第3話

 魔法陣について教わってすぐに図書室で調べもの。

 魔法陣術について詳しく載っているのを読んでみることにしたよね。

 新しいこと教わったら気になるし、一回調べてみないとね。


 それでわかったのは、さっき先生が書いていたのは万能陣ってやつで、自分の思う魔法が使いやすくなるサポートをしてくれるような奴だってこと。

 他にも特化陣っていうのがあって、それなら更に魔法が発動しやすくなるみたい。


 魔石を持っているだけで使えるし、ほとんど魔力を使わないから、本来は初心者のサポートやそもそも魔力が少ない人や魔力を使いすぎてしまった人が使うものらしい。

 使う魔石の量で変化するわけじゃなく、魔石を置く場所で威力が変化するっていうのは先生が言ってた通りみたい。


 とりあえず、家に帰って色々実験してみようと思って図書室を出ると、アンリが待っていた。


「あ、ヴォルクス。ちょっといい……?」


「ん?どうかした?」


「う、うん。魔法の練習したくて。もう一度さっきみたいに魔力送り込んでもらってもいい?」


「え?うん。いいよ」


 アンリは勉強熱心だから、魔法の勉強も一生懸命みたいだ。

 俺も、さっきの魔力送り込むやつはもう少し練習したかったからちょうどいいや。


「じゃあ、大きな魔法使っても大丈夫なように外行くか!」


「いや、まずは小さく試したいから、室内で大丈夫かな」


「じゃあ、教室?」


「い、いや。みんないると集中できないし、図書室で教えてほしいな」


 ああ、なるほど。それはそうかもな。魔法を当たり前に使えるようになるまではやっぱし集中が大事だからな。


「よし。じゃあ、やるか」


 俺はアンリと手をつなぐと、少しずつ魔力を送り込む。

 アンリは緊張してるのか少し強めに手を握り返してくる。

 すると、アンリの目の前に火の玉が現れた。


「あ、図書室で火は危ないんじゃないか?水……湿気もよくないし、風がいいかな?」


「あ、ごめん」


 そう言ってパッと手を離して顔を真っ赤にするアンリ。初めてだし、まだそういうこと考えられなくても仕方ないと思うから、そんなに反省しなくてもいいのに。


「大丈夫大丈夫。ゆっくりでいいから」


「うん。ありがとう!」


 あ、少しいつもの感じに戻ってきたみたい。さっきまでなんかめちゃくちゃ緊張してたからな。


 それから、少し練習すると、次の授業の時間が近づいてきたから、練習を切り上げることにした。


「あ、明日からも少しこうやって練習付き合ってもらってもいい?」


「おう。アンリがしっかり魔法使えるようになるまでサポートするから。頑張れよ」


「うん!」


 嬉しそうな笑顔でうなずいてくれる。

 これだけやる気があれば今週中にでも使えるようになりそうだな。

 早く使えるようになったら一緒に魔法で遊べるかもしれないし、楽しみだ。


 それから、その後の授業を終えて、帰宅すると、すぐに魔法陣の研究を始めることにする。

 家に母さんがいたから、魔法陣関連の本があるか聞いてみたんだけど、家にはないみたい。

 まぁ、この家で働いてる人は普通に魔法使えるし、魔力量も多いから魔法陣術を使う意味はそんなにないってことなんだろう。


 とりあえずお願いして母さんから魔石を借りることにする。


「ヴォル。扱いには気をつけてね。危険なことには使わないように」


「わかってるよ。母さん」


 母さんはいつも心配症だ。もう魔法使えるようになって2年以上経つんだからそんな危険なことするわけないのに。


 部屋にこもると、とりあえずさっき先生が書いていた陣を試しに書いてみる。それから、魔石を中央においてっと。

 手をかざすと、すぐに魔力の波動が見えるようになる。

 うーん。魔法陣の周辺だけ波動が少し濃くなったかな?普段、少し強い魔力を込めた後の状態を掴もうとするとこんな感じだろうか。


 次は、その魔石を砕いて三角形の各角に置いてみる。

 おお、さっきよりも全然わかりやすいな。確かに魔力の波動が大きく太くなっている。

 これなら、魔力が少なくなっても大きいのが使えるな。

 ただ、これだとまだ普通に使った方が全然いいよな。このぐらいの魔法なんて一か月も練習したら使えるようになるし。


 もう少し砕いてみるか。

 そう思って、さらに細かくしてみる。今度は十個ぐらい。円の上に均等に置いてみる。さっきよりも明らかに大きく使えるようになってるのがわかるな。

 少し氷出してみるか。

 出てきた氷は、2キロぐらいだろうか。少し大きな塊だ。

 それでも、授業中に作った量に比べたらたいしたことない。


 うーん。さらに細かくすることもできるけど、そうすると置きづらくなるし、このぐらいが限界かな……?


 そう考えてインクを片付けようと手に取った瞬間ひらめいた。

 このインクに魔石を混ぜてみたらどうなるんだろう?

 インクは元々鉱物なわけだし、魔石も細かくすればインクに混ぜられるよな。当然。

 物は試しだと思って、魔石を粉々に砕いてみることにする。


 土魔法と風魔法を組み合わせてっと。


「ミキサー!」


 ものを細かく砕くための魔法だ。

 風魔法で渦を起こして、そこに土魔法で作った小さな砂粒を絡ませる。そこに魔石を投入すれば、自動的に細かくなってくれる。

 これは、そんなに大きな魔力が必要なわけでもないし、簡単にできる。

 まぁ、同時に二つの波動を掴めるようになるまでかなり苦労したから、だれでも使えるってわけじゃないんだろうけど、それでも一度できるようになったら楽だからね。


「こんなもんかな」


 かなり細かくなった魔石の粒。

 そこら辺の砂よりも細かい粒にできたから、これならインクにも簡単に混ざるだろう。

 そのまま、インクの中に魔石粒を投入。

 今度は水魔法を使ってインクの中をかきまぜる。


 うん。きれいに混ざったかな?

 少し光の魔力を作り出した魔石インクに込めて反応を見てみる。

 うん。全体的に発行塗料混ぜたみたいにきれいに光ってる。これならよさそうだ。


 そのままの勢いで、今新しく作ったインクを使って魔法陣を書いてみる。

 そして魔力を確かめてみると……。


 どぉーん


 すさまじい音がしたかと思うと目の前に巨大な氷柱が現れた。

 家の屋根を突き破った氷柱を見て、俺は驚きのあまり動けない。


「な、なに!どうしたの?」


 母さんが大きな声を出して部屋に入ってきた。

 母さんも目の前の氷の柱を見て固まってる。


「い、いや……ちょっと実験してたら……」


「だ、大丈夫?」


 母さんが俺を抱きしめる。


「う、うん。だ、大丈夫だよ……大丈夫だから離して母さん……」


 少し苦しいぐらいに抱きしめてくる母さんに俺はそう言うけど、全然離してくれない。

 そうこうしてるうちに、工房にいたばあちゃんと父さんも部屋に入ってきた。


「な。なんだこの氷は」


「どうしたんだい、これは」


 二人ともめちゃくちゃ驚いて目が点になってる。

 い、いや、驚きたいのは俺の方なんだけどさ……。


 それから落ち着きを取り戻した俺たちは、それぞれで風魔法使ったり、火魔法使ったりしながら少しずつ氷柱を砕いていった。

 その間に、少し俺が経緯を説明すると、ばあちゃんが険しい顔になる。


「魔石を置いた数で魔法陣は威力が変化するのは常識だけど、魔石インクね……考えたこともなかったね……」


 そうつぶやいて少し考えだす。


「とりあえず、その魔石インクでの実験を室内でやるのは禁止。ただ、外でやっても騒ぎになるような気もするし、しばらくやめなさい!!」


「は、はい」


 こんなに怒ってるばあちゃんは見たことないってぐらいに恐い顔でこっちを見てくる。

 さすがに、俺もこんなことになるとは思ってなかったから、素直に従う。

 ただ、量を調節して実験するまでは止められてないよね?

 魔石インクを使うのだけがダメなんだよね?


「そもそも、魔石だってそんなポンポン使っていいもんじゃないしね……」


 ばあちゃんは魔石を簡単に使わせた母さんにも白い目を向ける。


「い、いや母さんは悪くないから……」


「わかってるよ。シャロンにそんなつもりはなかったってことは。ただ、魔石はこんな風に突然大きな力を発揮することもあるから扱いには注意しないとね」


「はーい」


 ま、まあいろいろあったけど、とりあえず、実験自体は成功……?したわけで、やっぱり魔石をたくさん配置すれば大きな魔法が使えることだけははっきり分かった。

 ってことは、今回はひどいことになったけど、魔石インクの量を調整しながらいろいろ試してみれば、もう少し活用度の高いものになるんじゃ……?


 ああ、けど、魔法陣を書いたところにしか氷柱はできなかったから、効果範囲が狭いのか……。

 ん?じゃあ広い範囲にしてみたらどうなるんだろう。今回は狭かったから縦に魔力が伸びてこんなことになったけど、広い範囲、それこそ校庭ぐらいのサイズで魔法陣を書いたら……?

 あー、いろいろ実験したくなってきた。

 でも、ばあちゃんから禁止されちゃったし……。


 今日は怒ってるからこれ以上は話をするの無理そうだけど、機嫌がよさそうな時を狙ってうまく話し持っていけば少し魔石使わせてくれるようにならないかなぁ……。

 とか考えているのに気づかれたのか、ばあちゃんがこっちをジト目で見てくる。


「あんた、まだ懲りてなさそうね。明日から一週間、家での魔法の使用禁止にします!」


「えー!」


「母さんそこまでしなくても……」


「うるさい!ヴィンセント、あんたがしっかり教育しな!自重っていうのを覚えさせないと、この子大変なことになるよ!」


 ばあちゃんの怒りが父さんにも向いてしまった。これ以上考えるのはやめといたほうがよさそうだから、俺は黙ってばあちゃんの指示を受け入れることにした。

 まぁ、学校では魔法も使い放題だしね!

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