新人魔女のわたしは魔法が使えない。~誰でも扱えるとまでいわれる最下級の身体強化魔法だって、立派な魔法のひとつですよ? ~

田仲らんが

ぷろろーぐですっ!


 「ねぇ、ラナ。

 アナタは将来、何になりたい?」



 それは遠い遠い、おぼろげな記憶。


 過去の、記憶。


 孤児こじだったわたしを、女手おんなでひとつでそだててくれた、たったひとりの、自慢の親だったひと。


 このときのわたしはまだ幼く、なにをいっているのかを、あまり理解りかいしていなかったがします。



 「……?

 うーんとねっ!

 うーんとねっ!

 なにになりたいーっ?」


 「……そうよ。

 将来、アナタがおおきくなったとき、何になりたいか。

 もう、めてる?」


 「う~~~~~ん…………。

 えとえと、ラナはねー…………、

 ────うんっ!

 ────マリンみたいになりたいっ!!」



 そう。わたしにとって、育ての親《であるマーリンは、自慢の母であり、ひとりの女性として、憧れでした。


 ────強くて。


 ────優しくて。


 ────めんどう見がよくて。


 すっごく────好きでした。


 もちろんいまでも────大好きですが。



 「っ、もしかして、〈魔女まじょ〉に……?

 ……なんでかしら?」



 マーリンが魔女だったことは、


 あとで知ったことです。



 「んー?

 だってだってぇー、マリンはー、わたしのことー、そだててくれたでしょー?

 だからわたしも、マリンみたいに、なりたいのーっ!」



 たぶんですけど、このときのわたしは、マーリンみたいになりたいだけで、魔女になりたかったわけでは、ないと思います。


 魔女になりたいと初めて思ったのは、マーリンが魔女だと知ってからですから。



 「ふふっ、うふふっ……。

 まったく、もう。

 なによ……それ。

 私みたいになりたい、だなんて……。

 ほんとうに……おかしいわ……」



 そして、このときのマーリンの哀しそうな表情は、いまでもわすれられない、苦い記憶です────……。


 なぜマーリンがこのとき、哀しそうな表情をしたのかは、いまとなってはわからないことです。


 なぜならマーリンは、五年前に行方不明になってから、いまだ行方知らずだからです。



 ────ねぇ、


 ────マーリン。


 ────わたしはいまでも、


 ────がんばってるよ…………?


 ────あなたはいったい、


 ────どこに、いるの…………?



 ☆ ☆ ☆




 フェルメーラ帝国・竜災の大森林・最奥部




 「────はぁあああああああああああああっっっっっっ!!!!!!!!」



 美しき白銀の燐光を、


 総身に満遍なく纏ったローブ姿の少女。


 その少女が、一瞬にして敵に肉薄する。


 そして、下手をすれば折れてしまうのでは? と思うほど細い手に持つ長杖を目の前の巨大な敵に目掛けて、光速で振り抜く────。



 「────どっせぇええええええええええいっっっっっっっ!!!!!!!!」



 少女らしからぬ気合いの咆哮。


 銀閃の軌跡を描く、絶大な破壊力を秘めた一撃が、敵の腹部に改心の直撃する。


 耳朶をつんざくような爆発音が、周囲一帯に轟いた。



 「────ッ!?

 ッ″ガァ″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″────────ッ″ッ″ッッ″!?!!!!!!!!」



 すでに少女の獲物へとなりさがった敵は、自身へと降りかかった容赦のない一撃に、思わず悲痛な叫声をあげてしまう。


 少女の手に持つ長杖から放たれた、猛烈極まりない爆裂振動波により、小山ほどある巨体が、重力を感じさせないほどの速度で天高く、跳が上がる。


 すると、周囲の森林からクッキリと浮き彫りになった。


 その結果、目の前の巨体の正体が露見した。


 マグマの如き灼熱を有す、紅き鱗。


 常人ならば、一目みただけで震え上がる、黄金の眼。


 成人の数倍はあろう鋭利な爪に、カッターのような鋭い疾風を生み出す、大翼。


 その姿は、紛れもない、赤竜だった。


 だが、様々なおとぎ話などの伝説で語り継がれるほどの最強種である、竜種。


 その竜種が、今では先の少女による攻撃で力尽き、無様に仰向けで倒れてしまっている。


 対するは、さきほど、この赤竜を長杖でおもいっきし殴り飛ばした、とんでもない怪力の持ち主。


 その容姿はまだ幼さが残る、あどけない少女である。


 そう。全種族間で最も弱小と揶揄される、あの人族だったのだ────────…………。

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