第2話
いやー、やっぱり楽しいね。学校。
学校が始まって、早くも2か月が経った。正直、中身はアラサーだから、実際、学校なんて楽しく過ごせるか不安だったんだけど、完全に杞憂だったね。
そりゃ、同級生たちは幼い(いや、年相応だけど)けど、普通に遊んでたら楽しいしね。
てか、この年齢で過ごしてると精神年齢も近づくのかもしれないって気はしてるよね。
「ヴォルクスー、これ教えて!6匹のスライムが現れました。その6匹がそれぞれ分裂しました。何匹になったでしょう!」
そうそう。やっぱり俺は普通に勉強できるからさ。みんな俺に勉強のことを聞きに来るわけよ。
それを教えてるだけで、みんなが頭よくなってく感じがして楽しいんだよね。
「いや、だからさ。それは掛け算っていう計算を使えば一発でさ。6が2個になるんだから、6×2じゃん。アンリも覚えただろ。せーの」
「ろくいつがろく!ろくにじゅうに!」
アンリは、同級生の一人。赤髪の女の子。他の子よりも算数が好きみたいで、よく俺に質問してくるんだ。掛け算の考え方自体はこの世界にも普通にあるみたいだから、まぁ教えてもそれほど問題はないだろうって思って教えた。
子どもが好きなことについて勉強すると身に付きが早いね。アンリはみるみるうちに四則演算ができるようになってる。
これは、将来経理とかできるようになるんじゃないかな。
それより、授業だよ。授業。学校が始まって2か月。ようやく今日から魔法の授業が始まるんだ。
いや、ばあちゃんとか父さん母さんにいろいろ教わったり、独学でやったりしていろいろ魔法が使えるようにはなってるけど、やっぱり先生から教わるっていうことになるといろいろ違うだろうからさ。本当に今日が来るのを楽しみにしてたんだよね。
「はい。それでは、今日から魔法の授業を始めます。みんな、いきなり使えるようにはならないし、大きな魔法を使おうとすると危険だから先生の話をよく聞くように!」
担任のキャロリーゼ先生がそう、俺たちに声をかける。
俺はもう使えるんだけどなぁ……。
同級生たちは静かに先生の姿を見つめてる。
いつもはうるさいリックも今日は静かにしてるみたい。
先生が目を閉じて集中する。俺もそれに合わせてじっと先生の動きを見つめる。先生がつかもうとしている魔法の波動は……水かな?
「ウォーター!」
先生がそう唱えると、先生の手のひららから水の塊が地面に向かって飛び出した。
水の基本魔法、ウォーターだ。
俺が初めて使えるようになったのもこれだし、やっぱし初心者向けなんだろうなぁ。
水の魔法波動は見つけやすい。地球の知識で考えると、水蒸気みたいなもんだと思うんだけど、正確なことは分からない。
そのうち、そういう魔法波動についても詳しく知りたいよな。原理とか分かったら使いやすくなるだろうし。
と、今はそんなことより魔法の授業だ。
「先生!俺もやってみていいですか?」
俺はそう言って先生に声をかける。
「ヴォルクス君はもう使えるんだっけ?さすが、エリーゼ様の孫ね!」
先生はそう言ってテンションが上がったみたいに言ってくる。
ばあちゃんは関係ないと思うんだけどな……。
ただ、俺が魔法使いたくて、立てるようになった頃から練習してただけなんだけど。
とりあえず、先生から許可をもらえたから、実践してみる。
まぁ、みんなに見せるなら、こんなもんだろう。大きめに氷の波動をつかんでみることにする
「アイスカーブ!」
目の前に氷を作り出し、そこから彫刻を作り出す。
目の前にいる同級生たちの氷像でも作るかな?
そう考えて、うまく削り出す。
すぐに4台の像を作り出して、同期生たちの顔を見ると、目がキラキラ輝いてる。
「おー!これ、俺だな!」
リックが嬉しそうだ。
「これは私!」
同級生の仲で1番元気な女の子のセルファはすぐに自分の像に抱きついてる。
「これは僕かな……?」
怯えたように言う、少し臆病者のミンク。
「すごいね!ヴォルクス!」
アンリは氷像じゃなくて、俺の方を見て、興奮気味にそう言ってくれる。
先生は……と思ってそっちの方を見ると、衝撃で目が点になってるみたい。
うーん。ちょっとやり過ぎたかな……?
「こ、ここまでのもの作るのには、魔力が数千は必要なはずじゃない……?この年齢でこれだけの魔力を持ってたら、中等学院に進むころには、何万ぐらいに……。そして、そんな生徒を育てたってことになれば私の評価もどんどん上がって、給料も……」
ん?なんか、ぶつぶつ言ってるところで、変な言葉が聞こえてきてる気がするけど……まぁいいか。先生も給料上がるなら嬉しいだろうし!
「は、はい。ヴォルクス君みたいに凄い魔法を使えるようになるように、みんな、頑張って勉強しましょうね!」
先生、さすがプロだなぁ。
すぐに頭を切り替えて先生やってる。
「「「「はい!!!!」」」」
4人が嬉しそうにそう言ってくれた。
よかった。やる気出してくれたみたいだ。
それから、俺も先生と一緒に魔法の使い方を教えることになった。
どうやら、このまま俺に合わせて教えると他の生徒たちが誰もついてこられないと判断されたっぽい。
正直、新しいことを教わるつもりでいた俺は少し残念だったけど、しょうがない。みんなもしっかり使えるようになった方がいいに決まってるもんね。
「いや、だからさ。集中すれば波動が感じ取れるだろ。うーん、ただ集中するんじゃなくて、自分の体の中にある魔力の種と体の外にある魔力の波動を共鳴させようとする感じで……」
なんとなく身につけた感じになったものをうまく説明するって難しいよね。みんなが全然わかってない感じだったから、ちょっとショック。
「いい?みんな。ヴォルクス君の言ってることは正しくて。私たちには体の中に魔力っていうのを持っています。体を動かすには筋肉が必要でしょ。それと同じで、魔法を使うには魔力がいるわけです。みんな、腕に力を入れてみましょう」
そう言って先生が力こぶを作って見せる。
いや、先生のは力こぶって感じじゃなくてただ腕を上にやって少し力入れてるだけだけど。
「こうすると、筋肉がわかるよね。普段意識してないけど、ちゃんと意識すればあるんだってことがわかります。それと同じように、魔力を使おうと意識することがまずは大切。ちょっと、セルファちゃん、こっち来てくれるかな」
そう言って、先生がセルファを自分のほうに呼んでセルファと手をつなぐ。
「いいかな?薄く魔力をセルファちゃんに送り込むから、自分の中で何か受け取ったと思ったら、それが自分の体の中にあるんだってことを意識してみて」
魔力を送り込む……?と思って先生とセルファのほうを見ると、確かに魔力の波動がうすーくセルファに送り込まれているのがわかる。
すげぇな。こんなこともできるのか。知らなかった。
「あ、わかるかも。あ、見えた!あれ?見えなくなっちゃった」
一瞬先生のおかげで波動が見えるようになったセルファもすぐに見えなくなってしまったようだ。まだまだ集中力が足りないってことなんだろう。
「うん。まだしっかりと掴みきることは難しいよね。けど、魔力があるんだってことがわかったら、あとはもう少し頑張れば使えるようになります。さて、みんなもう少し頑張ってみましょう!ヴォルクス君は、魔力を送り込むことはできそう?」
「うーんと、やったことないからわかりません」
「そう。それなら、とりあえず試しにそこの人形に対してやってみようか」
どうやら、魔力を送り込む作業の実験用の人形があるらしい。
先生曰く、これもばあちゃんの製品なんだって。これがある前は、人で実験するしかないから最初は魔力を送り込みすぎて送り込んだ相手の体調を悪くさせちゃったこともあったらしい。
さすがに、そうするわけにはいかないからね。
「外のを使うのと同じで、自分の体内と手を握った人形との波動を感じ取って?そうそう。」
わっ。確かに人形から魔力が出てるのを感じる。その人形の魔力を掴んで、そこに対して自分の体内の魔力を少しずつ、水を注ぐように傾けてっと……こんな感じかな?
「おっ、うまくいったね。ちゃんと人形の目が青くなってる」
先生がそういうから、人形の目を見てみると、確かに今まで黒かった目が青くなっている。
「ヴォルクス君、もう少し多く注ぎ込んでみてくれる?そうそう。今度は赤くなったでしょ」
先生の言う通り、注ぎ込む量を少し多くすると目が赤くなった。
「これは目に魔力の注ぎ込み方で色が変わるようにしてある魔石を組み込んでいる人形でね。すぐにどのぐらいの量が適切かがわかるようになってる道具なの。さて。ヴォルクス君も魔力の受け渡しができるようになったから、もう少しみんなで練習しよう!」
そういうと、先生はセルファとミンクの手を取って魔力を注ぎ込む。
とりあえずみんなが自分の魔力を感じ取れるようになるまでこの練習をするらしい。
俺も、リックとアンリと手をつないで魔力を注ぎ込み始める。
「おっ。すげぇ」
「わっ。魔力ってこんな感じなんだ」
リックもアンリもすぐに感じ取れたらしい。この感じがわかればすぐに使えるようになるかな?
……と思ったけど、そんな簡単なものじゃないみたい。俺は集中力がそこらの幼児とはちがうみたいで(そりゃそう)すぐにうまくいったけど、普通はこんなにうまくはいかないんだって。
「はい、みんな。難しいよね。そこで、もう少し簡単に魔法を使う方法を試してみたいと思います」
そう言って先生は今度は地面にきれいな円を描き始める。その円の中に六芒星?三角形と逆三角形を書き込む。
「はい、これは魔法陣です。簡単な魔法陣だから、火と水と氷と風の簡単な魔法しか発動できないけど、これを使うと、簡単に魔法を使えるよ」
そう言って先生は魔石を陣の中央に置く。
そして、少し手をかざすとすぐに小さな火の塊が魔法陣の中央に現れる。
「これは魔法陣術っていって、なかなか魔力の感じがつかめない人が最初の練習に使うものです。魔石はそのもの自体が魔力の波動を掴んでくれるものだから、これを使うことによって簡単に扱えるようになります。さらに……」
そう言って今度は魔石を砕いて魔法陣の三角形の各辺にも魔石を配置する。
「こうして、同じ量の魔石でも各辺に置くとさらに大きな魔法を使えるようにもなります」
そう言って手をかざすと、さっきよりも大きな火の塊が魔法陣の中央に出現する。
すげぇー。魔法陣術なんてあるんだ。
「え、先生!これってさっき言った四つの魔法しか使えないんですか?もっといろんなところに魔石を置けばもっと大きな魔法になるんですか?」
「あれ?ヴォルクス君も知らなかったの?えーっと、魔法自体は陣の書き換えによっていろいろと使えるようにはなります。図書室に魔法陣がいくつか書かれた本があるので詳しくはそれを読んでください。魔石は確かにたくさん置けば強い魔法になると思うけど、そんなにたくさん置いて試したことないからわからないな。ごめんなさい」
魔法陣か。いいよな。錬金術とかあんのかな。
魔法って言ったら魔法陣だし、錬金術って言ったら魔法陣だよな。ほら、あのはが……おっほん。それは前世の話だった。
けど、こんな方法あるなんて知らなかった。
「ただ、魔法陣はあくまでもサポートにしか使えないからね。結局、力の大きな魔法は自分の中の魔力を使った方がやりやすいし……」
そう言って微妙な表情をする先生。
いや、でもいいんだ。魔法陣で魔法使えるってだけでテンション上がるから。
よーし、あとで本読んでみようっと。
「はい。それでは、今日の魔法の授業はおしまいです。これから毎日挑戦してみるから、みんなで頑張って魔法を使えるようになりましょう!」
『はい!』
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