第1部ですっ!

第1章ですっ!

第1話ですっ!


 「……ふぅ~~~~~~~~~…………。

 ────やったぁあああああああああああっっっっっ!!!!!!

 念願のっ、赤竜討伐ぅうううううううううっっっっっ!!!!!!

 ひゃっふぅううううううううう~~~~~~~~っっっっっっ!!!!!!!!!!」



 神聖なる戦闘が、いま終了しました。


 ドスンッという鈍い音を立てて墜落した赤竜が動かなくなるを慎重に確認すると、わたしは人目をはばからずに狂喜乱舞しました。


 その場で飛び跳ねたり。

 全身を使って高速でクルクル回ったり。

 連続でバク転したり。

 手に持つ長杖をあらんかぎり振り回したり。

 出したこともないほどの大声で叫んだり。


 まったくもって、端から見れば、ただの不審者でしょうけど……。


 それから数分後。



 わたしはひとしきり歓喜に身を任せ終わると、改めて目の前の巨体を見つめながら、ツラい過去を思い出して独りごちます。



 「やっと……やっと、竜種を倒すことができました。

 これでわたしもっ、立派ないち魔女になれたんだっっっ!!!!!」



 思わずガッツポーズをしながら、再度にわたり叫んでしまいます。


 そう。いわゆる魔女になるためには、成体の竜種を一人だけで討伐しなければならないのです。


 ゆえに魔女の絶対数はごく少数です。


 そんな、わたしの長年の憧れである魔女に、今日、やっとなれることができるのです。



 そりゃあ少しぐらい、狂喜乱舞するのも許されるでしょう。……多分ですけど。


 わたしはすっかり夜もふけ、夜のとばりが降りた『大森林』から、上空へと目を離します。


 すると、今回わたしの魔女試験を見守ってくださった方々が自然と目に入りました。


 それは三角状に並ぶ、三種の月。



 赤い月は────赫月。


 青い月は────蒼月。


 緑の月は────翠月。



 この世界では、それぞれの月に神が宿るといわれ、人々にたいへん崇められているのです。



 赫月に宿るは────戦神アレス。


 蒼月に宿るは────美神アフロディーテ。


 翠月に宿るは────弓神アルテミス。



 わたしがいま行っていた魔女試験では、


 この三神が浮かぶ、満月の夜に竜種討伐を、行わなければならないのです。


 これを三神の儀といいます。


 今から三千年前より受け継がれてきた、れっきとした伝統の儀式なのです。



 「ありがとうございます三神さまっ……!

 あなた方さまのおかけまで、やっとやっと、念願の魔女になれますっ……!!

 ありがとうございますっ!

 ありがとうございますっ!

 ありがとうございますっ────……!!」



 わたしは天に向かって、ありったけの感謝の念を飛ばしました。


 それはさておき、わたしはどうしようか迷いました。


 このわたしが討伐した赤竜、どうすれば────と。


 本来なら、事前にお願いした公理魔女協会の特別試験官さまがこちらに来ていただき、今回の結果発表をしてくれるはずなのですが…………。


 わたしは疑念を抱いたまま、三神さまへの感謝の念を終えます。


 そして、「このままひとり取り残されるのでは……!?」とびくびくおどおどしながらその場で突っ立っていますと、ふと、背後に気配を感じました。


 長杖を胸の前で抱きながら、おそるおそる背後へ振り向くと、そこには、全身に黒装束を身にまとう、ひとりの女性がいたのです。

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