第5話

 次の日の学校。今日もアンリの手伝いかなって思ってると、ミンクが話しかけてきた。




「あ、あのさ、ヴォルクス君。アンリちゃんが魔法の練習してるって聞いたんだけどさ……」




「ん?ああ、してるよ」




 なんだ。アンリ話したのか。まぁ別に俺は隠してるってわけじゃなかったから別にいいんだけど。




「それで、ね。アンリちゃんがしてる魔法の練習、僕も仲間に入れてもらえないかなって」




 へぇ。珍しいなミンクがそんなこと言うなんて。いつも大人しいからそういうのに積極的になるタイプじゃないと思ってたんだけど。




「別に俺は構わないけど、アンリに確かめてみてもいいかな。元々俺が始めたことじゃないし」




「もちろん。そうだよね……」




 そのまま、教室に入ってアンリに聞いてみることにするか。


 そう思って教室に入ると、セルファがなんかアンリに謝ってる。




「ごめん!ミンクも参加したいなんて言い出すと思ってなくて!」




 ん?ちょうどこの話か?ってか、セルファも知ってた感じなのかな。




「もう!私がヴォルクスひと……」




「あ、ヴォルクス!おはよう!」




 アンリが何か言おうとしていたようだけど、セルファが俺に気づいて声をかける。




「お、おう。セルファ、アンリおはよう。アンリ、ちょっといいかな?」




「う、うん。なに?ヴォルクス」




 少し焦ったような顔をしたアンリが聞いてくる。


 あー、ミンクのところに一緒に行って……って思ったけど、セルファも知ってるならここで話していいか。




「いや、二人でやってる魔法の練習だけどさ、ミンクも参加したいんだって。一緒にやっていいかな?」




「え……?なんで私に聞くの?」




「いや、アンリのお願いで始めたことだから、俺が勝手に許可するのもどうかなって思って」




 そう答えると、アンリが少し考えるように間を作る。やっぱり嫌だったかな。もう使えるようになったミンクと練習なんて、一人だけ使えないことになってなんか気まずいだろうし……。




「だ、大丈夫だよ。ミンクも一緒にやろう……」




 アンリはそう言ってくれたけど、うーん。やっぱり、一人だけ魔法を使えないっていうのはなぁ……あ、そうだ。




「セルファも一緒にやろうぜ。そうだよ。みんなでやればいいじゃん。リックは……どうせこの時間には来てないか……」




 いつも、リックは時間ギリギリじゃないと来ないからなぁ。それで一度も遅刻だけはしたことないから偉いんだか偉くないんだか。




「え……?私も?い、いやいや私はいいよ。大丈夫大丈夫」




 必死で断るセルファを見てると、そんなに嫌か……って気がしてくるな。




「ううん。セルファもやろう。というか、それなら、わざわざ図書室に行かないでもいいよね。ミンクも入っていいから、ここで練習しよう」




 セルファもアンリのその言葉にうなずいてくれた。じゃあ、みんなで一緒にやるか。




 それから、俺たちはそのまま魔法の練習に入った。


 さすがに、まだ魔法を使えるようになったばかりのミンクにサポート役をやらせるわけにもいかないから、サポート役は俺だけ。


 ただ、アンリもセルファも大分いい感じになってきてると思う。


 アンリなんかは、俺が魔力を送り込めばもう普通に火魔法は使えるみたいだし。もうそろそろだな。


 セルファは何度言っても自分一人でやると言って聞かないから、横で魔力の流れを確認してアドバイスするだけ。


 でも、感覚は悪くない。アンリよりは時間かかるかもしれないけど、セルファもあと2週間ぐらいで使えるようになるんじゃないかな。




 しかし、ミンクはすごい。


 俺が最初に身につけたよりも早いペースでマスターしてる気がする。もう既に、火と水と風と氷と土は基本的なのは使えるみたいだ。




 俺なんか、火と水は結構早かったと思うけど、そこから先のは使えるようになるまでしばらくかかったんだけどなぁ。




 先生が昨日言ってた話によると、人によってはどんなに頑張っても使えないタイプの魔法ってのはあるらしい。


 氷魔法の達人でも火魔法が全く使えなかったり、その逆だったり。人によって、各属性との相性は間違いなくあるんだな。




 王都に行けばそういうのを検査する場所もあるみたいなんだけど、こんな田舎の村にはそんなところないから、それぞれが使ってみての感覚で知っていくしかない。




 ミンクはどの属性とも相性がいいんだろうな。




「僕、運動はそんなに得意じゃないから、剣術とかではなかなか戦闘の役には立たないと思うんだ。でも、魔法なら活躍できると思うから頑張りたくって」




 ミンクに、なんで特訓したいと思ったのか聞いたら、そんなことを言ってた。




 4人での朝練は結構いい感じだったな……と思ってたら、もう1人が教室に飛び込んできた。




「今日もセーフ!」




 リック……。1人だけ明らかに場違いで飛び込んできた瞬間、全員で笑っちゃったよ。




「なんだよ。みんな。魔法の訓練?ズリィよ。俺にも言ってくれよ!」




「今日突然決まったんだよ。お前が来るのが遅いのが悪いんだろ」




 俺が代表してみんなの気持ちを代弁すると、リックが笑って言う。




「えー。じゃあ、明日は俺も早起きするから。みんな一緒に魔法の練習な!」




「無理に決まってんじゃん。リックがそんな朝早く起きられるわけないのはみんなわかってるから!」




 そうセルファが笑うのに対して、リックがなんかごちゃごちゃ文句を言ってる。


 うん。アンリが1人で頑張りたいってのも分かるけど、やっぱしこうしてみんなでワイワイやる方が楽しいし活気が出ていいよな。明日からも頑張れそうだ!






 そんな感じで、いつも通りの学校の時間を過ごして、今日も放課後は家に帰ってはんこ作り。




 昨日で大体コツはつかめてきたと思うから、今日はもう少し上手くできる気がする。


 とりあえず、円を描くためにはコンパスだよなってことに気がついて鉄の中心に針を突き立てるイメージをすると、上手く形にできた。それから、そのまま固定して、くるくる持ってる塊を回転させてみる。


 うんうん。上手く円が書けたな。




 そこからは簡単。


 六芒星の頂点は外側だけ繋ぐと正六角形だからね。


 一本半径を引いたら、そこからその半径と同じ長さに区切っていけば自動的に正六角形は完成する。




 そしたら、その正六角形の頂点を一つ飛ばしで結んでいったら……。


 よし!できた!


 とりあえず、万能陣の魔法陣は完成したから、そのまま工房に持っていくことにする。


 ばあちゃんに報告だ!




「なるほど。これが、あんたの作った魔法陣の型ね。うん。上手くできてるじゃないか」




 ばあちゃんから褒められた。素直に嬉しい。


 うーん。やっぱし、ここでの生活が続いてきてだんだん精神年齢が幼くなってる気がする。


 まぁいいか。子どもとして人生楽しむことも必要だよな。




 母さんも父さんも見て褒めてくれる。


 俺としてはとりあえず早く紙に押してみてほしいんだけどな。




「じゃあ、実際に使ってみるかね」




 そう言って紙とインクを持ってくる。


 このインクは……魔石インクじゃないんだよなぁ。




 とりあえず普通のインクで押してみて、魔石をその上に乗せてみる。今日は危険も考慮してばあちゃんが魔力を注ぐようだ。




 じっとばあちゃんが魔石に手をやると水が現れた。


 成功だ!




「うん。これなら、しっかり魔法陣として機能するね。これを量産することができれば魔法陣型としてとりあえず商品にもなるんじゃないかね。これをそのまま型に取って作ってみるかね」




 ばあちゃんは型の製作の許可を俺に取ると、俺の型を元に金型を作り上げる。


 土魔法だけで作り上げられたその塊は俺が作ったものとほぼ同一だ。


 その出来栄えと作る速さには感動する。




「ここにそのまま鉄を流し込めば出来そうだね。これなら、他の陣のものを作るのもいけそうだね。ただ、まぁ魔法陣はね。どれだけ売れるか分からないけど……」




 ばあちゃんはそう言って少し苦笑い。




「いや、でも魔石インクとセットにしたら、すごい効果を生むわけでそれなら商品にだってなるんじゃないの?」




 俺がそう尋ねると、ばあちゃんが思い出したように言い出した。




「あぁ、その話なんだけどね。あんた、あれはどうやって作ったんだい?私たちも魔石を研磨するときに出る削りカスで試してみたんだけどね……」




 そう言って、ばあちゃんはインクを取り出して俺に見せる。


 そこに手をかざして光魔法を込めるが俺が魔石インクを作ったときのような反応は示さない。




「こんな感じなんだよ。考えてみたら、魔石はある一定以上に細かくすると効果を失っちまうものなんだ。インクの中に混ぜられるほど細かくしたら、当然その効力はなくなるはずなんだけどね……」




 そう言って、俺の作った方を取り出す。


 そっちで同じことをしたらちゃんと反応を示した。


 やっぱりインク全体に魔石としての効果が残っているようだ。




「どうやってって、魔法で削っただけなんだけど」




「魔法で削る……?どうやって」




「え……?風魔法と土魔法を組み合わせたミキサーって魔法で……」




 そう答えると、俺の話を聞いていた3人が驚いたような表情で俺のことを見てくる。


 え?俺なんか変なこと言った?




「別属性の魔法を組み合わせて一つの魔法にするなんてそんなこと、出来るのか……?」




 父さんがそんなことを聞いてくる。


 え?父さんはできないの?いや、そりゃ結構苦労したけど、そんなに難しいものだったなんて……。




「いやいや、難しいなんていう話をしてるんじゃなくて、そもそも聞いたことないよ。そんな話」




 母さんもそんなことを言ってくる。


 え?難しいとかじゃなくて、聞いたことないとかそういうレベルの話なの?




「ちょっと、ヴォルクス。あんた、それやってみなさい。ちょっと、その辺の石使っていいから」




 ばあちゃんのその言葉に俺は黙って従うことにする。


 昨日やったように、ミキサーを使って石を削り取っていく。


 慣れれば別に難しいことじゃないんだけどなぁ……。




「うーん……本当に削れてるね……。というか、そんな魔法の使い方があったとは……」




 3人ともめちゃくちゃ驚いた表情で見てる。




 3人の話を聞いて分かったんだけど、そもそも2つの魔法を混ぜようという発想自体今まで思い浮かばなかったということだ。


 魔法は波動をつかむことによって使えるわけで、それを複数同時に行って、それも同時に使いこなせるようになるには相当なイメージ力が必要なんじゃないかということだ。




 俺の常識にとらわれない発想力と魔法のセンスと今までの努力が形となって、こんな風に上手くいったんじゃないかという3人の見解。




 うーん……。これは俺が転生者ってのが効いた形なのかもしれない。この世界の常識ではありえないことかもしれないけど、俺にとってはそもそも魔法自体が常識外れなわけで、試してみたらなんでもできると思ってたからなぁ……。




 実際、3人がそこから何回か試してみても全然上手くいかない。ばあちゃんなんかは、魔法にこんな道の領域があったなんてとか言って逆に嬉しそうだったけど、どんなにやっても無理みたい。




 ばあちゃんほどの人でも出来ないのか……。




「恐らく、魔法を使って砕いたことによって、魔石から魔力が抜けずに粉々になることができたんだろうね。1種類の魔法のみで魔石をこれぐらい細かくする方法を見つければいいんだろうけど……ちょっと、思いつかないね」




 そう言ってばあちゃんは頭を抱える。




 ん?ってことは、魔石インクを作れるのって今のところ俺だけってこと……?


 じゃあ、魔法陣の型作ってもそんなに役立たないんじゃ……。




「いやいや、これ自体はこれである程度意味はあるよ。特化陣なんかはその存在を知ってる人すら珍しいからね……」




 魔法陣術は魔法弱者の魔術ってことで、学ぶこと自体バカにされる傾向にあるらしい。


 やっぱ、残念だなぁ。


 魔石インクに関しては、分量調整したらいい感じに火力調整のできるものが出来そうだし、そもそもそんなに魔力を必要としないわけで、それこそ魔法との相性なんか気にせず、みんなが色んな魔法使えるようになると思うんだけどな……。




「とりあえず魔法陣型はこれでいいとして、あとはこっちの魔石インクだね……。今はあんたしか作れないけど、なんとか製法を見つけ出せないとも限らないからこっちの研究を進めないとね……」




 ばあちゃんはそう言って魔石インクを見つめる。


 新しい研究対象を見つけて嬉しそうだけど、え?俺しか作れないんだよね?


 俺が手伝うの……?


 いや、そりゃ俺も魔石インクの可能性は調べたいけど、魔法陣の研究の方が楽しそうなんだけどなぁ……。

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