。やっぱし。
いや、俺が生きてるのは作品じゃなくて現実だけど。
スライムが現れた!
いや、言ってみたかっただけです。ごめんなさい。
とりあえず、最初は俺がやるらしい。いやいや。先生。なんか当たり前のように俺が試しにみたいに言ってるけど、俺も初めてなんだけどな……。
集中する必要があると言っても今回は目を閉じるわけにも立ち止まるわけにもいかない。相手に襲われないよう一定の距離を保ちながら、普段魔法を使うような感覚でスライムの魔力を感じ取る。
あー、見えてきた。うん。これなら行けそうだ。
しっかりスライムの魔力を掴み取り、自分の魔力の波動と合わせて馴染ませる。
うん。たぶんこれでいいだろう。
スライムがこちらに近づいてくる。攻撃する素振りも見せないようだから成功みたいだ。
「さすが、ヴォルクス君!いきなりだったけど上手です。分かる、みんな。今みたいにしっかり間合いを取って関係を結ぼうとしないと、突然攻撃されることもあるから気をつけてね。それと、ヴォルクス君は魔法の熟練度が高いから今ぐらいの距離でも上手く行ったけど、みんなはもう少し近づかなきゃいけないかもしれません。それでも常に魔物からの攻撃に警戒しながら関係を結ぶようにしましょう!」
『はい!』
全員が気持ちのいい返事を返すと、それぞれがそれぞれの方法で挑戦し始める。
リックは、剣を構えてスライムに向かい合う。ただ、近づかないとなかなか上手くいかないみたいで、スライムの間合いにまで近づいて行ってる。
アンリは、ん?もう上手くいったみたい。
「ヴォルクス見てー!やったー!」
なんてこっちを見て言ってる。へぇ。従魔術は得意なのかな?それともスライムとの相性がいいのかな?
セルファもリックと同じように結構近づいてる。
セルファもリックも魔法自体がそんなに得意な方じゃないからそういうタイプの人はやっぱし、少し難しいんだろうな。
ミンクは……。大分遠くから頑張ってるんだけど、ちょっと厳しそう。魔法が得意なミンクと雖いえどもさすがにあれだけ離れてるとなぁ……。
自分の魔力が届く範囲ではあるんだろうけど、スライムの魔力量がそんなに多いわけじゃないから、あまりにも遠くからだと厳しいんだよね……。
「うーん……ミンク君、もう少し近づけないかな?」
見かねたように先生がそう声をかける。
「わ、分かってるんですけど、や、やっぱり恐くて……」
そう言って困ったように目を伏せる。
魔法で戦うとしたもっと強気にいけるんだろうけど、今回は倒しちゃいけないから難しいんだろうな。
「うーん……じゃあ、ミンク君は召喚術の方を試してみようか?こっちの方が従魔術よりも魔力は沢山使うけど、ミンク君ならなんとかなるだろうし」
そう言って先生は召喚術の講義に入る。
「召喚術には、魔法陣を使います。と言っても、魔石を使わないから魔法陣術とは違うんだけど……」
魔法陣!!
召喚術にも魔法陣を使うとは!
これは一気に楽しみになった。
「魔物の中には、魔獣っていう種類がありますが、この魔獣は召喚出来ないことが知られています。魔獣っていうのは生き物が魔力の影響で魔物化したものね。例えば、コウモリが魔物化したダークバットとか、木が魔物化したトレントなんかもその中の1つ」
へぇ。野生の生き物が魔物化するのか……。どうして魔物化するのかは分かってるのかな。結構興味あるけど。
まぁ、今は関係ないか。
「この魔獣は、召喚術で召喚することはできない。召喚出来るのは、純粋魔物と呼ばれる、普通に存在している魔力から生み出されるタイプの物だけね。スライムなんかはこっち。ゴブリンなんかの人型の魔物もこっちね。今回は、とりあえずスライムを召喚してみましょう」
そう言って、先生は地面に魔法陣を描きはじめる。
魔法陣と言っても、円の中心になにやらぐちゃぐちゃ書いてるだけのように思える。
「今からやってみます。この描いた魔法陣の上で魔力を使おうと意識すると、普段のとはちょっと違う魔物を作り出す波動が見えてくるから、それを使って、スライムをイメージして作り出す感じ。一度も見たことのない魔物だと全く作り出せないけど、今回はなんとかなるでしょう」
そう言って、先生が集中を始める。よく見ると、魔力が一つの塊を作り上げているのが分かる。
魔法陣の上でやらないと上手くいかない感じなんだろうなぁ。
魔法陣ってほんと、なんなんだろう。
「召喚!」
先生がそう言うと、スライムが生み出される。
『おー!』
「はい。うまくいきましたね。一度召喚した魔物は、もう一度念じると自動的に消えます。基本的には従魔と同じで自分の体内にある魔力と繋がっている感じにはなるんだけど、召喚してからずっと消さないでいると、繋がりが切れて野生の魔物になってしまうことがあるので、そうなる前に必ず消すようにしましょう」
野生化ってこわいな。とんでもない魔物を召喚して、そいつが野生化したら大変じゃないか。
そういう危険性考えると、従魔術の方が使い勝手はよさそう。
ただ、魔法陣かぁ。興味あるなぁ。これも、後で色々調べなくては!
「じゃあ、ミンク君も自分で魔法陣描いて、やってみようか」
「は、はい」
緊張気味にミンクがそう言って、魔法陣を描き始める。
とりあえずは大丈夫そうだ。
魔法陣の中心に立ち、集中を始めるミンク。なんともなく、すぐに召喚に成功すると、ミンクは嬉しそうな顔をしている。
本当に魔法だけだったらめちゃくちゃすごいんだな。ミンクは。
リックもセルファも、召喚術についての講義を先生がしている最中になんとか捕まえることに成功したみたいで、とりあえず全員が従魔術か召喚術に関してはうまく出来たことになった。
俺は、まぁうまくはいったものの、そんなに使えるようには思えなかったから、やっぱし召喚術かな。
どんな種類の魔法陣があるかは気になるからそれは後で調べなきゃ。
捕まえたスライムに関しては、このまま手放して野生に返すか、そのまま従魔として飼うかは任せてもらえたんだけど、アンリ以外はみんな返すことを選択した。
アンリは、帰路もずっと俺に対して自慢してきてたんだけど、そんなに気に入ったんだな。
「アンリはこのまま従魔術も勉強するの?」
「あぁ。そうだね。それも考えようかな。魔獣は大きさによっては乗れるのもいるって言うし、楽しそうじゃない?」
「へぇ。捕まえたら俺も乗せてよ」
ユニコーンとかは……こんな田舎にいるわけないし、初等学院では捕まえられるレベルじゃないけど、ホワイトドッグなんかだったら大きいのだったら乗れるだろうし、ちょっとそれは楽しそうかも。
「え……!?も、もちろん!!絶対に捕まえるね!」
嬉しそうに言うアンリを見て、好きなものに興味持たれるのって楽しいもんだよなって思った。
召喚がうまくいったときは、ミンクもうれしそうな顔してたし、召喚術に関して調べるときはミンクも一緒に誘ってみようかな?
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