第4話
次の日、学校では既に昨日のことが話題になってた。
そりゃそうだよね。あんなでかい氷の柱が突然出現したんだから。
小さい村みたいなところだし、住人全員が知っているのはどちらかというと予想の範囲内って感じだ。
「昨日のあれ、なんだったの?」
セルファが当たり前のように聞いてくるけど、
「いやー、なんかばあちゃんが新しく作ろうとしてる冷凍庫の実験ミスだってさ」
と俺は答える。
家族からは、魔法陣術の実験だったってことは黙っておけと言われた。
まだまだ何もわかっていないことを村レベルでも広まるのはよくないと判断したらしい。
まぁ、それもそうかなって思ったから、俺もその指示には従うことにした。
「冷凍庫?なにそれ」
「食材を凍らせて長持ちできるようにする道具だよ。今、ばあちゃんが試作中なんだ」
それは本当のことだ。この世界では今まで食材を氷魔法で凍らせることはしていたが、魔力は普通に使うわけで、遠征先なんかで魔力の節約をしたいときなんかにはなかなかできなかった。
その状況を見かねた俺は、冷凍庫があったらいいんじゃないかって話をしたんだ。
一回氷魔法を使うと半年ぐらい冷凍効果を長続きさせるための機構を今は考案中で、そろそろ完成するんじゃないかって話。
「へぇ。便利そうだね。完成したら教えてね!」
セルファは全く疑うそぶりも見せずにそう言って笑う。
素直でいいやつだよな。
「ねぇ、ヴォルクス。今日も大丈夫?」
俺とセルファの会話が終わると、アンリがそう言ってくる。
今日も……?あぁ、魔法の練習かな?
「もちろん。今日も図書室がいい?」
「うん。ヴォルクスさえよければ」
「もちろん、大丈夫だよ。しかし、相変わらずアンリは勉強熱心だよなー」
「そんなことないけどね!」
アンリの顔が赤い。褒められて照れてるんだろうな。
それから、昨日と同じように少しアンリと一緒に練習をしたら、授業の始まる時間になった。
ちょうど、図書室に来たし、少し魔法陣術関連の本を借りることにする。
魔法を使うなとは言われたけど、勉強するなとは言われなかったから、まぁ大丈夫だろう。
今日の授業も、俺は指導役。本当は空間魔法の使い方とか教えてほしいんだけどな。
先生になるには、空間魔法は必須だって聞いたことがある。遠足なんかの時に、空間魔法が使えるか否かでだいぶ持っていけるものに差があるし、危険な時は生徒連れてすぐに逃げられるし。
まぁ、まだまだ時間はたっぷりあるし、そのうち教えてくれるだろうから、今日はいいや。
で、早速一人で魔法を使えるようになった生徒ができた。普段は一番おとなしいミンクだ。
まぁ、リンクやセルファなんかと比べたら集中力もあるほうだと思うし、なんといってもミンクのお父さんは村の防衛隊の隊長だから、そもそも魔法を使える素質が他の子たちよりもあったんだろう。
防衛隊は、村の近くに魔物が出たときなんかに対処してくれる人たちだ。
まぁ、平和な村だからそんなに魔物の襲撃を受けることなんてないんだけど、たまに見回って間引くようにしないと、すぐに群れを作ってしまうのが魔物らしい。
だから、毎日村の周辺を見回ってくれている、本当にありがたい人たちだ。
アンリも頑張ってるから、すぐに使えるようになってほしいけど、まだ難しそう。
魔力の量は多そうだから、使いこなせるようになったらすぐにいろいろできるようになりそうなんだけどな。
「はい、みんな!まだ難しいかもしれないけど大丈夫。必ずみんな魔法を使えるようになりますからね。これから一か月ぐらいはこうやって基礎練習を続けます。それと、来週からは剣術や棒術や弓術の授業も始まりますからね。3年生になるころにはどの科目を伸ばすかを選択してもらうことになるから、しっかり勉強しましょう!」
『はーい』
先生がそう声をかけると全員、いい返事をした。
この世界では、とりあえず基本となる戦い方の授業は初等学院のうちに行う。それから、3年生に上がるときに魔法術、剣術、棒術、弓術、そして自分ではなく魔物を操って戦う従魔・召喚術の中から選択をして、さらに上の勉強に入ることになっている。
選択科目に関しては1つだけにすることも、全て選ぶことも可能だけど、すべてにある一定の合格基準が設けられていて、それに合格しないと次の学年の勉強には入れない。
だから、中等学院に上がるころには、2つぐらいに絞られるのが普通らしい。
まぁ、俺は全部選択して……といいたいところだけど、前世でも運動は得意じゃなかったから、魔法術と従魔・召喚術を極める方向で行こうかなとは思ってる。
一応、選択科目は全部選ぶけどね。
どうせ、魔法術は既に中等学院進めるぐらいのレベルで身についてるし。
さて、放課後は魔法陣術の勉強だ。
昨日は万能陣の実験で失敗したから、今日は特化陣について読み込もうと思ってる。
ただ、本を読んでみて分かったのは、特化陣についてはそれほど詳しいことが判明してるわけじゃないってこと。
そもそも、魔法陣術自体が魔法弱者の魔術って言われているせいで、それほど研究してる人がいるわけじゃないらしい。
まぁ。魔石は貴重なものだし、最近になってようやく魔石鉱山がいくつか見つかってきて安定供給されるようになったわけだけど、それでも、ばあちゃんの作ってる製品に使われているみたいな魔道具での消費が主。魔法陣術研究に使われる魔石の量はなかなか多くは取れないみたい。
特化陣に関して既にわかっているのは、火、水、氷、風、土の五種類。それと、物質強化、物質硬化の2種類が見つかってるらしい。強化や硬化は使えそうな気がするんだけど、魔法陣の上に乗せていないと意味がないようで、なかなか使い勝手のいいものは見つかっていないみたいだ。
うーん。昨日の実験結果で、効果を大きくする方法が見つかりはしたものの、魔法陣の上じゃないと効果がないっていうのはなかなかマイナス面が大きい気がする。
いちいち書かなければいけないわけで、魔石も必要、さらに魔法陣上じゃないと効果を発揮しない。これは普通の魔法のほうがいいのは理解できる。
これは、魔法弱者の魔術って言われる意味がよくわかってきたな……。
ただ、だからといってあきらめるのはまだ早い。というか、俺がまだあきらめたくないんだ。
だって、魔法陣だよ。絶対その先に錬金術があるって。特化陣に錬金術の陣があるんだよきっと。
この世界に錬金術はない。
いや、ないんじゃなくて見つかってないんだって俺は信じてる。
実際、やっぱりこの世界でも錬金術は夢の魔術みたいで、いろいろな人が研究に携わっていたらしい。いたというのはもうあきらめている人が多く、この魔法王国ですら専門の研究機関はない。
ただ、研究の進んでない魔法陣術と見つかっていない錬金術。これを結び付けずに何を結び付けるっていうんだ!
と、ロマンの話はあとにして、とりあえず今は研究だ。
とりあえずこういうのは体で覚えたほうがいいから、特化陣をいくつか書いてみるかな。
とりあえず一つ一つ、すべての特化陣を書いていく。すべて書き終えた段階で、一つ一つを見ていく。共通点が見つかれば新しい陣を考えるのに適していると思われるからだ。
火、水、氷、風の4つは万能陣に付け加えた程度。全て、六芒星の内側に図を追加すればよく、円を書けば火、円を書き、さらに六芒星を書けば水、六芒星を書くだけだと氷、六角形を書けば風といった具合だ。
土と物質強化と物質硬化はどれも五芒星。五芒星の内側に円を書くと土、土の陣に三角形を追加すると物質硬化。土の陣にさらに六芒星を書くと物質強化のようだ。
書いてみて、やはり少し面倒な気がした。もっと手軽に書けるようにすればいいんだけど……と思って気が付いた。
はんこにすればいいんじゃないか?
活字の文化はある。文字の形に作られた鉄板を紙に押し込んでインクをつける凸版活字。それを文字じゃなくて魔法陣用の活字を作れば、いけるんじゃないか?
気づいてしまったら、行動しないわけにはいかない。鉄さえ用意できれば、魔法で削って……あっ、魔法使用禁止だった……。
これはばあちゃんにお願いしに行くしかないか……。
「ヴォルクス、あんたはまだ懲りてないの?」
ばあちゃんに話をしたらやっぱり怒られた。
「い、いや。魔石は使ってないって。魔石は使わなければ魔法陣は発動できないんだから別にいいじゃん」
「そういうことじゃなくて……まぁしょうがないねぇ……。じゃあ、大きな魔力を使うのは禁止。その、魔法陣用のはんこってのには私も興味あるから、作ったらすぐに持ってきて見せること。そして、紙に押して使ったりするのは私かシャロンかヴィンセントが見てる前ですること。それが守れるんだったら、作ることを許可しましょう」
「やった。ありがとう!ばあちゃん大好き!」
ばあちゃんが許可を出してくれたら父さんと母さんも文句は言えまい。
早速部屋に戻って、はんこ製作を始める。
昨日魔石を砕いた時の魔法、ミキサーだと、単純に粉々に砕いてしまうだけだけど、今回はどちらかというと削り取るイメージだから、別の魔法を使う。
ただ、土と風の混合魔法で作ったほうがいいのは間違いないからその方向で行こう。
「シェーバー」
俺はそうつぶやいて鉄の表面を削り始める。
円状に削らなければいけないから少し大変だけれど、まあ大丈夫だろう。
まず、一つ目を作ってみるが、形は不格好。
これを押しても発動する気がしない。
もう少し作り方を考える必要があるように思う。
とりあえず、今日は方針を立てられたから、これでよしとして、魔法陣術に関して考えるのはおしまい。
明日以降で完成させようっと。
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